#4
>>Alyssa
G17……いえエレオノーラから伝えられた事情はなんとも意外なものでした。
ナミが乗っていた、ダンディライアンで再生されたリュミエール。それを使って届けられた、ボディを失った機族のコアが施設管理用の人工知性体となったこと。
そして破損していた元の施設管理用知性体がR07……すなわちヒューゴ・ランドルフの人格を宿したもので、今は子猫型ドローンに搭載されていること。
そしてR07とG17の相互作用によって、G17はエレオノーラ・グリーフの人格に目覚めたこと……。
「そんな事があるのですね」
『はい。おかげさまで、私は……その、夫と再会出来ました』
「痴話げんか、してる?」
『ああ、こいつは頭が固くてヒステリー気味だからな』
『ヒューゴ!』
『な、ああやってすぐに怒るんだ』
「ほほう」
人工知性体が長い年月を経てモデルとなった人物の人格を覚醒させるという、奇跡的な話はトワ様のツッコミによって一気に痴話喧嘩になってしまいました。
なんでも人格モデルの元となったエレオノーラ・グリーフとヒューゴ・ランドルフは夫婦だったそうで、その関係性こそがG17の覚醒を促す鍵になったのだとか。
そう考えれば、痴話喧嘩もこの2人には必要なことなのかもしれないと私は思いました。
しばらく言い合う2人のやり取りを聞いていた私ですが、会話が落ち着いたタイミングで来訪の理由を告げました。
まずはアルカンシェルの船体に関すること。
メンテナンスと武装の追加についてです。
もちろん、エレオノーラにはこれを受け入れる義務がある訳ではありませんが、スターゲートの向こう側に関するデータの提供を報酬として提示したところ、快く受け入れてくれました。
本人が言うには見返りが無くても引き受けてくれたそうですが……ギルドとしては受けた恩義に対する対価は支払わねばなりませんからね。
ですが、武装の搭載に際して問題が発生しました。
それは、エレオノーラが提示する武装が2種類あったということです。
「グラビティカノンか、光子魚雷……ですか」
『はい。貴女方が所有する船の船首部分に搭載可能な共通規格の武器ユニットはこの2種類です。どちらを希望されますか?』
ホロディスプレイに表示されている、甲乙付けがたい物騒な武器に私は眉をひそめます。
アルカンシェルはあくまでもトワ様が保有する私有クルーザー扱いで、軍艦や戦闘艦ではありません。
ですがエレオノーラが提示している武器はそのどちらもが、ペルセウス腕で稼働している一般的な軍艦よりも格段に強力な兵器だったのです。
「グラビティカノンは前回お勧めされたものですね。たしか重力場で砲身を形成して、重力加速による弾頭射出を行う武装……でしたか?」
『はい、概ねその理解であっています』
「残飯で敵船を撃沈する。格好いい武器」
格好いいかどうかは判りませんが、トワ様が言うように船内の不要物を弾体として射出できるので、弾数をあまり気にせずに撃てるところが利点の兵器だと言えるでしょう。
そしてもう一つの光子魚雷は、私達が……そしてペルセウス腕がギリギリのところで放浪機の魔の手から逃れる切り札となった兵器です。
「光子魚雷の方は4連装のものを左右の双胴部分に装備、ですか。なら、装弾数は8発ということですね?」
『はい。弾体が比較的大きいので、予備弾倉を搭載すると船倉のスペースをかなり占有します』
こちらは着弾箇所を起点とした直径300m範囲内の物質を原子崩壊させ、光に還すというトンデモ兵器ですが、弾体の数が有限であることと、弾速の遅さから命中させるのが難しいという難点があります。
運用面や継戦能力を考えれば扱い易いグラビティカノンに軍配が上がりそうな気はしますが……。
「アリサ、どっちがいい?」
「アルカンシェルはトワ様の船ですから、最終的な判断はトワ様にお任せしますが……。運用的にはグラビティカノンの方が有利だと思います」
「ほほう。アイリスにも聞いた方が良い?」
「そうですけど、ここからだと恒星間通信は難しいのでは?エレオノーラ、どこか人類文明の拠点と通信はできますか?」
『申し訳ありません。当施設の重力波通信を受信できる施設は有効通信距離の30パーセク圏内には存在しません』
30パーセクという通信距離距離は、一般的なC3による超光速通信よりも格段に交信範囲が広いのですが、そもそも私達の文明は重力波通信を受信できる通信機を保有していませんから、どれだけ範囲が広くても通信は成立しません。
つまり、ここからでは直接アイリスさんに連絡を取ることはできない、ということです。
私がそう告げると、トワ様は少し考えたあとに言いました。
「なら、サクヤに相談する」
私達がアルカンシェルに武器を搭載する理由はただ一つ。いつかまた放浪機と遭遇した際に戦う力を得るためです。
それならば、放浪機に詳しいサクヤの意見を聞くのは正しい選択だと思いました。
『武装?で、選択肢はグラビティカノンに光子魚雷?どっちもアタシの知らない武器じゃん』
「ここのオリジナル武器」
『光子魚雷ってのはこの前使ったあの馬鹿兵器だよね?もう一つは……あ、コレはダメなやつだよ、マスター』
「ほほう?」
『実弾体は放浪機には通じないよ。あいつら、投射体の類いは慣性制御で全部止めちゃうからさ』
サクヤが言うように、確かに放浪機は防御フィールドを纏っていました。
防御フィールドがエネルギー兵器の威力を減衰させるということは確認していましたが、実弾による衝撃効果を無効化することができるとは。
「サクヤ、投射体が無効ということですが、推進力のある弾体の場合はどうですか?」
『着弾寸前に慣性が殺されて射出時の勢いは無くなるけど、弾体自体はゆっくりと進んで命中すると思うよ。で、フィールド内にでも着弾して爆発すればダメージは通るね』
つまりロケット弾のような自己推進能力を持つ実体弾……「推進弾」とでも言うようなものであれば攻撃は届く可能性がある、ということですね。
光子魚雷の方は射出後にフォトン推進で飛行しますから、フィールドがあっても放浪機に命中させることができますし、そもそも近接信管が使えるようなので命中しなくとも300mの効果範囲内に巻き込むことができれば問題ありません。
弾数については……おそらく、8発で足りないような状況に陥った時点で私達の命運は尽きているでしょうから、自衛のためならそう多くの光子魚雷を持ち歩く必要もないでしょう。
「トワ様、先ほどの意見を撤回します。サクヤの話を元にすれば、光子魚雷以外の選択肢はありません」
「うん。サクヤもそう思う?」
『だね。まぁアタシが高次予測して命中させるから、八発八中間違いないよ?』
それを言うなら百発百中だと思うのですが。
私がそんな事を考えていると、何事かを思案していたトワ様が口を開かれました。
「エレオノーラ。魚雷ってジャンプしないの?」
『ジャンプというと、超光速航行ですか?』
「うん。重力で空間歪ませるって聞いた。敵までの空間歪ませたら、すぐ届く?」
トワ様の言葉にエレオノーラは沈黙しました。
おそらく、人工知性体の演算能力と、科学者であったエレオノーラ・グリーフの知識を元にシミュレーションを行っているのでしょう。
『シミュレーションを行いました。原理的には可能です。ですが……まさかそんなことが』
『エレオノーラ、俺にもデータをくれ。転移魚雷か、これは面白そうな研究テーマだ』
どうやらトワ様の一言が2人の研究欲を刺激したようです。
ですが、転移で攻撃対象の内部に飛び込んでくる光子魚雷?
それは回避不能な死そのものじゃないですか……。いえ、光子魚雷の時点でそもそも防御はできないのですが。
光子魚雷も転移魚雷も、どちらも人類の手には余る技術です。ギルドどころか、人類そのものに対して秘する必要があるかもしれません。
「アリサ。フォトナイザーのシステムで光子魚雷を生成するのは?」
「と、トワ様っ!?それ以上はダメですっ!」
トワ様が言われるフォトナイザーシステムとは、フォトンープラズモン結合と呼ばれるナノスケールの結晶構造にフォトンを閉じ込め、実体を持つ疑似粒子を形成する超技術です。
このシステムを使えば、フォトンエネルギーと結晶構造の設計データさえあれば……何度でも疑似物質を瞬時に生成することが可能です。
例えばケンやヒナが使っているコンバットスーツや、アイリスさんのアガシオン、そして……光子魚雷のような弾体であっても。
エレオノーラ達にフォトナイザーシステムの技術情報が伝われば間違いなく光子魚雷は「弾数無制限の破壊兵器」へと進化するでしょう。
それは人類が放浪機と全面戦争を行う際の切り札にはなるかもしれませんが、少しでも扱い方を間違えば人類自身を滅ぼすトリガーにもなりかねません。
いえ、コンバットスーツを瞬時に生成するフォトナイザーシステムの時点でも、既に十分危ういのですが。
ともあれ、それは技術アイデアであっても、エレオノーラ達には伝えるべきものではないと私は考えました。
――そして同時に。
トワ様のアイデアを実現せざるを得なくなる事態……つまり、このペルセウス腕に放浪機が来襲するようなことがないことを、切に願いました。




