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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部9章「トリコロール・ナイト」クレリス-闘機の惑星
644/649

#29

>>Towa


 とても良い結婚式だった。

 私も故郷の星では結婚式に参列したことがあるけど、あれと同じぐらい厳かで暖かい式だった。


 いつかアイリスやアリサが結婚することがあったら、私がドレスの裾を持って歩こうと思うぐらいに。


 でも、アイリスやアリサのお相手が務まるとしたら、寿命的にテロマーやセレスティエルな男の人だよね?

 今のところ、どちらにも出会ったことが無いし、アイリスもアリサも好みはうるさそうだから2人の結婚ってあんまり想像できないけど。


 ともあれ私達はテレジアさん達に別れを告げ、滞在していたペレジスを後にしてアイリスが留学しているクレリスへ向かうことにした。


 到着予定は留学終了の前日。

 うん、一日ぐらいなら学生してるアイリスの姿を見せて貰ってもいいよね?


 私がそんな事を考えている間にもアリサが定例の1光日前の入港申請を行ってくれていた。


「トワ様、まもなく投錨予定宙域ですが、すぐに向かわれますか?」

「うん。アイリスに早く会いたい」

「承知しました。サクヤ、私達はブリーズで向かいますのでいつも通り留守を頼みます」

『はいよー』


 留守番はサクヤに任せ、私達はブリーズでクレリスの軌道ステーションへ向かう。

 なんだかんだでよく来てるよね、クレリス。

 管制官の人とも馴染みになってるし。


 ブリーズを小型艇用のデッキに停泊して、入星手続きへ向かう。

 早くアイリスに会いたい。

 そう思いながらカンターを抜け、地上へ向かう軌道エレベーターへ急ごうとした時だった。


 カウンターの影に立っていた小柄な人影が、私に向かって急に抱きついてきたのは。


 一瞬、何が起きたのか判らなかったけど、私を抱きしめている人影の髪色はライトブラウン。

 見慣れない髪型だけど、この感触は……!


「トワっ!会いたかったよっ!」

「アイ……リス?」


 そう、私に抱きついているのはアイリスだった。


 そう言えばアイリス、通信の時に時々眼鏡掛けてたり、アリサみたいな髪型してる事があったけど……。


「アイリスさん?わざわざお出迎えですか?」

「アリサ、久しぶり。我慢できなくて迎えに来ちゃったよ」

「アイリス、アカデミーは?」

「昨日で全部用事は終わらせたよ。カルティアからトワが今日来るって聞いたからね」


 そっか、入港申請は私の体感だとほんの2・3時間前のことだけど、クレリスにいたアイリスにとっては一日前の事だから諸々準備を終えて迎えに来てくれる事もできるんだね。


 でも、そんな事よりも!


「アイリス、会いたかった」

「トワ、お姉ちゃんがいなくて寂しくなかった?」

「ぼちぼち」

「ええ……ぼちぼちなの……?」

「アイリスさん、トワ様はこんなことを言っていますけど、時々夜中にアイリスさんの私室へ入り込んで、アイリスさんのベッドで寝ていましたよ?」

「アリサ、告げ口ひどい」

「いや、それは別に構わないけど、何でアリサがそのことを知ってるのかっていう方が気になるかな?」


 うん。私、時々寂しくなってアイリスのベッドで寝てたんだよね。

 でもそんなことはどうでもいい。だって1ヶ月ぶりのアイリスなんだから。


「ところでアイリスさん、マリエッタは?一緒ではないのですか?」

「休暇の最終日は皆でクレリス観光しようと思ってね。マリエッタには下(地上)でビークルの手配して貰ってるんだよ」

「じゃあ、あまり待たせないように、私達も下へ降りましょうか」


 アリサに促され、私達は軌道エレベータへと向かった。


 もちろん、私とアイリスは手を繋いだままで。



>>Iris


 昨日、カルティアからアルカンシェルの入港申請があったと連絡を受けた私は、マリエッタに諸々の手配を任せて朝イチで1人軌道ステーションへと向かった。

 本当はアカデミーで2人が来るのを待っていても良かったんだけど、1ヶ月ぶりにトワに会えると思うといてもたってもいられなかったんだ。


 入港してくるのはアルカンシェルではなく小型艇のブリーズだろうから、展望デッキで見ていてもおそらくトワの到着に気づけないだろう。

 そう思った私は入星手続きカウンターへ向かい、そこでトワとアリサが到着するのを待つことにした。


 どう声を掛けたらいいだろうか?

 この場合、「おかえり」がいいのか、それとも「ただいま」が正解なのか。

 1ヶ月暮らしたことでクレリスに対する愛着のようなものも沸いたけど、私のホームはあくまでもアルカンシェルだ。

 なら、私がアルカンシェルへ戻るから「ただいま」が正解かな?


 ともあれ、ひさしぶりに会うトワが取り乱さないように、穏やかに声を掛けて、姉らしい対応をしないとね。

 そんな事を考えていると、入星ゲートを急ぎ足で抜けてくる人影が目に入った。


 長い銀髪に虹色の瞳。

 白いTシャツの上から羽織った、だぼっとした男のものワークジャケット。

 脚には無骨なワークブーツ。


 その姿を見た瞬間、私は思わずその人影に……宇宙で一番愛しい妹(トワ)に抱きついていた。


「トワっ!会いたかったよっ!」

「アイ……リス?」


 少しきょとんとした様子で私の方を見ているトワ。

 うん、トワだ!

 1ヶ月ぶりのトワだ!

 おかえりとか、ただいまとか、そんな事はどうでも良くなった。


「アイリスさん?わざわざお出迎えですか?」


 穏やかな、でもどこか少し呆れたような声色で声を掛けてきたのは、もちろんアリサだ。


 その声に私はようやく我に返った。

 私、公衆の面前でトワのこと抱きしめてる?

 それも、感情が高ぶって自分が制御出来てない?


 これ、もしかして『絆』が暴走してる?


 ……いや、違うな。

 物心ついてからこのかた、私はトワと3日以上離れたことがなかった。

 私が単独で行動していたのって、カルデクスの時と、この前大図書館でカルティアの相手をさせられた時ぐらいじゃないかな。


 私の人生でこれだけ長くトワと離れていたのは初めてで……つまり、私は寂しかったんだ。


 トワとアリサを連れて軌道エレベータで地表へ向かいながら、私はふと思った。


 たった1ヶ月、それも定期的に連絡を取れる状態で、再会の予定もちゃんと決まっているにもかかわらず、私はトワと離れていることがこんなにも精神的な負担になっていた。


 なら、私が死んでいた期間、トワにとっての1年間は一体どれだけの悲しみと苦しみだったのか……。

 考えるだけでも心が凍りそうになる。

 そう思った私は思わず手を繋いだままのトワに声を掛けていた。


「トワ、ごめんね」

「何が?」

「……色々と」

「ほほう」


 トワは訳がわからないというような感じでそう言うけど、私が今考えている事を伝えるとこの子の古傷を抉ってしまうかもしれない。


 だから、私はそれ以上何も言わず、ただトワの手をぎゅっと握りしめた。


 大きくなるクレリスの地表をじっと見つめ、同じ強さで握り返してくれるトワの手の温もりを感じながら。



「ママ!?」

「ママ?」

「あっ……トワ」

「うん、トワ」


 良くわからないやり取りをしているのは、言うまでもなくアウレリアとトワだ。

 ぱっと見は髪の長さ以外あまり違いのない美少女2人が、同じ声で他人には意味不明な会話を交わしているところをは人目を惹く。


「話はビークルの中で。マリエッタ、戻ったよ」

「はいっ!トワさん、アリサさん、お久しぶりですっ!」

「元気そうで何よりです。マリエッタ、変わったことはありませんでしたか?」

「いっぱいありすぎて、一言では話せませんっ!」


 うん、夜会に寮生活にドローンバトルだからね。

 確かに一言では話すことはできないだろう。


 とりあえずトワ達と一緒に軽く食事でもしながら近況報告をして、そのあとは私達が1ヶ月を過ごしたアカデミーを案内しよう。

 寮長のエミールに許可を取ってあるから、今夜はトワとアリサも寮に泊まって貰って、アカデミー最後の夜を皆で過ごす。


 明日からはまた仕事が――星を巡る旅が待っているからね。

 今日ぐらいは、皆でゆっくりするんだ。


 そう思いながら、私はビークルのアクセルを踏み込んだ。

以上で第3部の前半戦を総括する「トリコロール・ナイト」の物語は終了です。


本日の夕方更新からはアイリス達がクレリスを去った後、留学を続けるアウレリアの物語をお届けします。


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