#1
>>Alyssa
惑星デモクラスへの全力制裁を見届けるという陰鬱なミッションが終わり、セノンとマナという2人の亡命者をパノプティコへ送り届けた私達は、次の行動について話し合いを行いました。
「メラニーには今回の件について厳重な抗議を行った上で、今後一方的なミッション押しつけには応じない旨を伝えておきました。ですから、今後は私達の意思でミッションを受領するかどうかを決定しても問題ないと思います」
「ありがとう、アリサ。じゃあ今後だけど……今回の件はさすがに精神的にくるものがあったことだし、お休みを貰うことにしようか。1ヶ月ぐらい」
いつもならワーカーホリック気味ですぐにでも次のミッションを、と言い出しそうなアイリスさんが1ヶ月の休みを口にするところを見ると、表情には出さないまでも精神的な疲労が大きいのでしょう。
実際、デモクラスで暴徒に撃たれた傷もまだ完治していませんし、休養を取るのは当然の権利です。
それに私達はまだしも、惑星が砕かれる場面を目撃したトワ様とマリエッタことを慮ればしばらくミッションは行わないという選択肢は正しいと思いました。
問題があるとすれば、どこで休暇を過ごすかということですが……。
「それなんだけどね、私……少し勉強したいと思うんだ」
「勉強、ですか?」
「また同じような事があったときに、今度は誰かを救えるようになりたいと思って」
「ですがアイリスさん、今回のことは……」
「判ってるよ。デモクラスはすでに手遅れだった。でも、もっと早く兆候に気付くことができて、そして誤った道を正すことが出来れば……」
そう呟いたアイリスさんの言葉には哀惜の念が滲んでいました。
彼女が考えるその行いはギルド憲章が禁じている内政干渉に他なりませんから、実際に星の判断に介入することは私達には許されません。
ですが、それでも……彼女は何かをせずにはいられないのでしょう。
休暇を取って業務のための勉強するというのが、本当に休暇なのかは疑わしいですが。
「アイリス、勉強するの?」
「うん。皆を付き合わせる訳にもいかないし、私1人でどこかの星で勉強するつもり。その間、トワ達は羽を伸ばしてきて?」
「アイリスさんっ、お供しますっ!わたし、アイリスさんの専属秘書官ですからっ!」
アイリスさんの言葉にマリエッタがそう言います。
おそらく専属秘書官というのは口実で、アイリスさんの側にいたいのでしょうね。
それにマリエッタも口には出しませんが、惑星破壊爆弾が再び使われたことにショックを受けていた様子でした。
星が砕かれる様は遠目に見ていても恐ろしい光景でしたし、その惑星上に多くの住民が残っていたことを思えば……。
デモクラスの民衆を直接知らないからこそ、マリエッタにはなぜ人々が制裁を受けることになったのか、納得がいかない部分もあるのだろうと思いました。
「アイリス、私は?」
「トワは勉強、嫌いでしょ?」
「うん」
「ならアリサと2人で……そうだ、もし面倒じゃなかったらダンディライアンでオンブルを受け取って来てくれない?リルカから早くオンブルが欲しいって催促来てるんだよ」
おそらくアイリスさんが勉強されるならアカデミーでしょうから、座学がお好きではないトワ様にとっては退屈な環境なのだろうと思います。
惑星上で暇を持て余すぐらいなら、他の事をしていたほうが気も紛れるでしょうから……。
そこまで考えた私はふとある事に気付きました。
アイリスさんとマリエッタは惑星上でお勉強。
トワ様はアルカンシェルで遠出。
ヒナはオラクルへ戻っている。
この状況、私がアルカンシェルに残っていれば……トワ様と2人で遠出、つまりイチャラブ新婚旅行になるのでは?
そう考えた私はトワ様に向きなおり、力強く言いました
「トワ様っ!ダンディライアンへのおつかい、是非引き受けましょう!アリサが同行させて頂きます!」
「うん。ありがとうアリサ」
「こちらこそありがとうございます!幸せにします!」
「……アリサ、何か暴走してない?いや、まぁいいけど……ちゃんとトワのこと見ててあげてね?もちろん、姉として」
私が内心で何を考えていたのか、アイリスさんにはお見通しだったようです。
ですがとりあえず姉の了解は得られましたので、私とトワ様は新婚旅行へ赴くこととなりました。
「いや、新婚旅行じゃないからね?」
疲れたようにアイリスさんがそう言ったのは、きっと負傷と心理的疲弊のせいに決まっています。
ええ、そうに違いありません。
その後、アイリスさんの短期留学先はクレリスに決まりました。
クレリスは学術研究に関しては周辺宙域でもトップクラスですし、私達も何度か訪問しているので惑星に馴染みがあります。
それに何よりもクレリスはアイリスさんの友人である機姫カルティアの星です。
なんでも彼女が理事長を務めるアカデミーはクレリスの最高学府だそうですから、アイリスさんの留学先として最適でした。
留学手続きにも便宜を図って貰えるとのことなので、もろもろの条件的にみてクレリスが最適……いえ、クレリス以外の選択肢は考えられない状況だったのです。
「いや、アカデミーへの短期留学で便宜を図って貰った見返りに、期間中何度か大図書館に顔を出せって言われてるけどね……」
「わたしも一緒に行きたいですっ!」
アイリスさんはややげんなりとした表情で、マリエッタは嬉々としてそう言いますが、機姫カルティアは面会予約が数年待ちという大物なのです。
そんな彼女に面会を……それも向こうから求められるという時点で、アイリスさんの方が余程大物だと思うのは私だけでしょうか。
ともあれ、私達は一旦クレリスへ寄港し、そこで二手に分かれて1ヶ月の休暇――実際は勉強と、雑務処理を兼ねた新婚旅行――へと向かうことになりました。




