#18
>>Iris
あっという間に時間が経った。
私の留学は残すところ1週間。
だけど、自分の中でデモクラスの件についての整理と再発防止の考えもおおよそ纏まった。
時間を掛けて多くの対話を積み重ねてきた価値はあったと言えるだろう。
アウレリアは相変わらず私の側を離れず、代わりにマリエッタはここ数日エミール達の所へ入り浸っている。
それもそうだ。なぜなら今日がドローンバトルの大会当日なんだから。
「エイギス杯」なる名前が付けられたドローンバトルトーナメントは、今年が開催2回目らしいけど、昨年のトーナメントの配信が好評だったせいで大会前から既にかなりの注目を集めているという話がドローンに興味のない私の耳にも届いている。
何でもカルティアンアカデミーの2チームだけでなく他のアカデミーや研究施設、果てはドローン開発を行っている企業も参加しているそうだ。
7年前に大図書館襲撃を実行した人類至上主義者のフロント企業だったカーネイト・インダストリのスタッフも参加していると知った私は、エイギスにセキュリティ的な問題が無いのか思わず問い合わせをしたけど……彼の返事は「問題があれば斬る」というシンプルなものだった。
一応、カーネイト社内に潜んでいた人類至上主義者達は皆矯正措置を受けたとは聞いているけど、他種族に対する偏見がそう簡単に消えるようには思えない。
大丈夫なんだろうか。
「アイリスさんっ、こっちですっ!」
「へぇ……これがブランシェリリのドローン?」
会場内で出場者に割り当てられたガレージの一角を訪れた私とアウレリアは、ガレージ前でぴょんぴょん跳びはねながら手招きするマリエッタの姿を見つけた。
マリエッタの案内でガレージ内に入ると、そこには待機中のドローンが1機。
結局、予算の都合上、ドローン格闘研究会は書類上2機でエントリーしつつ、実際には単騎で戦うことになるらしい。
「そう言えばアイリスさん、結局一度も研究会のガレージ行かなかったよね?このドローン見るのも初めてだよね?」
「うん、そうだね」
「ボク、時々はマリエッタの様子見に行ってたんだけど」
「……なんか、ごめん」
少し責めるような口調でそう言うアウレリアに謝りながら、私はマリエッタ達のドローンを見上げる。
頭頂高は4.5mぐらいだろうか?やや細身の人型だけど、両腕に大きな盾のようなものが付いている。
盾の裏側にはマニピュレータ……というより握りこぶし型の金属塊が付いてるね。
なんだろう、このデザイン。
「マリエッタ、このドローンの名前は?」
「はい、リリちゃん2号ですっ!」
「はい?」
「マリエッタちゃん、違うよ!このドローンの名前は『リリィナイト2』だからね!」
「……マリエッタ?」
「略してリリちゃん2号ですっ!」
「アイリスさん、応援に来てくれたんですね。ありがとう」
あくまでも自分のネーミングを強弁するマリエッタの言葉に、ガレージ奥から出て来たエミールは苦笑いしながらも私に挨拶をしてきた。
昼間はずっと同好会のガレージに入り浸っていたらしいし、きっとマリエッタはこの調子でエミール達に迷惑を掛けていたんだろう。
「ごめんなさい、マリエッタがご迷惑掛けたんじゃ……」
「いやいや、マリエッタちゃんのおかげでリリィナイト2の動きは格段に良くなったよ。モーションパターンもシャープになったし、機体はそのままなのに機動性も17%向上したんだ!それに――」
「……えっと、お役に立てたようなら何よりだけど」
なんだかドローンのことを話し出したエミールの語りが長くなりそうな気がしたので、適当なところで話の腰を折って違う話題を振ってみることにした。
「それで、優勝できそう?」
「ああ、これなら優勝も狙えるんじゃないかな。賞金があれば皆の出身孤児院に十分な寄付だってできる!」
「マリエッタも頑張りましたっ!」
ああ、そういうことか。
エミールはともかくとして、マリエッタがドローンの調整に打ち込んでいた理由がわかった気がした。
この子も孤児院出身だし、その孤児院は惑星全土に影響を与える星間犯罪の影響で結局閉鎖になったと聞いている。 マリエッタは自分の出身である孤児院に対する恩返しの代わりに、エミールの孤児院の力になりたいと思っているんだろう。
事がドローンがらみである以上、私は直接力になれないけど……マリエッタの願いが叶うことを祈るばかりだ。
ドローンバトルトーナメントはクレリスの郊外に設けられた特設会場で行われる。
全16チームが出場し、試合は2つのリングで平行して行われるらしい。
ブランシェリリのチームはBブロック、ローズリュージュのチームはAブロックなので、カルティアンアカデミー同士の対決が見られるとすれば決勝戦ということになる。
と言うことは、先日アウレリアが言ってたローズリュージュの悪巧みは当面エミール達には影響がないということになるけど、裏を返せば決勝戦という一番大事なところで影響が出る可能性もあるということだ。
一体どんな不正を行うのだろう、と思った時に気が付いた。
そう言えば私、ドローンバトルトーナメントのルールを知らなかった。
マリエッタとアウレリアが寮の部屋で話しているのを聞くとはなしに聞いていた記憶から、2対2の格闘戦であることは知ってるけど……。
私は隣の席に座っているアウレリアがルールを知っているのか確認してみた。
「え?もしかしてアイリスさん、ルール知らないの?」
「うん。というかアウレリアは知ってるの?」
「当たり前でしょ?ボク達、この所毎日どうやって戦うか部屋で話し合ってたのに」
「……そうだっけ?」
アウレリアに盛大なため息をつかれてしまった。
一応、私も自分に対して2人が話しかけている時はちゃんと内容を聞くようにしていたんだけど、2人で話している内容は殆ど聞き流してたんだよね。
ジャーナルを読んだり、オンラインセッションで議論したりするので手一杯だったから。
そんな言い訳を口にする私を軽く睨んでから、アウレリアがルールを説明してくれた。
まずドローンバトルに出場できる機体には、一定のレギュレーションが課せられているということ。
100立方メートルの箱――だいたい一片が4.6mに相当する――に収まるサイズであること。
パワーコアは1つしか搭載できないこと。
エネルギー兵器や実弾兵器などの射撃武器は搭載禁止であること。
形状は人型である必要はないこと、等々。
「んー、じゃあさっきのリリィナイト2は身長的にサイズいっぱいって事?」
「うん。でもリリィナイトは細身だからたぶん他のドローンより機動性は高いよ」
「ボディが小さいと搭載できるパワーコアも小さくなるよね?不利じゃない?」
「そこを補う作戦だよ!それにパワーコアは高いから高性能なものはブランシェリリで用意出来ないからね……」
なんとも世知辛い理由だけど、リリィナイトのあの形状は金銭的制約によるところが大きく、手持ちのカードで最善を尽くす作戦を練っているらしい。
で、試合のルールは……タッグマッチ制で、リングに上がれるのは両チーム1体ずつ。
戦闘は基本的にドローンの自律判断で行うけど、音声による指示は可能。
どちらかのパワーコアが破壊されるか、場外へ落とされると負けになるらしい。
つまり通常なら2体分の耐久力で戦えるところを、ブランシェリリは1体で賄わないといけないってことだ。
これ、かなり不利な状況だよね?




