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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部8章「ダモクレスの剣」デモクラス-懲槌の惑星
613/628

#21

>>Iris


「惑星破壊爆弾」


 トワが呟いた言葉に、記憶が蘇る。

 遺失技術(ロストテクノロジー)が保管されていた、G17の管理する小惑星での記憶が。


『こちらが惑星破壊爆弾になります。掘削機構付き弾頭で射出後は地下へ潜行。約24時間で地核を破壊し、星ごと壊滅させる事が可能です』

『星ごと放浪機を確実に破壊するためのスターデストロイヤーです』


 あの技術開発拠点に展示されていた惑星破壊爆弾について、G17が語った言葉。

 放浪機を撃退するために星ごと破壊するという荒唐無稽な破壊の力が、今まさに私達の目の前で人類に向かって振るわれている?


 だけど、もはやデモクラスの住民を救うことは出来ない。

 なぜなら私達が見ている光景は……3時間前の出来事だから。


 私達は全員声も無く眼前の光景を――デモクラスという星そのものが砕かれてゆく様を見つめていた。


 噴出するマグマが惑星の表面を覆っていく。

 そして……次の瞬間、惑星が明るく輝いた。


 直後、船窓から見える宇宙空間が暗転し星々が見えなくなった。それに合わせるように映し出されていた望遠映像も一瞬で輝度が落とされる。


『防眩フィルタ展開。映像輝度を自動調整……こんなの見たらあんたの貧弱な目、焼けるっしょ?』

「……ありがと、サクヤ」


 どうやらサクヤが自動的に対応してくれたらしい。

 憎まれを叩きながらも、私達の事を気遣ってくれるのはサクヤらしいと思った。


 しかし……なぜギルドが遺失技術を?

 いや、確かにギルドはあの小惑星に諜報部を派遣し、保管されていた超光速艇(リュミエール)を奪っている。

 なら、行きがけの駄賃に惑星破壊爆弾を持ち出していても不思議は無いけど……。


 元機族で人造の知性体であるサクヤが私達を気遣ってくれるというのに、人間の組織であるギルドがこんな過剰な暴力を振るうということに、私は強い違和感と理不尽さを感じた。

 そして、その想いは私だけのものではなかった。


「どうしてっ!ギルドが星喰み(アバドン)と同じものを使うんですかっ!」

「アーレスに惑星破壊爆弾を使ったのはたぶんピアースだから……。ピアースは監察部の部長だったし、アーレスに対して使われたものも、ギルドが保有していたものだったのかも」


 マリエッタの悲痛な叫びに、ヒナが冷静にそう答える。

 だけど、ヒナの表情も理不尽さへの憤りを隠しきれていない。

 私はマクドウェル将軍に通信を繋ぎ、惑星破壊爆弾について説明を求めた。


『スターデストロイヤーの事を知っているとはさすがだな。統括局でも保安部と一部上層部しか知らぬ極秘兵器なのだが』

「アーレスという星で使われたと聞いていますが」

『何?アーレスは地殻変動の影響で滅んだと聞いているが……それは事実か?』


 将軍は惑星破壊爆弾、彼らが言うスターデストロイヤーの使用そのものは否定しないようだけど、それはギルドの最高機密だと言う。

 そしてヒナが言ったアーレスでの使用については把握していないとも。


 一見すると彼の言葉には嘘が無いようにも思える。

 だけど……。


「アーレスには星喰み(アバドン)が、ピアースの手が及んでいました!」

『ベネディクトの奴か……判った。新任の監察部長に情報を共有して内偵を進めてもらおう』

「部長!?後任の部長が決まったんですか!?」

『まだ内示段階だが、半月ほど前に決まっておる。公表するまでは秘密だとメラニーに念を押されているので、それ以上のことは言えぬが』


 星喰み(アバドン)の黒幕であったベネディクト・ピアースはギルドの監察部の部長であり、ヒナの上位者でもあった。

 彼が自滅してから既に2ヶ月以上が経つ。

 さすがに後任が決まっていてもおかしくはないけど……。


「それよりも将軍。何故艦隊ではなく惑星破壊爆弾を?」

『即応性の問題だ。艦隊を動かしての全力制裁には十数年……下手をするとそれ以上に時間が掛かる。事案発生から間を置きすぎると当事者はすでに老衰で死亡し、無関係な者に制裁を加えることになる。それはこれまでも問題視されていたことだ』

「だから、制裁を即時に行うために?」

『うむ。過去の者が犯した罪の責任を問われるのは割に合わぬからな。罪を犯した者に責任を取らせるためには迅速な制裁、すなわち超光速艇(オンブル)で輸送できる手段が有効だ』


 将軍が言っていることは確かに理にかなっている。

 自分とは無関係な罪で滅ぼされるのは、巻き添え以外の何物でもない。


 だけど……遺失技術をこんな事に使うのは、何かが違っている気がした。


『アイリス嬢、言いたい事は判る。だがおそらくこれが最初で最後のスターデストロイヤー行使だと儂は思っておる。そのためにも今回の制裁については銀河中に広く知らしめねばならん』

「ですが、これは非人道的では……」

『刃物で刺されても、ブラスターで撃たれても、爆弾で吹き飛ばされても、スターデストロイヤーで星ごと滅ばされても、人は同じように死ぬ。兵器はすべからず非人道的であり、武力を行使する儂らは全て人非人だ。この業を背負うのは儂ら戦争屋だけで十分ということだ』


 マクドウェル将軍の言葉は正論だ。だけど、割り切れないものを感じるのも事実だった。

 私が言葉に詰まると、アリサが口を開いた。


「将軍。制裁措置を確かに見届けました」

『うむ。巻き込んですまなんだな、アリサ嬢』

「いえ、これも幹部としての責務ですから」

『では儂はこれで失礼する』


 そう言うと通信は切れ、船窓に新しい輝きが生まれ……将軍の乗るオンブルは何処かへと跳躍して行った。


「……結局、私にはダモクレスの剣が落ちるのを止められなかった」


 超光速航行の残滓である虹色が宇宙へ溶けてゆくのを見ながら、私は思わずそう口にしていた。

 将軍の姿が消えたホロディスプレイをじっと見ていたアリサが私の方を向いて言う。


「アイリスさん。剣を吊す糸は私達がデモクラスを訪れる前に、既に切れていました。アイリスさんがこの事で思い悩む必要はありません」


 アリサの言葉は真実かもしれない。

 私達がデモクラスの破滅を目にする3時間前に、あの星は既に滅んでいた。

 私達が地表へ降下する前に、既に惑星破壊爆弾(スターデストロイヤー)はデモクラスに撃ち込まれていた。

 そもそも、私達がこの件に関わるよりも前に、デモクラスへの全力制裁は決定されていた。


 なら、私達が動いていたのは……。


「剣が落ちるまでのロスタイムだった……ってことか」

「ええ。こんな悪趣味な事に付き合わされたのです。メラニーにはたっぷりと補償を要求しなければ。ヒナ、ナイチンゲールをオラクルに届ける際に正式な抗議文書を併せて提出して貰えますか?」

「はい、それは構いませんけど……抗議、ですか?」

「ええ。私達が降下するタイミングで、私達に知らせずに惑星破壊爆弾を撃ち込んだことに対する抗議です。脱出が遅れたら巻き添えになってたんですよ?」


 それは確かにそうだ。

 将軍の事だから、離脱のタイムリミットが近づいたら通告はしてくれたとは思うけど……。

 でも、統括局にクレームは入れておいた方が良いかもしれないね。トワを危険にさらしたことに対する抗議を。


 そう考えながら、私は傍らに立っていたトワの顔を見上げる。

 彼女の瞳は深い蒼に染まっていて、トワが今深い悲しみを感じていることを示していた。



 その後、ヒナは一刻も早くナイチンゲールを統括局へ届けると言って、オンブルで旅立っていった。


 正直な所、7名もの同胞の死を記録した装置を早く手放したいというのは私達全員の総意だったから、誰もそれには反対しなかった。


 その次に考えるべきことは、セノンさんとマナの身の振り方についてだ。

 私達は統括局の指示を逸脱し、ギルドと敵対した全力制裁の対象である彼らをデモクラスから連れ出した。


 これが意味するのは……彼らをギルドの庇護下に置くことができないということだ。

 ギルドが2人を追跡してまで制裁を科すとは思えないけど、なるべくなら2人はギルドの影響力が小さい星へと亡命させる必要がある。


 ジョイナーギルドが管理するティンバリスが良いだろうか?

 マリナが統治する海の惑星ヘカテー?

 それともリルカに頼み込んで、アノインティングで匿って貰う?

 カルティアを頼ってクレリスへという手もあるけど、あそこのギルド支部はかなり大きく、力も強い。


 私とアリサはいくつかの選択肢を提示し、最終的な決定はセノンさんに委ねることにした。


 その結果……彼が選んだのは私達の想定外の星だった。


「本当に、そこでいいんですか?」

「うむ。儂らにとってこの星はある意味理想の星じゃ。挙げて頂いた他の星々も良いところじゃが、マナにとっての最善を考えるとここしかあるまいて」

「わたしも、ここがいい」


 私達にとって、彼らが選んだその星はあまり良い印象が無い星だったけど、それでも2人がそこを選ぶというのなら……私達にはそれを止める権利はない。

 私はセノンさんに確認を取った後、サクヤに行き先を告げた。


「サクヤ。聞いての通りだよ。FTL航法設定、目的地は――」

『はいよ、目標パノプティコ、りょーかい』


 そう、彼らが選んだのは……鳥籠の中に存在する偽りの楽園、パノプティコだったんだ。

これにて惑星デモクラスを巡る物語は文字通り終了となります。


次回からは前後編で難民として「あのパノプティコ」へ移住することになったマナの人生をお届けします。


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