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AI作家  作者: 社畜太郎
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第四話

「大変なことになった」


翌朝。


樋口が編集部の扉を開けた瞬間、そう言った。


いつもの冷静な樋口ではなかった。


「何が」


鵜飼が聞く。


樋口はスマホを机に置いた。


画面には、ニュース速報。


『人気作家・日向海 AI使用疑惑』


「大騒ぎだ」


樋口は言った。


「書店から問い合わせが殺到している。返品の相談も出ている」


「……」


「アニメ化の話も一旦停止。関連企業も対応に追われている」


少し間。


「それだけじゃない」


樋口は続けた。


「出版社自体への批判も始まっている。株価も落ちた」


鵜飼は画面を見る。


コメント欄。


怒り。


失望。


悲しみ。


様々な言葉が流れていた。


『裏切られた』


『あの感動は嘘だったの?』


『作者を信じて読んでいたのに』


そして。


もっと酷い言葉。


『詐欺師』


『気持ち悪い』


『おっさんが女子高生を書くな』


個人情報を探す動きまで出ている。


「……」


鵜飼は黙った。


「で」


樋口が言う。


「どうなんだ」


「何が」


「本当にAIだったのか」


鵜飼は答えなかった。


「先生は?」


「沈黙」


「……」


「コメントを出さない」


樋口は苦い顔をする。


「ゴーストライターの可能性もある」


「でも?」


「でも、あれだけの作品を書ける人間がいるなら、とっくに作家として成功してる」


鵜飼は画面を見る。


「じゃあ」


「分からない」


樋口は答えた。


「だから余計に燃えている」


テレビから声が流れる。


『現在、日向海先生の自宅前には報道陣が集まり――』


映像には、住宅街。


マイクを持った記者。


カメラ。


近所の人への取材。


「……」


鵜飼は目を伏せた。


「なあ」


鵜飼が言った。


「もし」


「何だ」


「もしAIを使っていたとして」


鵜飼は画面から目を離さなかった。


「それの、どこが悪い?」


樋口の眉が動く。


「……は?」


「いや、違う」


鵜飼は手を上げた。


「もちろん、契約や表示の問題はある。読者に説明していなかったなら、それは別の話だ」


「じゃあ何だ」


「俺が言いたいのは」


鵜飼は本棚を見る。


「AIを使った瞬間に、その作品の価値はゼロになるのかってことだ」


樋口は黙った。


「例えばさ」


鵜飼は続ける。


「写真……。昔、写真が出た時。画家たちは何て言ったと思う?」


「……」


「『機械に景色を写させるなんて芸術じゃない』だ。……でも今、写真家は芸術家として認められている。カメラという道具を使っているのに」


樋口が返す。


「カメラはただの道具だ」


「AIもそう考える人間はいるだろ」


「違う」


即答だった。


「何が?」


「カメラは、撮る人間の意思をそのまま残す」


樋口は言う。


「どこを撮るか、何を切り取るか、どの瞬間を残すか。そこには人間の判断がある」


「AIだって」


鵜飼が言う。


「指示する人間がいる。どんな文章にするか。どんな展開にするか。それを何度も修正するんだ。それなら共同制作じゃないのか?」


樋口は首を振った。


「問題はそこじゃない」


「じゃあ?」


「作者が何を背負っているかだ」


樋口は静かに言った。


「小説って、ただ文章を並べる作業じゃない。その人間が何を見て、何を感じて、何に傷ついて、何を伝えたいと思ったか。そこまで含めて、作品になる」


鵜飼は黙る。


「今回の作品」


樋口は机の上の本を見る。


「読者は何に感動した? 那奈子が、周りに否定されても自分を信じたこと。病気になっても諦めなかったこと。家族の支え。……その全部だ。でも」


樋口は続ける。


「その裏側にいた作者が本当は何も経験していない。何も感じていない。ただAIに命令していただけだったら?」


「……」


「読者は違うものを受け取っていたことになる」


鵜飼は少し考えた。


「でもさ」


「何だ」


「作家だって全部経験しているわけじゃない。殺人を書いたミステリー作家は、殺人を経験しているのか? 異世界を書く作家は、本当に異世界を見たのか?」


樋口は黙る。


「想像力って」


鵜飼は言った。


「存在しないものを作る力だろ。だったらAIを使って想像力を拡張することも、創作じゃないのか」


しばらく。


誰も言葉を出さなかった。


そして。


樋口が小さく言う。


「だからこそ」


「何?」


「だからこそ、作者は言わなきゃいけなかった」


「……」


「自分が何をしたのか。どこまで自分で作ったのか。何をAIに任せたのか。そして作品から、何を伝えたかったのか」


樋口は画面を見る。


「読者は、作品だけじゃなく、その向こうにいる人間と、その伝えたいメッセージを信じて読んでいる。だから裏切られたと思っている」


鵜飼は黙った。


その時。


テレビから速報音が鳴った。


二人は画面を見る。


そこには。


日向海の自宅前。


集まる報道陣。


そして。


警察車両。


『速報です――』


キャスターの声が震える。


『日向海先生の死亡! 死亡が確認されました! 自殺! 自殺とのことです』


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