表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI作家  作者: 社畜太郎
PR
2/7

第一話

『「自分のかわいいを、認められる。そんな、身近で応援してくれる作品なんです」


そのように町中の女子高校生たちが語る、今もっとも注目を集める覆面作家・日向海。その衝撃のデビュー作品が、『可愛すぎるの、何が悪い?』である。


小説投稿サイトに掲載されるや否や、大きな話題となった。


物語の主人公は、とある田舎町に暮らす女子高校生。


いじめや病気。


数々の困難を抱えながらも、憧れのアイドルになる夢を追いかけ、ネット配信を通じて成長していく。


設定だけなら、決して珍しい作品ではない。


しかし、この作品が多くの読者を惹きつけた理由は、その先にある。


周囲の評価に傷つき、自分自身を嫌いになりながらも、それでも「私は私でいい」と前を向く主人公。


その姿に、多くの若い読者が共感した。


第一話の公開からわずか数日。


作品は瞬く間に拡散され、書籍化。


発売後は数々の賞を受賞し、来年にはアニメ化も決定している。


文芸評論家の大野雄氏は語る。


『非常にポップな題材でありながら、現代の若者が抱える孤独や葛藤を丁寧に描いている。


特筆すべきは文章力だ。軽やかな文章の中に、登場人物の感情が細かく刻まれている。これほど新人離れした表現力を持つ作家は珍しい』


また、主人公を支える両親の描写も評価され、幅広い世代から支持されている。


『一人の親として読んでも、胸を打たれる作品だった』


そう大野氏は締めくくった。


来月、乃木国屋書店で初のサイン会が予定されている――。


「……すげえ人気だな」


パソコンの画面を見つめながら、鵜飼は呟いた。


「なんだ。羨ましいのか?」


向かいの席から、樋口が言う。


「違う」


鵜飼は即答した。


「ただ、すげえなって思っただけだ」


都内にある大手出版社。


編集部の一角で、入社十年目の同期二人が向かい合っていた。


かつて鵜飼は、本気で夢を見ていた。


自分が見つけた新人作家が、世の中を変える。


そんな作品を、自分の手で送り出す。


しかし十年という時間は、少しずつ人を変える。


今の鵜飼が考えることは、どうすれば会社でうまく生き残れるか。


それだけだった。


そんな鵜飼とは正反対に、樋口はまだ熱を失っていない。


面倒なほど真面目で、面倒なほど本気な男だった。


「じゃあ、何が引っかかってる?」


樋口が聞いた。


鵜飼は画面を見る。


「いや……」


少し考える。


「投稿サイトから出てきて、いきなりこれだぞ」


「そんなデビューで、“何が悪い”?」


「悪いとは言ってない」


鵜飼は笑った。


「俺も昔はさ。自分が時代を変える作品を見つけるんだって、馬鹿みたいに企画書出してた」


「今は?」


「今?」


鵜飼は肩をすくめた。


「こうして細かい修正と契約確認」


「……」


「まあ、現実ってそんなもんだろ」


「負け犬発言だな」


「ひでえな」


二人は笑う。


しかし、樋口だけは笑っていなかった。


「俺はまだ覚えてるぞ」


「何を?」


「入社した時のお前の言葉」


樋口は言った。


「自分の担当した本で、世の中を驚かせる」


鵜飼は少し黙った。


「……よく覚えてるな」


「忘れるわけない」


樋口は言った。


「俺はまだ、その言葉を信じてる」


「はいはい」


鵜飼は話を戻す。


「でも、本当にすごい作品だよな」


画面を見る。


「女子高校生の心理描写なんて、まるで本人が経験したみたいだ」


「……そうだな」


樋口が答えた。


「だから変なんだ」


「え?」


「日向先生」


樋口は画面を見る。


「男性だぞ」


鵜飼の手が止まった。


「……日向海ひなた・うみが?」


「日向海(ひなた・“かい”)。男だ」


「嘘だろ」


「しかも」


樋口は続けた。


「六十代。元地方公務員」


「……」


「定年退職した男が、女子高校生アイドルの物語を書いている」


鵜飼は画面を見る。


「いや……まあ、才能ってそういうもんじゃ」


「そうだな」


樋口は頷く。


「だから、余計に気になる」


「何が?」


樋口は少し間を置いた。


「“噂”だ」


「噂?」


「ああ」


樋口は声を落とした。


「日向先生、本当に一人で書いてるのかって」


「……」


「AIを使ってるんじゃないかって」


鵜飼は笑いかけた。


しかし。


笑えなかった。


「……まさか」


樋口は答えなかった。


ただ、一冊の本を机に置いた。


『可愛すぎるの、何が悪い?』


「読んでみろ」


「何を?」


「あとがき」


鵜飼は首を傾げる。


樋口は静かに言った。


「そこから、全部おかしくなる」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ