↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部9章「トリコロール・ナイト」クレリス-闘機の惑星
617/637

#2

>>Iris


 カルティアン・アカデミー。それは学術研究と知識の集積で有名な惑星クレリスでも最高学府と称される教育研究機関だ。


 その名の通り理事長は私の友人でもある機姫カルティアだけど、彼女は大図書館から出ることが出来ないし、人間の営みに直接関与することはないから、実質は名義貸し状態なんだけどね。

 それでも彼女のコネがあれば短期留学をねじ込んで貰うことはできるし、身元を偽装する事も了承してもらえたんだ。


「ペレジスから来られたアイリス・プランタジネットさんとマリエッタ・プランタジネットさんですね。1ヶ月の短期留学と伺っております。学習目的や専攻について簡単にお伺いしてもよろしいでしょうか?ご希望に応じた研究施設をご案内させて頂きます」

「はい。妹共々よろしくお願いします」


 どうも私はこの星では「英雄アイリス」として無駄に名前が知られてるんだよね……。

 今回は純粋に勉強しに来ただけだから、アリサとカルティアのコネを使って「ペレジスからの留学生、プランタジネット姉妹」って言う設定にしてもらったんだ。


 もちろんペレジスに実在するプランタジネット家の当主で、アリサの元専属秘書であるテレジアさんの了解はもらった上で、ね。


 書類上の身元だけでなく外見も少し変えた方がいいかと思って、私は眼鏡を掛けて髪型もいつもの三つ編みじゃなく2つ結びに変えている。

 うん、ちょっとアリサっぽいよね。


 マリエッタの方は書類上の名前が違うだけで外見はいつも通り。

 この子はクレリスではまだ顔も名前も知られてないから問題ないと思う。


 アカデミーの事務職員と言葉を交わしながら、私はそんな事を考えていた。


 今回私が学びたいのは政治経済と心理学、それにメディア学だ。

 いずれも独学で基礎を囓ったことはあるけど、それぞれの分野の専門家と渡り合える程の知識なんてないことは自覚している。

 だからそれらの学問領域を学びたいと思っていると、事務職員の人に告げたんだけど……。


「あの、短期留学……ですよね?どの学問領域も5年の課程で学ぶことになっているのですが……」

「いえ、体系立てた学習ではなくて、専門の研究者の方とお話しする機会を設けて頂ければ」

「特定の研究室に所属されるのではなく?」

「はい」


 うん、ここに関わらずアカデミーは基本的に講座制だから学生は研究室に所属し、指導教員の元で専門領域について学ぶ形になるのが一般的な学びのスタイルになっている。


 けど、私が欲しい知識は学際的かつ網羅的なものであって、特定の研究室で深く研究をしたい訳じゃない。

 それに休暇は1ヶ月しかないからね。

 のんびりとキャンパスライフを楽しんでいる訳にもいかないんだ。


「すみません、異例な申し出だということは承知していますが……」

「いえ、理事長から可能な限り配慮するようにと指示が出ておりますので。ご希望の学問領域はいずれもこちらのキャンパスで対応可能ですから、関連する研究室のリストアップを行いますね。それで、妹さんの方は……」

「はいっ、わたしは機械工学を勉強したいですっ!一応、学位は持ってるんですけど、実践的なドローンカスタマイズを極めたいですっ!」


 そう、マリエッタは本来スクールの学生相当の年齢だけど、飛び級を繰り返してアカデミーの学位を持ってるんだよね。

 その話を最初に聞いたとき、てっきり凄腕ハッカーである彼女が得意とする情報工学の学位かと思ったんだけど、持ってる学位が機械工学と化学だと聞いて驚いた記憶がある。


 なんでも情報工学はアカデミーレベルじゃ簡単すぎて退屈だったとか言ってたっけ。

 最初はその言葉に呆れたものだけど、マリエッタと一緒にいるとその言葉は誇張や驕りではなく、単なる事実だってことはすぐに判ったんだけどね。


「えっと……マリエッタさんは14歳、ですよね?でも、この学位証明は確かに本物ですし……。えっと、理工系の研究科は広い敷地が必要ですので、このキャンパスではなくて、少し離れた所の第二キャンパスになるのですが」

「えっ!?アイリスさん……じゃなくてお姉ちゃんと別キャンパスなんですかっ!?それはダメですっ!一緒、一緒じゃないと意味ないですっ!」


 マリエッタはそう言うと私の腕にしがみついてきた。

 うん、仲良し姉妹という設定で留学してるから、この行動自体は自然なんだけど……トワ以外から姉と呼ばれるのは不思議な気分だ。

 いや、一応アリサも私の義妹ということになってるけど、あの子は冗談以外では私のことをお姉ちゃんとは呼ばないからね。


 結局、マリエッタは自分の学びよりも、私と同行することを選んだ。

 セレスティエルとして長い寿命を持つ私にとって1ヶ月は大した時間じゃない。けど私と違って限りあるこの子の時間を無駄にすることは気が引けるのだけど……。

 さすがにこの場でそんな事を口にすることはできないし、あとで2人で話し合うことにしよう。


「入寮手続きについてなのですが、理事長から希望の寮を選んで頂くよう指示が出ております」

「どういう候補があるのですか?」

「こちらのキャンパスに併設されている寮でしたらローズルージュ(赤いバラ)とブランシェリリ(白いユリ)の2つですね」


 事務員さんの説明によるとローズリュージュの方はいわゆる上流階級の子女が入寮する贅沢寮らしい。

 設備は充実しているし、部屋も広い。さらに学生の日常生活をサポートしてくれる専任のハウスメイド的な人まで付いているらしい。

 入寮には本来かなりの費用が必要らしいけど、今回はカルティアか費用負担をしてくれるらしいので、事務員さんはこちらをお勧めだといった。


 一方のブランシェリリの方は一般家庭……というよりも奨学生向けに無償提供されている寄宿舎のようなところで、本当に寝泊まりする部屋があるだけ。掃除も洗濯も炊事も学生自身で行うことになるらしい。


 単純に条件だけ聞けばローズリュージュの方が良さそうな気はするけど……。


「お茶会に、夜会?」

「はい。ローズリュージュは卒業後に人脈を維持するために定期的な交流会が開催されていて、OBOGの方も良く顔を出されるんですよ。あのモーリオンギルドの方も時折お越しになられますし」


 職員さんは笑顔でそう言うけど、ここのギルド支部の人間と顔を合わせたら一発で私の正体がバレるし、そもそも私はここへ人脈作りに来たわけじゃない。

 茶会や夜会で遊んでる暇があるなら勉強したいから、私は迷わずにブランシェリリを選択した。

 マリエッタは茶会に夜会と聞いて、ちょっとだけ興味があったみたいだけど。


 うん、私のわがままに付き合わせてるんだし、マリエッタのためにギルド支部の人間が来ない時を見計らって1度ぐらいは顔を出してもいいかな。


 そんな事を考えながら、私達はキャンパスライフへの第一歩を踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。