#25
>>Iris
決勝戦を迎えた会場は熱気に包まれていた。
相手サイドにはローゼンリッターとディーナーの2体。
ディーナーの方はこれまで一度もリングに上がっていなかったけど、それが作戦なのか、ローゼンリッターが圧倒的すぎたのかは判らない。
だけど、決勝戦である以上は何かをしかけてくる可能性は高いだろう。
例え相手が満身創痍のリリィナイトだったとしても、情けを掛けてくれるような相手じゃなさそうだし。
「良くここまで勝ち上がってきたな、庶民!だがここで終わりだ!お前達の貧相なユリは我らローズリュージュが誇るバラの前に無残に散る事になるのだ!」
トルセント重工の御曹司とかいう男子学生が相手サイドでふんぞり返ってお約束な台詞を吐いているところからも、手加減の意思がないことは明らかだ。
どうやらドローンに音声で指示を与える役はあの御曹司らしい。
一方のブランシェリリ側は……。
「エミールさんっ、今回はわたしに任せてくださいっ!」
「マリエッタちゃん?えっと……」
「わたし、秘策がありますっ!」
マリエッタが秘策、と口にしたときに悪い笑みを浮かべたことを見て取った私は、軽くため息をついてからエミールに声を掛けた。
「エミール、勝ちたいならマリエッタに任せたらいいよ」
「アイリスさんまで?まぁ、現状だと勝ち筋は見えないけど……」
「大丈夫ですっ!相手が卑怯な手を使ってくれば、勝てますっ!」
マリエッタの言葉は表面的には意味不明に聞こえるけど、私にはあの子が何を企んでいるのかが判った。
つまり、相手がズルをするならこちらもズルをする、と言うことなんだろう。
そしておそらくローズリュージュの連中はズルをするとマリエッタは見ている。
まぁ、口に出してそんな事は言えないから、私は無言でエミールに頷いてみせる。
それで何かを悟ったのか、エミール達ドローン格闘研究会のメンバーも、決勝戦の指示役はマリエッタに任せることを決めたようだ。
「リリちゃん、行きますよ!」
マリエッタの声にリリィナイトがファイティングポーズを取る。
それを見たローズリュージュ側も戦闘態勢を取る……けど、こちらに背を向けている?
戦闘開始時は待機位置さえ守っていれば姿勢は自由だけど、あえて背を向けるのはどういう意図なんだろうか。
私がそんな事を考えている間に決勝戦のゴングが鳴った。
「獅子はネズミを追うのにも全力を尽くすという。見よ、我らが秘奥義を!」
「……いや追うんじゃなくて狩るんだし、相手はネズミじゃなくてウサギでしょう」
誇らしげに語る、なんとかという御曹司に私は思わずツッコミを入れるけど、もちろんそんな声は相手には届いていない。
いや、カルティアンアカデミーってクレリス最高学府なのに、ことわざも知らない学生が混じってていいんだろうか。
ジト目でそんな事を思っていると、御曹司が大きな声で呼ばわった。
「ローゼンリッター、スタンバイ!」
その言葉に反応し、ローゼンリッターはディーナーにタッチをして……え?いきなり交代?
いや、違う。
ディーナーの手を取ったローゼンリッターはディーナーの機体を両手で持ち上げた!?
突然の奇行に会場がどよめきを発する。
マリエッタも想定外の事態にリリィナイトを待機させら状況を見守っている。
「従騎合体!」
「……はぁ?」
今、合体って言ったよね?
ということは、やっぱり私の予想通り……?
私が誇らしげな御曹司の様子に眉をひそめた瞬間、ディーナーがバラバラに分解し……そして、こぼれ落ちるはずのパーツは次々とローゼンリッターに装着されていった。
会場の観客達が唖然として見守る中、ディーナーのパーツを装着したローゼンリッターは二回り背丈の大きい大型ドローンへと合体した。
「アイリスさん、あれ!ディーナーのコアだけリング外に放り投げたよ!?」
「コアがドローン本体という認定だから、他のパーツを装備しても一応リング上にいるのは1体のドローンって事だね。さしずめ騎士に武器を持参する従者ってところかな」
「えっと、ルール的にはグレーだけどありっぽい感じかな!?」
アウレリアが最初に警告していた「ルール上は不正行為ではないらしいけど、おそらくそのプランが実行されれば周囲から白い目で見られそうな作戦」というヒントと、騎士と従者というネーミング。
そして単体で行動する事を前提としていないようなディーナーのデザインから、目星を付けていた通りのチート行為が眼前で展開されていた。
合体したローゼンリッターの頭頂高はレギュレーションで定められた4.6mを大きく超えている。おそらく6mクラスじゃないだろうか。
これまでは無手だったはずなのに、今では長剣と盾も装備しているし……うん、小柄なリリィナイトとはサイズ的にも戦力的にもまるで大人と子供のような差があるね。
「……いやぁ、ドン引きだねぇ」
「アイリスさん!なんでそんなに冷静なの!?」
「予想してたけど、本当にやるとは思わなかったからね」
「でも、リリちゃんがピンチだよ!」
リング上では悠然と歩み寄る合体ローゼンリッターに対してリリィナイトは防御姿勢を取っているけど……膂力にも差がありすぎて、あれじゃ防ぎきれないだろう。
私の懸念通り、左腕の盾で剣の一撃を凌いだリリィナイトだけど、腕ごと盾を両断されてしまった。
「ああ、リリちゃんが……!
悲鳴のような声を上げるアウレリア。会場からもため息と、ルールの隙を突いたローズリュージュのやり口へのブーイングが上がっている。
だけど、リングを見つめているマリエッタの表情には、絶望も恐怖も見えない。
いや、むしろ……あれは悪い顔で笑ってるね。
だってそうだろう。
相手がこんなチートをしかけてくるなら、マリエッタの打つであろう逆転の一手は十分ルール内の作戦だろうから。
「リリちゃん、タッチですっ!」
「お前ら庶民は1機しかドローンを用意出来てないだろうが!この貧乏庶民がはったりを……」
御曹司がマリエッタの言葉に罵声を飛ばす。
だけど、マリエッタは構わず左手を天高く掲げた。
そして――。
「ブリギッタ、オンステージ!」




