#24
>>Alyssa
パルファンに乗り、単独でアノインティングへ帰還するリルカをサポートし終えたことで、アイリスさんの留学中に私達がこなすべきタスクは完了しました。
ですが留学期間はまだ10日ほど残っています。
アイリスさんからの定時連絡によると3日後に何やら大きなイベントがあるらしく、その後に留学の総まとめを行いたいということでしたが……。
このタイミングで私達がクレリスへ到着し、アイリスさんの集中力を切らすのは良くないと考えました。
ええ、集中力です。
いつもならワーカーホリックで仕事に向かうとそればかりになるアイリスさんですが、通信でトワ様と話し出すと勉強そっちのけで話が止まらなくなるとは思いもしませんでした。
たぶんあれは妹欠乏症――もしくは『絆』が暴走する予兆――ではないでしょうか。
こんな状態でトワ様がアイリスさんの前に立ったら、おそらく2・3日はトワ様を愛でるだけで時間が過ぎてしまうに違いありません。
もちろんそれはアイリスさんも自覚し、危惧していましたから、留学の総まとめが終わるまでは私達はクレリスへ立ち寄らないということになったのです。
それで、その間をどうするかですが……。いくつか時間つぶしに滞在出来る惑星の候補を挙げてみたのですが、どうやらトワ様の方も姉欠乏症になりかけているようです。
「ではレジャーも、リゾートも、グルメ旅も……?」
「アイリスと一緒がいい」
「アリサと一緒ではダメですか?」
「ダメじゃない。でもアイリスも。……あと、マリエッタも」
……まぁ、そういう感じだったのです。
一応今は休暇中ということになっていますが、トワ様的にはアイリスさんは1人で仕事をしているという認識なのでしょう。
それ故に、姉が仕事をしている間に自分だけ遊び歩くのは納得がいかない……と思われているのだろうと思いました。
とはいえ宇宙空間で無目的に投錨していても時間が勿体ないと悩んでいた時に、私の故郷であるペレジスから思わぬ知らせが舞い込みました。
『お忙しいとは思いますが、もし可能でしたら是非参列して頂きたいと2人が』
「丁度今、時間を持て余しているところです。トワ様、よろしいでしょうか?」
「うん」
「テレジア、聞いての通りです」
『ありがとうございます。オリヴィエもジョルジュも喜びます』
オリヴィエとジョルジュ。2人は私が運営していた孤児院の出身者……ペレジスの人々が「アリサの子供達」と呼ぶ、私の娘と息子です。
その2人が結婚する事になったので、式に参列して欲しいという要請がテレジアからあったのです。
オリヴィエは前回私が帰省した際、狂気の犯罪者から子供達を庇い右腕を失うという重傷を負いました。
サイバネティクス手術によって失われた腕を取り戻すことは出来ましたが、機械の腕では婚期が遅れるだろう……という私の悲観的な予想に反し、回復記念パーティの場で複数の男性から求婚され、結果として子供の頃から仲が良かったジョルジュと結ばれる事になったのですが……。
プロポーズからまだ二月も経ってないですよね?
いくら両親への挨拶がテレジア相手に一度で済ませられるとはいえ、話が進むの早すぎませんか?
ともあれ私は2人の母として結婚式に参列することにしました。
トワ様も一緒に来て下さるとのことなので、これは上手くすると共同挙式形式で私とトワ様の式も挙げてしまって、既成事実を作る絶好の機会ではないでしょうか!?
オリヴィエもジョルジュも私の孤児院の出身ですから、おそらく式は孤児院の庭でこぢんまりとしたアットホームな感じで行われるはず。
なら、子供達に囲まれて、私とトワ様の式を挙げる事に何の支障もありません!
……と思っていたのですが。
「テレジア?今、なんと言いましたか?」
「ですから、挙式は軍の練兵所で行います、と」
「オリヴィエとジョルジュの結婚式ですよね?」
「ええ、オリヴィエとジョルジュの結婚式です」
「どうして、そんなところで?孤児院の庭でこぢんまりとするのでは?」
「はぁ……」
ペレジスに到着し、テレジアと挙式の打ち合わせをしていたところ、どうも話が食い違う気がして改めて確認してみたところ……私の言葉に対して、テレジアがもの凄く長いため息をつきました。
もしかして私、テレジアに呆れられていますか?
私、何か間違った事を言ったのでしょうか?
「アリサ様?ジョルジュはこの星で有数のアパレルメーカーであるクロレスのCEOですよ?それにオリヴィエも警察のマドンナ的な存在です。そんな2人が結婚するのですから、関係者が多数参列するとは思いませんか?」
「あ……」
「それに。アリサ様が参列されると聞いて、この星の住民が放っておくと思いますか?各種メディアから放映権の獲得について問い合わせが連日来ています。もう面倒なので、全てフリーで放映してくれと回答しているぐらいです」
「はぁ!?」
「アリサ、大人気」
なんだかとんでもない大事になっているようです。
ですが、惑星上に映像配信される2人の挙式?
そんなところで私が密かに企んでいた、トワ様との共同挙式をするのは……さすがに無理がありますよね。
「なので、共同挙式は諦めて下さい」
「テレジア!?私、その話、まだしてませんでしたよね!?」
「何十年お側に使えていると思ってるんですか。アリサ様の考えぐらい、お見通しです」
「テレジアぁ~!」
式はとても厳かな雰囲気の中で行われました。
派手な演出や余興は無し。
白いウェディングドレスを身に纏ったオリヴィエに付き添うトレーンベアラー役としてルーミ。
結婚指輪を届けるリングボーイはポールが務めました。
2人とも、オリヴィエが命を賭けて守った孤児院の年少組で、2人にとってオリヴィエは自慢の姉であると同時に英雄ですからね。
私が2人の親として祝辞を送った以外は、身内だけで行われるような結婚式だったように思います。
ただ、普通と違うのは、式が行われている場所がペレジス最大の練兵場の敷地で、参列者の数が4桁に届くということと、式の様子が何故か惑星全土にリアルタイム配信されているというところですが。
まぁ、2人が納得しているのであれば、私が口出しすることは特にありません。
思わぬ大騒動になりましたが、無事に娘と息子の結婚式を終え、孤児院の私室で1人くつろいでいた私の元へテレジアがやってきました。
この表情は……少し問題が発生している時の顔ですね。
おそらく、結婚式が終わるまで報告を先延ばしにしていた懸念事項があるのでしょう。
「なにか問題でもありましたか?」
「問題はまだ発生していませんが、懸念事項が。アステラメディカの件についての続報です」
アステラメディカ。それはオリヴィエが右腕を失う原因となった、クローンマフィア量産事件の片棒をかついだ星外の製薬企業の名です。
当時アステラメディカを牛耳っていた犯罪者とクローン製造装置は私が処分しましたが……。
テレジアが言うには、そのアステラメディカがペレジスに置いていた製薬工場やクローン製造施設といったプラント群を手放し、ペレジスから撤退したそうです。
「撤退というと、犯罪に加担したことを悔いて、ですか?」
「表向きはそういうことになっています。ただ、捨て値同然で設備を手放しているので、何か他にも撤退を急ぐ理由があったのではないかと」
確かに惑星から撤退するにしても、稼働するプラントを捨て値で手放す必要はありません。
しかもテレジアが言うには、撤退前に恒星間通信で大容量のデータを何処かへ送った形跡があるそうです。
それはまるでペレジスで企んでいた何らかの目的を果たし終え、その事を察知される前に急いで逃げ出したかのような不自然さでした。
「クローンマフィアの製法を回収した……?いえ、あんなもの、使い物にも売り物にもならないでしょうに」
「私も同意見です。おそらくペレジスとアステラメディカの関係はこれで切れたと思いますが……」
「私がどこかの惑星でアステラメディカと対峙する可能性はある、ということですね」
私の言葉にテレジアは静かに頷きました。




