#20
>>Towa
アノインティングに滞在している私の元に、一通のメッセージが届いた。
送信者は私のペンパル、惑星ヴェルデナのウェンディだ。
彼女とはヴェルデナを旅立ってからも時々やりとりをしていたんだけど、今回のメッセージにはリハビリがかなり進んでいるっていう報告が書いてあった。
私がヴェルデナを離れた時は外出時に車椅子が必要だったのに、今はゆっくりとなら普通に歩けるようになったらしい。
あの子、リハビリ頑張ってるんだなぁ。
そしてウェンディからのメッセージには、早く冒険に出たいっていうおねだりも書いてあった。
星を離れる時にいつか元気になったら冒険へ連れて行くって約束したことはもちろん覚えている。
でも問題は、今のところウェンディが冒険を楽しめそうな星が見つかってないことだ。
ケンのいたトーエイは既にゲルゲム団が全滅して普通の星になったし、ニーアのセヴランスはおとぎ話の星ではあるけど冒険的な感じじゃないし。
アイリスからはウェンディを連れていくなら、安全が保証されてる星に限るって言われてるから、今のところ良さそうな星が見つからないって返事するしかないかな。
いや、良い星はいっぱいあるんだけど、安全に冒険できる星っていうのは条件が難しいからね。
でリルカの方は結局、航宙艇を操縦できるようになるまで10日間掛かった。
もちろんリルカが不器用で操船下手だった訳じゃなくて、CEOと星の代表としての仕事が忙しすぎて、講習や実習を受ける時間が取れなかったのが原因なんだけど。
掛かった時間をトータルで見れば、たぶん3日ぐらいじゃないかな?
アリサが言うには宇宙に出た事がないお嬢様としては驚異的なスピードらしいけど、本人はアイリスに負けたと悔しがってた。
あと何故か私とアリサも、フローラからリルカと呼んでくれと言われるようになった。
その名前って確か、彼女が親しい人にしか許してない呼び方だったはずだけど。
私がそう言うとリルカは半泣きの顔で言った。
「トワさんに他人行儀な感じで『フローラ』と呼ばれると、まるでオーロラに拒絶されているみたいで心が苦しいんです……!」
「リルカ?トワ様とアウレリアは確かに似ているところもありますが、まったくの別人ですからね?」
「もちろん承知しておりますわ!気分の問題ですわ!」
ちなみにオーロラというのはアウレリアの事だ。
アウレリア・ローラ・セレスセラ、略してオーロラ。
なんでもアウレリアの母親や姉達が彼女の事をそう呼んでいたらしくて、その話を聞いたリルカが自分もそう呼ぶ!と言い出したんだけどね。
で、今日はようやくライセンスが取れたリルカに付き合ってパルファンの試験航行……というか試験跳躍を行うことになったんだ。
普通に飛ぶだけなら既にリルカ1人でも問題ないんだけど、超光速航行はライセンススクールでは教えて貰えないからね。
オンブルやパルファンはシンガーであればC3を調律する感覚で自然にレゾナンスジャンプが出来るけど、リルカはシンガーとしての訓練を受けてないから感覚がイマイチ掴めないらしくて、お手本を見せて欲しいということになったんだ。
でも、問題は……。
「ええ、どうせ私はEランクですから、オンブルもパルファンも動かせませんよ!」
そう、何事もそつなくこなすアリサだけど、シンガー能力だけは微妙なんだよね。歌はもの凄く上手いのに。
こればかりは遺伝の関係だから、本人には如何ともしがたいらしいけど。
だからパルファンの試験跳躍には私が付き合うことになったんだけど、私は私で問題があるんだよね……。
「トワ様、くれぐれも歌わないようにお願いしますね?前回は無事に帰ってこられましたけど、次はどんな亜空間へ飛ばされるかわかりませんから」
「うん。でもローヴには会いたい」
「お願いですから、止めてくださいね?」
私、オンブルに乗るのは初めてだけど、原型機のリュミエールでジャンプするときにレゾナンスドライブと過剰共鳴して、亜空間へ迷い込んだことがあるんだよね。
おかげで未だにアイリスからはリュミエール使用禁止令を出されたままだし。
ジャンプ中に歌ったことが原因らしいから、歌わなければ大丈夫だと思うんだけど。
ともかく、片道跳躍しか出来ないパルファンで跳躍試験を行うためにはアルカンシェルの介添えが必須だから、私とアリサが協力することになったんだ。
サクヤにアノインテァングの近くで周囲に大きな天体が無い空間を探して貰って、そこまで移動。
その宙域で1光年ぐらいの短距離ジャンプを行う。
リュミエールを初めて使った時と同じ方法だね。
で、パルファンの試験跳躍は何事もなく終わった。
リルカは飲み込みが早いから、ジャンプドライブの使い方も1度で覚えてしまった。
でも、全く問題がなかった訳じゃない。パルファン以外のことでちょっとした問題があったんだけど……。
「ですから、このアルカンシェルという船を売って頂くことは……!」
「リルカ、これはトワ様と私の愛の巣です!いくら大金を積まれても譲ることはできません!」
『マスター、なんか論点ずれてね?』
「うん」
アルカンシェルがロストテクノロジーの船だと知ったリルカが、今度はアルカンシェルが欲しいって言い出したんだよ。
でもアルカンシェルは私の相棒で私の家だし、アルカンシェルのペルソナであるサクヤは私の友達だからね。
いくらお金を出されても譲る気にはなれないし、そもそもアルカンシェルはセレスティエル専用の船だからリルカにはちゃんと扱えないだろうし。
私がそう言うと、アウレリアから聞いてセレスティエルの事を知っていたリルカは渋々引き下がったけど……うん、リルカの気持ちもわからなくはない。
なにせパルファンみたいな機能が限定されている超光速艇ですら喉から手が出るほど欲しがられてる技術なんだから、アルカンシェルのような本物の超光速船だったら何をしてでも欲しいと思う人が出てくるのは当然だ。
しかも超光速航行にシンガー能力が必須なパルファンやオンブルと違って、アルカンシェルは誰でも超光速航行できるからね。
「うう、いつかギルドから売り出されますか、超光速船」
恨めしげにリルカはそう言うけど、そもそもアルカンシェルはギルドが作った船じゃないし。
パルファンを運用出来るだけのシンガー能力を持ってるリルカがいるだけでも、セレスセラは十分他の会社よりアドバンテージがあると思うけどな。




