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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部9章「トリコロール・ナイト」クレリス-闘機の惑星
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#22

 その後もドローンバトルは順調にトーナメントが進んでいった。


 Aブロックはローゼンリッターが全試合を圧勝する形でブロック優勝を果たした。


 組み合わせ運が良かったのか、ローズリュージュ寮は結局他の大学やドローン工房なんかの比較的資金力の弱い所としか当たらなかったけど、おそらく大企業の最新ドローン相手でも遜色ない戦いを繰り広げたんじゃないかと思う。


 一方のBブロック……ブランシェリリは2回戦で少々手こずった。

 何せリングアウト狙いの体当たり戦法は1度見せたら次からは必ず警戒されるからね。


 2戦目の中堅ドローン開発企業もそこは理解していたのか、2体のうち比較的重装のドローンを先鋒に出してきたんだ。

 でもリリィナイトは体当たりでよろめかせた相手にパンチの連打を加えて、なんとか場外に押し出すことに成功した。


 けど「比較的重装」で追撃が必要になるなら、完全な重装型だとどうなることやら。



 そう、今まさにリリィナイト2が対峙している、トルセント重工の擁するドラグーンのような相手なら。


「背丈は同じなのに、威圧感が全く違うよ!」

「素材も、かかってるコストも違うからね」


 うん、互いに1機のみエントリーしている変則編成だけど、トルセント重工は僚機の必要が無いという自信の表れとしての単騎出場。


 一方のブランシェリリは単純に予算不足で僚機が用意出来ないという、経済的な理由だ。


 普通に考えれば勝てる相手じゃないけど……。

 私がそんな事を考えている間にBブロック決勝戦が始まった。


 リリィナイト2はこれまで通り猛然とダッシュして体当たりを敢行するけど、重量があるウォルフライト合金製のドラグーンのボディを僅かに揺らすことしか出来ない。

 続けて放つパンチも同じで、正直な所リリィナイトの攻撃はダメージを与えられていないし、ドラグーンを押し出せそうな気配もない。


 そしてドラグーンの側は自らの勝利を確信しているのか、あえて静止した状態でリリィナイトの攻撃を受け続けている。

 きっと楽勝だと思ってるんだろうね。


 そしてパンチの効果がないと判断したリリィナイトが少し後退した瞬間、ドラグーンが動いた。


 大きな爪の付いた前足を振りかぶり、リリィナイトに向かって振り下ろす!


 リリィナイトも盾を装備しているけど、あれは一般的な合金素材で当然ウォルフライトと打ち合えるような剛性はない。

 リリィナイトもそれは理解しているのか、盾で受け止めずにステップして躱そうとするけど……連打パンチの直後でパワーコアが消耗しているのか動きは鈍い。

 かろうじて回避したけど、ドラグーンの爪先が引っかかった右腕のシールドがざっくりと切り裂かれてしまった。


「わっ、盾が斬られてるよ!」

「真正面から受けてたら、盾ごとボディを切り裂かれてたかもしれないね……」


 防壁として用をなさなくなった右腕の盾をパージしたリリィナイトはさらに距離を取るけど、獲物を追い詰めるようにドラグーンがリリィナイトに迫る。

 これ、危ないんじゃないかな?


 いや、でもリリィナイトにはマリエッタが付いている。あの子ならこんな絶体絶命のピンチでも、きっと切り抜ける手立てを思いつくはずだ。


 見ている間にもリリィナイトとドラグーンの距離はじりじりと縮まっていく。

 だけど……ある程度距離が縮まった段階で、リリィナイトはドラグーンから逃れるようにリングサイドへ向かって走り出した。


「あれ?リリちゃん逃げちゃった!?」

「ドラグーンの第1試合を再現してるみたいだね」

「広告君……」


 なんでも広告代理店が出場させた広告塔ドローンは既にネットで広告君として親しまれ始めているらしい。

 いや、ミーム化するの早いよね?


 でも、このままだとリリィナイトも広告君2号になってしまうけど……。


 けどよく見ると広告君とリリィナイトの逃げ方には少し違いがあるような気がする。

 広告君は闇雲に距離を取っていただけだけど、リリィナイトはドラグーンを誘導しているような……。


 そうか、そういうことか。


「アウレリア、もしかするとリリィナイトは勝てるかもしれないよ」

「え?どうみても絶体絶命だよ?」

「ほら、リリィナイトはドラグーンを誘導してる。なるべく直線で長距離を走れる位置へ、ね」


 そう。リリィナイトはドラグーンがリング角へ位置するように微妙に逃走経路を変えながら徐々にリング角へと誘導していたんだ。

 そして、ドラグーンがリング角に位置した瞬間、リリィナイトは全力で対角線上の角へ向かって走り出した。

 当然ドラグーンもその後を全力で追う。


 前傾姿勢で突進するドラグーン。

 たぶんあれはこれまでリリィナイトが採った戦術と同じ……体当たりでリリィナイトをリング外に突き飛ばすつもりなんだろう。


 ……それがマリエッタの作戦だとも知らずに。


 リング角に追い詰められたかに見えたリリィナイトだけど、突進してくるドラグーンに向き直ると、まるで突進を受け止めるかのように腰を落とした姿勢を取る。


「嘘っ、受け止めるの!?」

「いや、あれは違うね……ほら!」


 一見すると受け止めに掛かるような姿勢を取ったことで、ドラグーンは勝利を確信したのかさらにスピードを上げる。

 だけど、リリィナイトは……ドラグーンが最接近した時点で、そのまま横へサイドステップした。

 うん、あの機敏なステップはマリエッタの機体モーション改善あってのものだ。


 突進していたドラグーンは突然ターゲットが消えたことで戸惑った様子だけど、重量級であるが故に慣性が持つ運動エネルギーは大きい。

 本来であればそのエネルギーをぶつけるはずの相手が急にいなくなったことで止まるに止まれない状態になる。


 ドラグーンも四肢を停止して機体重量を使った急制動を掛けようとするけど……そんなドラグーンの後方にさらにステップ移動したリリィナイトが回り込む。


 そして、必死に止まろうとするドラグーンに背後からリリィナイトが体当たりを敢行した。

 もちろん、リリィナイトの体当たりだけじゃドラグーンをリングから落とすことはできないけど、突進の勢いを殺し切れていない今、そしてリングサイドでなら……。


「やった、落ちたよ!」

「ヒヤヒヤさせてくれるね……まだ準決勝なのに」


 半ば相手を自滅させる戦法で軍用ドローンを打ち破ったブランシェリリチームは、まるで優勝でもしたかのように大はしゃぎしている。

 いや、ブロック優勝はしたんだけどね。


 これである程度の賞金は得ることが出来たけど……問題は決勝戦。

 これまで危なげなく勝ち進んできたローゼンリッターとの同アカデミー対決だ。


 相手は控え機を使った企みを温存している状態なのに、リリィナイトの方は既に満身創痍。

 かなり厳しい状態だけど、どうするんだろうね、マリエッタ。


 まさかと思うけど……まさかね。


 学生チームが大企業を打ち破ったことで熱気と大歓声に包まれたリングを見やりながら、私はふとそんなことを思った。


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