↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部9章「トリコロール・ナイト」クレリス-闘機の惑星
645/649

インターミッション『ママの記憶』クレリス-選道の惑星 #1

 お祭りは楽しいけど、その後にやってくる寂しさが大きくなる。

 だからお祭りは嫌い。


 がらんとした寮の部屋で、窓の外を1人眺めながら、アウレリア・ローラ・セレスセラはそんな事を考えていた。


 子供のような癇癪で家を飛び出し、恒星間航行を行う豪華客船(プライアローズ)に飛び乗った。

 自分の家族は皆、普通の人間よりも遙かに寿命が長い。

 だから、十数年ぐらいの家出なら、実家に戻れば皆がまたこれまで通り笑顔で迎えてくれる。そう思っていたのに。


 乗り合わせた豪華客船は事故で遭難し、緊急避難した冷凍睡眠ポッドの中で眠りに就いて……目が覚めた時には900年以上の歳月が経過していた。


 実家のあった星は荒廃した人の住めない場所になっていたし、いかに家族達が長命といっても900年の歳月はあまりにも長すぎた。

 つまり、アウレリアは……永遠だと思っていたものをすべて、一瞬のうちに失った。


 一番喪失感が大きかったのは、大好きだったママを喪った事だ。

 フローラ・セレスセラ。

 エトワールと呼ばれる、歌を司る人造の存在にして、故郷である惑星ボタニカでは女神と崇められていた女性。

 だが、アウレリアにとってのフローラは女神ではなく、あくまでも優しい「ママ」だった。


 だからアウレリアは冷凍睡眠から目覚めたとき、目の前にいた長い銀髪と虹色の瞳を持つ人物がママであると信じて疑わなかった。

 フローラが、事故に遭った自分を心配して探しに来てくれたのだ、と。


 だが、実際は違った。

 トワ・エンライトと名乗った少女はママと瓜二つで、ママと同じエトワールではあったが、別人だった。


 その後、トワ達の助けを得てアウレリアはフローラの血縁者が住む惑星アノインティングへ送り届けられた。

 そこで出会ったのは、姉の遠い子孫であるフローラ・リルカ・セレスセラ。


 どこかママに似た空気感を纏う彼女は、アウレリアのことを妹として受け入れてくれた。

 実際には、血縁関係的にも、実年齢でもアウレリアの方が随分と年長者だったのだけど。


 アノインティングでの滞在中、アウレリアは今後の身の振り方について随分と悩んだ。

 リルカは当然のようにアウレリアがアノインティングに留まり、セレスセラの一員として一緒に生活するのだと主張していた。

 それは確かにアウレリアにとっても一番穏当な身の振り方だと思えた。


 一方でアイリス達からは、ギルドのシンガーとなる道があることを示唆された。

 ただ、アイリスもアリサも、その道はあまりお勧めしないとは言っていたが。おそらくこの道を選べば、アウレリアはセレスセラとは縁を切る形になるだろうから。


 もちろん、アウレリアはセレスセラと縁を切るつもりはなかったし、ママが毛嫌いしていたギルドの一員になる気はさらさらなかった。


 けど、一方で自由に宇宙を旅して回る、シンガーという職業に対する憧れのようなものがあったのもまた事実だ。


 最終的に自らの進路を決めかねたアウレリアは、ロスタイムを得ることを選んだ。


 2年間の留学。

 どのような身の振り方にするにしても、900年という刻の流れによる知識や価値観のギャップは大きい。

 今、性急に将来を決めるときっとこの先後悔すると考え、知識をアップデートしながら将来を考えるため、アウレリアはクレリスへ留学した。


 あえて他の星へ留学したのはゆっくりと将来を考えたいという理由もあったが、急に妹のような存在が出来て過保護な姉欲を爆発させるリルカから逃れるという意味もあったことは、リルカには秘密にしたが。



 そして退屈ながらも平穏な留学生活が始まる。

 無駄に派手な夜会も、セレスセラという星間企業とのコネを求めて群がって来る男達も、煩わしかった。

 だが毎回夜会への招待を断り続けるとリルカやセレスセラの評判を下げることになりかねない。

 そう思いながら、嫌々と参加した夜会で……アウレリアは思わぬ人物から声を掛けられた。


「アウレリア」

「え?……あれ?アイリスさん?どうしてここに?」


 ワインレッドのドレスを身に纏った、自分よりもさらに小柄な少女。

 美しい赤い瞳。

 人なつっこい笑みを浮かべて声を掛けてきたのは、自分を冷凍睡眠から救い出してくれたアイリスだった。

 意外な場所での再会に、アウレリアはクレリスに来て初めて、心からの笑みを浮かべた。


 その後、アウレリアは1月近くアイリスとマリエッタの元で暮らし、それまでとは違った充実したキャンパスライフを満喫した。



 だが、祭りはいつか終わりを迎える。


 アイリス達の留学は1ヶ月という短期間のものであり、ギルドの管理官という多忙極まりない立場であるアイリスは慌ただしくクレリスを去って行った。


 だから今、アウレリアは……1人で使うことになったブランシェリリのC棟301号室で、1人アイリス達が旅立った星空を眺めている。



 留学3ヶ月目となる次の1ヶ月は、アウレリアにとって苦痛でしかなかった。


 確かにブランシェリリ寮の学生達はローズリュージュ寮の学生よりも親しみやすく、ドローンバトルを通じて気軽に話せるエミールのような友人も出来た。


 だが、それでも……アイリスと行動を共にしていた1ヶ月と比べると、彼女が去った後のキャンパスライフはあまりにも彩りに欠けていた。

 輝くばかりの存在感を放つアイリスという少女は、アウレリアの中で、まるでママのように大きな存在になっていたのだ。


「ギルドに就職したら、ボクもアイリスさんと一緒に旅が出来るのかな……」


 つい、そんな独り言が口を衝て出るほどに。


 とはいえ、例えギルドに所属していたとしてもアウレリアがアイリスに同行できる可能性は低いだろう。

 なぜならアイリスの隣には、最高峰と言われるSランクのシンガー能力を持つアウレリアよりもさらに優秀な、SSランクのシンガーであるトワが常に寄り添っている。


 つまりいくらアウレリアが願ったとしても、アイリスの隣にはアウレリアの居場所など最初からなかったのだから。



 暮れなずむブランシェリリの中庭に、まるでオブジェのように飾られたリリィナイト2を見上げながら、自分の存在価値について思いを巡らせるアウレリア。

 リリィナイト2は大会優勝(賞金獲得)という大役を終え、今後はブランシェリリの勝利を象徴するトロフィー……つまり過去の栄光としてここにひっそりと展示されることになる。


 なら、過去の世界から現世へ舞い戻った自分も、過去の存在としてどこかでひっそりと生きるしかないのだろうか。

 そんな事を考えていた時だった。


「オーロラ!私が来ましたわ!」

「リルカ!?どうして?どうやって?」


 約16パーセクも離れたアノインティングにいるはずのリルカが、何故かそこにいた。


 どうやって、と口にしたアウレリアだったがその理由はすぐに思い当たった。

 トワ達がアノインティングにオンブル――いや、セレスセラ社用のものは確か、パルファンという名になったとトワが言っていた――つまり超光速艇を届け、それに乗ってきたのだろう、と。


「もちろん、パルファンに乗って、オーロラに会うためですわ!」

「仕事は?CEOって忙しいんでしょ?」

「仕事とオーロラ、どっちが大事かなんて言うまでもありませんわ!」


 リルカはそう言うが、もちろん仕事を放り出してきた訳ではない。

 アウレリアに会いに来るために必要な1週間の休みを取るため、パルファンを得てからのリルカは寝食を忘れる勢いで働き続けた。

 そして、それでも仕事が終わらないのでクレリスへの営業活動という理由を付けて、道中も業務をこなしながら無理矢理にアノインティングを離れてきたのだ。


 夕日に照らされたリルカの姿は、アウレリアにはまるで恋い焦がれているママが自分を迎えに来てくれたように見えた。

 リルカの髪色は初代フローラとは少し違う色あいだし、瞳の色も虹色ではなく緑だ。


 だが、夕日に染まった赤い世界の中では、そんな小さな差は気にならない。

 何よりもオーロラというその名は、初代フローラ(ママ)がアウレリアの事を呼んでいた愛称だったから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。