#23
決勝戦の開始までには少し時間が開くとのアナウンスがあったので、私とアウレリアはブランシェリリ組の健闘を称えるべくガレージへと向かった。
もちろん、手ぶらで遊びに行くのはギルドの管理官としてありえないから、出展していた屋台でドリンクのパックをカートンで購入しておく。
「アイリスさん、ボクも半分持つよ!」
「重いけど、大丈夫?」
「うん。こう見ててボク、結構力持ちだからね」
私はセレスティエルになってたことで以前よりも力が増しているけど、アウレリアも華奢な見た目とは裏腹にそらなりに腕力は強いようだ。
さすがセレスティエルの実子、セミセレスティエルとでも呼べる存在だけのことはある。
実際、アウレリアはすでに20代だけど、外見的にはまだミドルティーンにしか見えないし、彼女に聞いた話だと二人いた姉も人間より遙かに長生きしたらしいし。
傍らを歩くアウレリアを見ながらそんな事を考えているうちに、ガレージが見えてきた。
既に敗退したチームのガレージでは撤収作業が始まっている。
撤収作業をしている面々の顔をみると、悔しそうなチームもあれば、満足げなチームもいた。
……おそらく最初の仕合に出た広告君のチームはきっと大満足だったことだろう。
で、ブランシェリリのガレージはというと……。
リリィナイトが破損していることもあり、決勝での苦戦を予期して沈痛なムードになっているのかと思ったけど、以外にもドローン格闘研究会の空気は活気に溢れた明るいものだった。
「お疲れ様。これ、差し入れ」
「わぁ、アイリスさんっ!ありがとうございますっ!」
姉妹設定を忘れたのか、普段通りの様子でそう言うマリエッタに苦笑しながら、私はブランシェリリの面々にドリンクを手渡してゆく。
まぁ、彼らが大変だったのは出場までの段階で、実際にトーナメントが始まった後は、私達観客と同じでただ声援を送ることしかできないんだけどね。
一番頑張っていたリリィナイトは……うん、かなりダメージが大きい。
観客席から見た感じだと右側の盾を破壊されただけに見えていたんだけど、盾が固定されていた前腕部にもざっくりと切り裂かれたような傷が入っている。
内部機構にどれぐらいダメージが及んでいるかはわからないけど、最悪の場合右腕の肘から先はまともに動かないかもしれないね。
「マリエッタ、この状態で戦えるの?」
「んー、厳しいかもしれません……。でも、リリちゃんは強い子ですからっ!」
「ドローンって根性論でなんとかなるんだっけ」
「あはは……。まぁ、アイリスさんの言葉の方が正論、かな」
マリエッタの言葉に少々呆れながら、隣に立っていたエミールにそう言うと、苦笑いが帰ってきた。
まぁそれもそうだろう。
マリエッタはブリギッタ達ドローンをヒトのように扱ってはいるけど、私達の感覚としてはドローンはあくまでも自律稼働する機械でしかない。
同じ自律稼働する機械でありながらヒト種族とみなされている機族との最大の相違点は自我や感情、意思――機族の生みの親であるナミが言うには「魂」――の有無で、ドローンに搭載された人工知性体には魂は宿っていない。
つまり乱暴な言い方をすれば、機族の人達は意思や感情で想定以上の力を引き出すことは可能かもしれないけど、ドローンには根性論というものは適用されない、ということだ。
つまり、マリエッタがどう思っているかはともかくとして、おそらくこの状態でローズリュージュの軍用ドローンと戦ってもリリィナイトには勝ち目はない、ということだ。
私がそう指摘すると、エミールは神妙な顔で頷いてから言った。
「でも、やれるところまでやってみるよ。ここまで来れただけでも奇跡みたいなものだからね」
「あれ?自信、あったんじゃなかったの?」
「自信はあったさ。けど現実は厳しい事も判ってたからね」
そう言うとエミールは親指と人さし指の先をくっつけて丸を作ってみせた。
うん、言いたいことはわかるよ。
彼の言う現実は理想だけでは覆らないからね。
現にブランシェリリ寮のチームにはリリィナイトの破損箇所を交換するスペアパーツすら用意されていない訳だし。
ただ思った寄りも悲壮感はないようなので、私は安心した。
「そっか。応援はしてるけど……」
「アイリスさんっ、アウレリアっ!決勝戦はチーム席で見てくださいっ!」
エミールに慰めの言葉を掛けていると、マリエッタがぴょんぴょん跳ねながらそんな事を言い出した。
チーム席というとリング脇の一等席だけど、関係者じゃない私達が入って良いんだろうか?
時々同好会のガレージに顔を出していたアウレリアはともかく、私は一度もアカデミーで部活に顔を出してないんだけど。
「ああ、それはいいですね。折角ですからリリィナイト2の雄姿を近くから見届けてください」
「やった!ボク近くで見たかったんだ!」
エミールの言葉にアウレリアは大喜びでそう言うけど、かなり高い確率で私達が目にするのはリリィナイトの雄姿じゃなくて、敗北する姿だと思うんだけど。
まぁ、わざわざそんな事を口にする程空気が読めないわけじゃないから、黙って頷くだけにしておくけどね。
そういう訳で、私とアウレリアは最前列の桟敷席で決勝戦の行方を見守ることになったんだ。




