#20
今、アルカンシェルは船首をデモクラスに向け、グラビティアンカーを打って宙域に停泊しています。
ブリッジから遠くに見えるデモクラスを見守っているのは私、トワ様、マリエッタ、ヒナ、セノン、マナ。そして……。
「アイリス、大丈夫?痛くない?」
「うん。平気だよ……まだちょっとだけ傷むどね」
「座っててくださいっ!ほら、アイリスさんっ!」
トワ様とマリエッタが甲斐甲斐しく世話を焼いているアイリスさん。
10分ほど前に目覚めたアイリスさんはセレスティエルの治癒力で傷口が既に塞がりつつありますが、さすがにまだ痛みは消えきっていないようです。
ですが、それでも管理官としての責務として、デモクラスの最後を見届けるといってブリッジに上がってきたのです。
「病み上がりのアイリス様って、すごく色っぽいですね」
「そういうヒナだって」
怪我人同士で軽口をたたき合っている所を見ると、予後の心配はしなくて良さそうですが……。
そんな事を考えていると、目視可能な距離に停泊しているマクドウェル将軍のオンブルから通信が入りました。
『まもなく制裁措置が始まる。これから宣言を行うので立会人として見届けて頂けるかな』
「もとよりそのつもりです」
『デモクラスの恒星間通信は既に機能停止しておるのでな。統括局を含めた各所への報告や告知は記録映像で行うことになる』
そう、将軍が言うように今回の全力制裁措置の模様はギルド広報部によって後日、全銀河へその経緯と結果が報じられる手はずになっています。
それはギルドが秘密裏に星を滅ぼすのではないということ、そして制裁には正当性があるということを示すという名目ではありますが、見ようによればギルドが己の力を誇示している……いえ、抑止のための示威行為そのものなのだと私は思いました。
『……惑星デモクラスの住人に告げる。こちらはモーリオンギルド保安部部長ダグラス・マクドウェルだ。貴君らは当ギルドに敵対するという選択をとり、以下に告げる当ギルドの構成員を殺害した。イートゥ・ハーパライネン三等管理官、アミーナ・ユーディ秘書官……』
マクドウェル将軍はデモクラス支部に所属し、殺害された11名のギルド職員の名を次々と読み上げます。
その中には私自身が告死鳥で死亡を確認した7名の名前も含まれていました。
『以上の行為について、デモクラス政府からは十分な謝罪や釈明が無く、また本件と無関係な住民の星外退避の為に与えた猶予期間も満了した。よって……モーリオンギルドは惑星デモクラスに対して全力制裁を実行する』
将軍の言葉が終わり、24時間の猶予期限は終わりました。
ですが……ブラスターの光条も、爆撃の様子も見受けられません。
宇宙は、ただ静かなままです。
「あれ?何も起こりませんよっ?」
「マリエッタ、今私たちに見えているのは3時間前のデモクラスですよ」
「あっ、そうでしたっ!じゃあ観測できるのは3時間後ですかっ!?」
「ええ、そういうことです」
私達の見えていないところで既に制裁措置は行われているのに、その事実を確認出来るのは3時間後。
息の詰まるような、長い長い3時間が始まりました。
「……そろそろですねっ。ちょっと映像拡大してみますっ」
何事も起こらないまま、宣告から3時間が経過しました。
マリエッタがデモクラスの様子を捉えているカメラの映像を拡大します。
最大望遠にすると、船窓からは小さな光点に見えたデモクラスの様子が鮮明に見て取れるようになりました。
そして、そこに映っていたのは……。
――静かに、それでも確実に。
デモクラスという星が崩壊する様子でした。
惑星全土にまるで乾燥した粘土がひび割れるような様相で地割れが形成され、その地割れからマグマらしき赤い輝きが流出していることが見て取れました。
おそらく、惑星上では天変地異のような状態と共に、人々が死に直面している。
映像からもその事が容易に伺い知ることが出来ました。
ホロディスプレイに映し出された光景に、私も含めて全員が言葉を失います。
デモクラスと関わりの薄い私達でさえ眼前の光景には動揺を隠せないのですから……あの星の出身者であるセノンとマナの心情はいかばかりでしょうか。
そっと視線を向けると、マナは目を大きく見開き驚愕の表情を。
セノンはただ静かに哀惜の念をその顔に浮かべているように見えました。
それにしてもこの光景は一体、何がどうなっているのでしょう。
私がデモクラスに起きたあまりにも異常な事態に戸惑っていると、それまで黙っていたマリエッタがかすれた声を上げました。
「ヒ、ヒナッ……」
「あれ……アーレスの時と同じ……!」
アーレス。ヒナが口にしたその名前はかつて彼女から報告を受けた覚えがあります。
確か星喰みという恒星間犯罪の舞台となり、終わりの無い戦争を強制された不運の星。
そしてアーレスは最後に惑星ごと消滅したと。
……惑星ごと?
なら、今私達の眼前で展開されているこの光景は……。
「惑星破壊爆弾」
それまで黙っていたトワ様が呟いた言葉が示したことは、かつて私達が遭遇した遺失技術、惑星破壊爆弾がギルドの手によって使用されているという、信じがたい現実でした。




