#28
結局、祝勝会の夜からアウレリアは私達の部屋で暮らす事になった。
いや、これまでにも寝るとき以外の大部分の時間はこの部屋で過ごしてたから、実質的には夜帰らなくなっただけなんだけどね。
とはいえここは2人部屋でベッドも2つしかないから、いつかトワがやったようにベッドをくっつけて3人で川の字になって寝ることになった。
もちろん、私は他人の失敗から学べるタイプなので、ベッドは横向きに使ったよ。
いつぞのトワみたいにベッドの隙間に挟まりたくないからね。
その後、残りの留学期間は何事もなく穏やかに過ぎていった。
私は留学期間を通じて得た知見を元に、今後デモクラスのような出来事を再び起こさないための方法論をいくつか検討し、各分野の専門家とその妥当性について議論を交わした。
私が示した方法はいずれもギルドの立場からみた再発防止策だったから、幾人かの教授は私がギルドの人間だということに薄々感づいたふしはあった。
けど……あえてそれを指摘せず、ニュートラルな立場で対応してくれたのは助かった。
議論の中で教授達もいくつか対策を提示してくれたけど、それらの多くは惑星の行政府に働きかける必要があるもので、内政干渉が禁止されている私達ギルドには実行できないものだった。
例えばギルドの外郭団体を設立して、制裁対象になりうる行政府に忠告するという案は魅力的だったけど、第三者を使った内政干渉がギルド憲章でどう扱われるかは微妙なラインだ。
一度幹部会議で提案してみても良いとは思ったけど、保守的な幹部――特にスゥ局長の右腕であるラドクリフ・ターナー統括局次官とか――からは間違いなくダメ出しされるだろう。
それでも何回かの議論を経て、最終的にギルドに敵対する行政府が生まれないようにするために必要なものは、ギルドが公平かつ強力な組織であることを常に意識させるというシンプルな結論に私は行き着いた。
この方法は2つの要素のバランスが重要で、公平であっても弱腰ではダメだし、逆に強権的すぎても反発を生んでしまう。
これを両立するために、まずギルドが行う商取引……特にC3の売買については基準価格を厳密に遵守することで、どのような相手とでも平等に取引を行う姿勢を遵守すべきだと私は考えた。
「アイリスさんっ、でもそれって普通のことじゃないんですかっ!?」
「基準価格が定められてるってことはマリエッタの言うとおりなんだけどね。けどあくまでも基準であって、固定価格じゃないから」
ギルドが扱うC3は特定の惑星でしか採取できない希少資源だ。
それ故に産出地から離れれば離れるほど、輸送コストがかさみ結果的に取引価格は高騰する。
C3を産出する惑星からすれば、周囲に同じようにC3が採れる星が無ければ高値で売りたいと考えるのは当然のことだろう。
けどデモクラスの件は相場よりも高額な買い取りを行った事がそのそもの発端で、1度有利な取引を行ってしまえばそれが既得権益になり、以降は相手の要望を断りづらくなる。
なら、最初からフェアな取引のみを行い、アンフェアな条件の相手とは取引をしない方が双方にとって結果的に益になると考えたんだ。
「でもっ、それってその星の人達、納得してくれますかっ?」
「そこはギルド側が丁寧に説明するしかないけどね。でも最終的に私達が買い取らなければC3はただの水晶でしかないから」
「うう、専売組織の横暴を感じますっ!」
「……まぁ、否定はしないけど、公平な取り引きっていうのはギルド憲章にも掲げられてるし、裏を返せばギルドの側もC3を渇望する星に高値で売らないってことだから」
むろん、マリエッタの言ったことも懸念点ではあるけど、この案のきもは「ギルドが公正な取引価格を守る」ということだ。
そして公正な取り引きに応じない相手との交易は再考するよう、既に統括局に提案を行っている。
そして次にギルドの強力さを知らしめということ。
こちらは今回のデモクラスに対する制裁をその経緯を含めて詳細に記録に残し、定期的に周知することで教材化を行うという方法を考えてみた。
仮に星の行政府がギルドと敵対しようとしても、民衆がギルドを敵に回すことの意味を知っていれば――少なくとも民主的な惑星であれば――住民達が行政府を止めてくれるであろうと信じて。
「あー、それってボクが生まれたころは普通にやってたよ?けど、そのせいでママはギルドを毛嫌いしてたみたいだけど」
「シンガーの祖であるエトワールに嫌われるってたいがいだよね……。たぶん、ギルドの力を誇示するような告知だったんじゃない?」
「ん……そうだね。ギルドに逆らえば死!って程じゃ無いけど、ギルドは怖い組織みたいな空気はあったかな」
アウレリアが言うように、ギルドが強力な武力を持つことを前面に押し出すとどうしても人類社会との間に軋轢が生まれてしまう。
いくら力を持っているとは言え、私達も人類の一員である以上、共存共栄の道を模索することは必須だ。
「それで、具体的にどうするんですかっ!?」
「まだ詳細は検討中だけど、ギルドにも広報部にでも働いて貰うのがいいかな、って考えてるよ。ギルドの理念や公平性、全力制裁とはどういうものであるかを正確かつマイルドに伝える学習教材とか、ケーススタディとか……まぁそんな感じかな」
つまりギルドが持つ武力をストレートに示しすぎると示威行為になってしまうから、デモクラスという星の失敗を教訓とする形に表現を調整する必要があるってことだ。
私には実際のコンテンツを作る能力はないから、この辺りは広報部に動いて貰うのがいいだろう。
どちらも確実に悲劇を回避出来るパーフェクトな解決方法ではないけど、それでも悲劇の芽を摘むことは出来るはず。
正直な話、モーリオンギルドという組織はC3という文明の生命線を独占する組織だし、技術力も軍事力も……そして経済力も、どのような惑星国家よりも数段優れている。
それ故にギルドは自らの力を縛り、強権を振りかざした支配を行わないためにも、人類社会全体のための公平性を保ちつづけるべきなんだ。
そしてギルドが持つ力は振るうことが出来ないハリボテの力ではなく、振るわないことを選択した力である。
それが本当に必要であれば振るわれる、現実の力であることを示すことこそが……力の行使を遠ざける鍵となる。
これが、1ヶ月の留学を通じて私が得た「答え」だ。




