#19
2体のドローンが用意できるということは、相手の機体特性に合わせて有利なセッティングのドローンを繰り出すことも可能になる。
手札が一枚しかないブランシェリリは、この点でも不利だ。
そのルールを聞いた私は、ブランシェリリの作戦が読めた気がした。
「機体が少ない分長期戦は不利。となると短期決戦あるのみだけど、予備機が無い以上攻撃を食らうわけにはいかないから、一撃必殺で決める必要がある。でも相手を一撃で破壊できるパワーは無さそうだから……狙うのは場外勝ち、かな?」
「……アイリスさん、ボク達の作戦会議聞いてた?」
「ううん。今、即興で状況判断したんだけど」
「うわ……ギルドの管理官って怖いね……。ボク、ギルドを敵に回すのはやめておくよ」
いや、ギルドの管理官とかは関係なくて、普通の戦術立案だと思うけど……。
それにギルドを敵に回すと怖いって事は改めて言うまでもない話で、ここ数日世間でも広く認知されてるからね。
そんな話をしている間にAブロックの第一試合が始まった。
対戦カードはクレリス工業大学……通称クレ工と、民間のドローン工房との戦いとなっている。
クレ工側の先鋒は重装甲の人型。
ドローン工房の先鋒は……獣型?
フォルムがえらく違うけど、格闘戦になるんだろうか。
見るとクレ工は控えも人型で、フォルムもほぼ同じ。
ドローン工房側の控えは……人型だ。
「わっ、クレ工は同型機だね!」
「おそらくだけど、同型を戦闘中に交代させることで破損による戦力低下を抑える作戦じゃないかな」
「……アイリスさん、実はドローンバトル詳しい?」
「ううん。今日初めて見るけど」
獣型に組み付くように覆い被さろうとする重装甲ドローンを見ながらそんな話をしていると、少し遅れてBブロックでもドローンの入場が始まったようだ。
先に入場してきた方のドローンはギルドでも使ってる共通規格の作業用ドローンで、見た目的にはカスタマイズが施されているようには見えない。
けど特徴の薄い本体とは違い、そのドローンは人目を引く大きな盾を持っていた。
盾の表面には輝くネオンサイン……っていうかあれ、広告だよね?
「組み合わせ表によると……出場企業の名前は伝網堂?だって!広告代理店じゃなかったっけ」
「なるほど、最初から勝負は捨ててドローンバトル大会に便乗したPRを展開してる訳か……。これ、来年から有力ドローンにはスポンサーが付くようになるんじゃない?」
私はベタベタと企業名が描かれたステッカーが貼られたドローンの姿を想像して思わず失笑してしまった。
しかし広告代理店はこういう場面では目端が効くよね。
で、その広告ドローンのお相手は……。
反対側から入場してきたドローンを見て、私は絶句した。なぜなら、そこにいたのは……赤黒い二足歩行の龍型ドローン。
あれって……。
「ドラグーン?」
ドラグーンというのは人類至上主義者のフロント企業だったカーネイト・インダストリが開発した対機族、対エイギス用の切り札的な戦闘ドローンだ。
件の大図書館襲撃後、カーネイト社は同業他社に吸収合併される形で消滅したはずだけど。
アウレリアが見ていた出場ドローンの解説を行うサイトによると、出場企業はトルセント重工となっていた。
私の記憶が正しければ、そこはたしかカーネイトの技術者を引き抜いた企業の筈だ。
機体名称は以前と同じ「ドラグーン」のままであるところを見ると、もしかすると破壊されたドラグーンを修復した機体なのかもしれない。
そんなものを出場させるとは……政治的な意図でもあるのか、それともドラグーンの開発目的を知らされてなかった技術者がドラグーンを再現、あるいは再生したのかは判らないけど、面倒事になりそうな予感がする。
「アイリスさん、アレ滅茶苦茶強そうじゃない?リリちゃん2号じゃ、太刀打ちできなさそうだよ!?」
「んー、でも原型機のドラグーンって、手負いのアリサが一太刀で切り捨てたらしいけど?」
「げっ……ギルドの幹部恐っ」
いや、ギルドの幹部なら誰でも倒せるわけじゃなくて、あんな軍用ドローンを生身で倒せるのは神剣を持ったアリサぐらいのものだと思うけど。
「あ、でもドラグーンはブランシェリリと同じで単騎出場なんだね!」
「企業秘密の最新機扱いだろうし、技術力のデモンストレーション用だと考えれば、僚機無しのほうがアピールできると思ってるんじゃない?」
「なるほど、じゃあどっちも企業のPR合戦なんだね」
アウレリアの言うとおりだ。
方法論は違えど、どちらのドローンも企業のマーケティング活動のために出場している。
それはすなわち、この大会がクレリスという星で注目を集めていることの証左だと言えるだろう。
予想通り、Bブロックの勝負は一撃でカタが付いた。
だけど、その一撃を喰らうまでに広告代理店のドローンは盾を振り回しながらリングを走り回り、切り札の口内ブラスターを封印されたドラグーンが鈍足で走りながら後を追い回すという、コミカルな場面が続いて観客を大爆笑させたけど。
最終的に破壊されちゃったけど、あの広告塔君、良い仕事したよね。
先に戦闘が始まったAブロックの方は押さえつけられた獣型がリング脇で控えの人型にタッチし、ツープラトンの形でクレ工の機体を追い詰める形になった。
いや、同時に2体リングに上がってるけど反則じゃないの?
「5カウント以内の反則は許されるんだよ!」
興奮した様子でアウレリアがそう言う。
どうやらドローンバトルは厳密なルールよりもショービジネスとしての盛り上がりを重視するものらしい。
合体攻撃を食らったクレ工の重装ドローンはたまらず膝を付くけど、場所がリングの中央だから控え機への交代ができない。
そこへ再度選手交代した獣型ドローンが襲いかかり……動けない重装型のコアを破壊した。
「アウレリア、私思うんだけど……。あの重装ドローン相手だとリリィナイトは結構厳しかったよね?」
「だね……あれじゃ体当たりしてもはじき返されそうだし。でもワンちゃんドローンなら大丈夫かな?」
まぁトーナメント戦は水物だ。
相性の悪い相手とぶつかれば有力チームが序盤で敗退することもあるし、運が良ければ弱小チームが勝ち残る事もある。
私はAブロックの結果を見ながら、マリエッタ達が相性の良い相手と当たることを願った。




