#15
>>Iris
アリサの口からピアースの名前が出た翌日、再び私はピアースの名前を耳にする事になった。
私は直接的にベネディクト・ピアースという人物とやりとりしたことはないけど、それでもペルセウス腕から戻って以降、彼の関与した事件に関わることがあった。
だからこそ彼の影響がかなり広範囲に、そして色濃く残っている事を感じざるを得ない。
「――ってことで、海賊とピアースの義娘が相手らしいですっ!」
「海賊にピアースの娘、か……ヒナ、また面倒な事件に関わってるんだね。あの子、休暇も取れてないみたいだし大丈夫なのかな」
「この前の入院中はずっとベッドの上だったから、体を動かす方がまだ良いって言ってましたっ」
アノインティングでの一件では生死の境を彷徨う病状で入院してたんだし、それは休暇っていうよりも静養、療養の類いだよね?
いや、それ以前に海賊相手のミッションとか、いくらヒナがセミテロマーだとしても少し荷が重いんじゃないだろうか。
現にマリエッタに通信で手助けを求めてきたみたいだし。
「一応、アリサにも情報共有しておいてくれる?特にピアースの件は気がかりだし……アルカンシェルから離れてる私達は動けないけど、アリサとトワならいざというときに駆けつけることも出来ると思うし」
「はいっ、かしこまりですっ!」
私には遠くでミッションに挑んでいる友人の無事と健闘を祈ることしかできないことが、歯がゆかった。
そして翌週の中頃、ついにギルドがデモクラスへ全力制裁を行ったことが正式に公開された。
ニュースネットもホロビジョンもその話題で持ちきりだ。
メディアの論調やコメンテーターの解説は概ねデモクラスの自業自得による破滅というものだったけど、配信された動画に付けられたコメントにはギルドの過剰制裁だという声がないでもなかった。
「やっぱり、こういう反応になるか……」
「でもこの星、ギルドに喧嘩を売ったんだよね?ちょっとどうかしてると思うな」
「そういえば昔はどうだったの?全力制裁ってあったの?」
「うん、ボクが知ってる範囲でもいくつか全力制裁があったよ。でもギルドは敵対者に対して厳格で容赦ない制裁を行うっていう話が広まって、馬鹿なこと考える人は確実に減ったって聞いてるけど」
アウレリアの知る900年前の段階では時折全力制裁は実施されていたらしい。
私が遡ったここ数百年の事例では制裁の実施例は少なく、かつ小規模なものばかりだった事を思えば、過去の制裁が実効性を持つ抑止力となっていることがわかる。
でも、その効果は時と共に薄れていって、デモクラスのケースが発生した。
私が目指すべき破滅の回避を実現する方法は星が愚行に走る要因を防ぐことだけど、これは内政干渉にあたる可能性が高い。
なら、もう一つの方法である抑止力効果を高めることが、ギルドが取り得る最善手なんだろうか……。
「ところでアイリスさんっ、最近『辻占少女』が話題なんですけどっ」
「つじうら……?何それ」
「なんでも辻斬り少女が言っていたギルドの制裁が現実のものになったっ!あの少女は予言者なんだって噂ですっ!」
「ああ、それボクも聞いたことある。辻斬りプラス占いで『辻占少女』なんだって。アイリスさんの事でしょ?」
「いやいや、私辻斬りも占いもしてないし、そもそも辻占ってそういうものじゃないよね?」
なんだか知らない間にキャンパス内で訳のわからない二つ名を付けられているらしい。
いや、「英雄」も知らないところで付けられた二つ名だけど、「辻占少女」よりはまだマシだ。
「いっそのこと『英雄』ですって名乗ってみたら?そしたら『辻占少女』なんて二つ名は一瞬で吹っ飛ぶと思うよ?」
「名乗った瞬間に平穏なキャンパスライフも吹っ飛ぶよね?」
「あははっ!」
アウレリアは気楽そうに笑っている。
うん、アウレリアだ。
彼女は結局、夜寝るときに寮へ帰る以外は基本的に私と行動を共にしている。
食事も基本的にブランシェリリの食堂で食べてるし、今も私達の部屋でまるで自室のようにくつろいでるし。
顔見知りのいない惑星……いや、誰も知る人がいない時代に一人放り出されて不安なんだろうね、この子も。
眠り姫だった彼女を長い眠りから解き放ったのは私達だし、せめてアカデミーにいる間ぐらいは側に付いていてあげるのがアフターフォローってやつだ。
なにせアウレリアを救出したのはギルドのミッションだったし、うちのモットーは万全なアフターフォローだからね。
ともあれ制裁が公開されたことでこれまでの架空のケーススタディという体裁は取れなくなった。
ここからは実際に起きた事象の分析を協力的だった研究者に依頼しつつ、現実的な破滅回避の方法論を検討、検証するフェーズだ。
でも辻占少女か……明日から教授達の研究室を訪問する際にどんな顔をして行けば良いのやら。
本筋とは関係のない事に頭を悩ませながら、夜は更けていった。




