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AI作家  作者: 社畜太郎
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第二話

鵜飼は本を手に取った。


ページをめくる。


そこには、日向海本人によるあとがきが載っていた。


『この作品を書こうと思ったきっかけは、誰かを応援することの大切さを伝えたかったからです』


一見すれば、普通のあとがきだった。


しかし。


「……普通じゃないか?」


鵜飼が言う。


樋口は首を振った。


「そこじゃない」


「じゃあどこだよ」


「文章」


「文章?」


「本文と比べろ」


言われるまま、鵜飼は数ページ前を開いた。


主人公が、ライブ前日に不安を吐き出す場面。


震える指。


誰にも言えない孤独。


それでもステージに立つ覚悟。


数百文字の中に、細かな感情の揺れが描かれている。


まるで、そこに本当に一人の少女がいるように。


そして、再びあとがきを見る。


『読者の皆さんに楽しんでもらえたら嬉しいです。これからも頑張ります』


短い。


悪く言えば、平凡だった。


「……」


鵜飼は黙る。


「な?」


樋口が言った。


「違和感あるだろ」


「でもさ」


鵜飼は本を閉じる。


「作者の文章と作品の文章が違うことなんてあるだろ」


「ある」


樋口は即答した。


「だから俺も、最初は気にしてなかった」


「じゃあ何で?」


樋口は少し迷った。


「別の話もある」


「別?」


「ああ」


樋口は机に肘をついた。


「俺の先輩が、出版前に日向先生へ修正をお願いした」


「どんな?」


「本当に小さいところだ」


樋口は指で机を叩く。


「一文の表現」


「それくらいなら、その場で直すだろ」


「普通ならな」


樋口は言った。


「先輩もそう思った」


「で?」


「日向先生は言った」


少し間を置く。


「『一度持ち帰って考えます』」


鵜飼は眉を寄せた。


「それだけ?」


「ああ」


「別に普通じゃ」


「その一文を直すだけで、一日かかった」


「……一日?」


「先輩は怒っていたよ」


樋口は苦笑する。


「『プロの作家なら、あんな修正に一日も悩むか』ってな」


「いや、でも」


鵜飼は考える。


「こだわりが強い作家もいるだろ」


「ああ」


樋口は頷いた。


「俺もそう思いたい」


「……」


「でもな」


樋口は声を落とした。


「誰も見てないんだ」


「何を?」


「日向先生が小説を書いているところ」


沈黙。


編集部の周囲の音だけが聞こえる。


キーボードの音。


電話の音。


誰かの笑い声。


その全部が、急に遠く感じた。


「……」


鵜飼は小さく息を吐く。


「つまり」


「そうだ」


樋口は答える。


「疑っている人間がいる」


「AI作家だって?」


「ああ。俺の直感もそう言っている」


「だいぶ強引だぞ。でもさ」


鵜飼は言う。


「もし本当にそうなら」


樋口を見る。


「とんでもないぞ」


「ああ。出版された本だ。賞も取った。アニメ化も決まってる。だから問題なんだ」


樋口は静かに言った。


「もし嘘なら、今ならまだ止められる」


「……」


「アニメ化が始まる前に」


鵜飼は椅子にもたれた。


「で?」


「で?」


「俺に何をしろって?」


樋口は少し笑った。


「決まってるだろ」


「嫌な予感しかしない」


「調べろ」


「は?」


「日向海が、本当にこの作品を書いたのか」


鵜飼は呆れた顔をする。


「俺、適当な窓際社員だぞ?」


「知っている」


「編集のプロフェッショナルじゃない」


「でも」


樋口は言った。


「この会社で一番、本を読んできたのはお前だ」


鵜飼は黙った。


昔の自分なら。


きっと喜んで引き受けただろう。


未知の作家。


謎の作品。


隠された真実。


しかし今の自分は。


「……面倒なことになりそうだな」


そう言いながら、鵜飼は本を閉じた。


『可愛すぎるの、何が悪い?』


表紙の少女は、笑っていた。


まるで。


何も知らないように。


「分かったよ」


鵜飼は言った。


「調べる」


その瞬間。


十年前に置いてきたはずの情熱が。


ほんの少しだけ、戻った気がした。


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