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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部9章「トリコロール・ナイト」クレリス-闘機の惑星
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#26

「ブリギッタ、オンステージ!」


 マリエッタが発したボイスコマンドを受信したであろうリュミエールが、グラビティスリングを使ってエクソギア「ブリギッタを射出する様が私の脳裏に浮かんだ。

 重力制御によって大気を切り裂きながら、光速の1/600という空間戦闘用ユニットとしては鈍足極まりない……しかし惑星上では目にも留まらぬ勢いで、巨大で鈍重な守護者はマリエッタの元へと馳せ参じる。


 そう、このリング上へ。


「何がオンステ――」


 唐突なマリエッタの言動に呆れた様子で御曹司が発しかけた言葉は、ローゼンリッターとリリィナイトの間に、鋼の巨体がまるで瞬間移動したかのように現れたことで途中で遮られた。

 現れた巨体は横幅3m超、人の上半身を模したかの様な重装甲の機械で、両側には巨大なアームが装備されている。背丈はリリィナイトよりもさらに低いが、あの機体は……。


「ブリギッタ、タッチして!」


[Ready.]


 マリエッタの言葉にブリギッタはリリィナイトの残った右腕を掴み、リング外へと放り投げた。

 いや、そのまま投げるとリリィナイトが壊れ……るかと思ったけど、どうやらマグネットアンカーでリリィナイトの着地衝撃を殺していたようだ。


「なんだ、そいつは!どこから出て来た!」

「うちの控え選手ですっ!」


 うん、マリエッタがエントリー時に名義だけの僚機として「ブリギッタ」と書いてた時点で、私はこの展開を予想していた。

 けど、ブリギッタが何を意味するか判らないエミール達はマリエッタが手続き上架空のドローン名を書いていたと思っていたことだろう。


 だけど、ブリギッタは実在する。


「ローゼンリッター、誰であれ構わん、殲滅せよ!」


 御曹司の言葉に、リリィナイトを離脱させた姿勢のまま待機していたブリギッタに対して、ローゼンリッターが猛然と襲いかかる。

 だが、振り下ろした長剣はブリギッタの手前50cm程度の所で、まるで何も無い空間に受け止められたかのように停止した。


「何だ!?まさか、防御フィールドを内蔵しているのか!?」


 さすがトルセント重工の御曹司、頭が悪そうに見えても、状況の把握は出来てるようだ。

 ただ、ブリギッタのあれは防御フィールドではなく、慣性制御によって武器の勢いを完全無効化している状態だね。


 防御フィールドなどとは次元の違う遺失技術(ロストテクノロジー)による、私達の技術レベルから見れば一種の超常現象ともいえる防御方法だ。


「ブリギッタ、幕を開けて!」


[Ready.]


 マリエッタの声に合わせ、超技術の申し子たるエクソギア、ブリギッタは巨大な腕を振りかぶると眼前のローゼンリッターの左腕、構えたシールドを目掛けて躊躇無く殴りつける。

 その強力な一撃は惰弱な軍事合金盾(・・・・・・・・)を粉砕するには十二分な勢いがあるものだった。


 堅牢無比なはずのウォルフライト合金製の装甲と、さらに分厚いウォルフライト製の盾が剛拳の一撃で破砕される。

 うん、ブリギッタらしいパワフルな戦いだね。


「ば、馬鹿な!?ウォルフライト合金製だぞ!?」

「へへーんっ!ブリギッタの前にはそんなの紙切れ同然ですっ!ブリギッタ、新必殺技を披露してっ!」


[Ready.]


 マリエッタの言葉に、右腕を振り抜いた姿勢だったブリギッタが上体を捻り、五指を開いた左手でローゼンリッターの胸板を軽く触れる。

 御曹司はウォルフライト合金が砕かれた事に茫然としていて、ローゼンリッターに退避の指示を出せていない。


 ああ、これは命取りだね。

 私がそんな事を考えていると、マリエッタがボイスコマンドを発した。


「ブリギッタ、インパクトっ!」


 その言葉に、ブリギッタはローゼンリッターに掌撃を見舞う。

 金属が打ち合う軽い音が1度響き、その後にスドンという大地を揺らすような音が聞こえた。


「あ、あれはワンインチパンチ!?」

「寸勁ってやつだね。原理は随分と違うけど」

「アイリスさん!そこは『知っているのか、アウレリア!?』って聞くとこでしょ!?お約束が判ってないのはダメだよ!?」

「ええぇ……それ、どこの約束よ……」


 ワンインチパンチ、もしくは寸勁。

 それは素手での格闘術を極めた達人が使う、必殺技(フィニッシュムーブ)だ。

 「気」や「勁」と呼ばれる不可視の力を相手の体内に浸透させ、内部から攻撃を加える物騒極まりない技だけど……。

 無論機械であるブリギッタには「気」なんてものはない。


 じゃあ何をしたかというと、おそらく掌を打ち付けた時点で、ローゼンリッターの機体内部にグラビティキャノンを撃ち込んだんだろう。

 一応、射撃武器は禁止って事になってるから、格闘技風にアレンジしたんだろうけど……ローゼンリッターの内部構造、間違い無く粉々に粉砕されてるよね。


「ブリギッタ、リリちゃんにタッチですっ!」


[No Problem.]


「わがまま言わないっ!」


「Ready.」


 ブリギッタに搭載されている人工知性体は二言しか話せない仕様だけど、内部は結構色々なことを考えているふしがある。

 拗ねてみたり、喜んでみたり。

 今の場合は……たぶん自分が勝ち名乗りを上げたかったんだろう。


 けど、ロストテクノロジー満載のブリギッタが勝者としてリングに立つのは不味いからね。だからマリエッタも最終的な勝者はリリィナイトってことにしたいんだと私は理解した。


 しぶしぶ、と言った様子でブリギッタはマグネットアンカーを射出し、リング外で待機していたリリィナイトを既に機能停止しているローゼンリッターの前へと引き寄せる。


「ブリギッタ、カーテンコール!」


 マリエッタの指示に、グラビティスリングがブリギッタを衛星軌道上へ一瞬で引き戻し、リング上には棒立ちになったローゼンリッター……の残骸と、半壊したリリィナイトだけが残された。

 観客も、御曹司も、そしてエミール達も、何が起こったのか理解出来ず茫然としているみたいだ。


 だけど、マリエッタはお構いなしに叫んだ。


「リリちゃん、突進だよっ!」

「!?ローゼンリッター、反撃、いや、避けろ……なんでもいい、対応しろ!」


 マリエッタの言葉を耳にして我にかえった御曹司が指示を出すけど、外見はともかくとしてローゼンリッターの内部は既に完全破壊されている。


 指示に従うことも出来ずに、リリィナイトの体当たりを受け……その一撃はかろうじて形状を維持していた内部構造に対する最後のダメ押しになったのか、ローゼンリッターはその場でバラバラに砕け散った。


「勝ちましたっ!」

「うぉぉぉー!」


 勝ちどきを上げるマリエッタとブランシェリリ組。

 だけど、周囲の観客達は茫然としたままだった。


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