#19
>>Alyssa
アイリスさんの怪我のこと。
ギルド艦隊のこと。
デモクラスの辿る運命のこと。
ヒナとフォトライザーのこと。
マナとセノンのこと。
考えるべきことは多いです。
一番心配なのはアイリスさんの負傷ですが、こればかりはメディカルマシンに任せるしかありません。
ギルド艦隊のことは……存在隠蔽も気になりますが、彼らが何を考えているのか不透明な点が気がかりです。
正直デモクラスという星には全く同情の余地はないとはいえ、一つの星が滅亡する所を見るのは気持ちの良いものではありません。
だからといってこのまま見届けずにこの宙域を去った場合、保安部や統括局が何をしたのか伝聞でしか知る事ができません。
今回の全力制裁に関する判断は私達とは無関係ですが、実際に惑星に降りたことで私達はあの星との縁が出来ました。
看取りという意味でも、星の最後を見届ける責任があると私は思いました。
ですがそれをトワ様やマリエッタ、それにマナに見せるのは酷だとも思います。
いっそリュミエールで私だけ残り、トワ様達は先にこの星域から退去しておいて頂いたほうが良いのかもしれません。
「アリサ、お風呂上がった」
「意外と早かったですね。……あら、マナは随分と美人さんになりましたね」
「ありがとう、おねえさん」
デモクラスはおそらく水道インフラも機能不全に陥っていたのでしょう。
その影響でマナもセノンもあまり清潔とは言いがたい様相でしたが、マナはお風呂でトワ様に洗い倒されたのかピカピカの肌にサラサラの髪になっています。
服装もサイズの合わない大人用の衣類を無理に着ている感じではなく、少し大きめのTシャツに……って、どこから出て来たのでしょう、あのTシャツ。
ちなみにセノンにもシャワーを浴びさせましたが、彼に合う服などこの船にあるはずもありませんから、とりあえず高速洗浄した元の服をそのまま着てもらっているのですが……。
「私のTシャツをあげた」
「トワにもらった」
「え?それトワ様のお古なのですか!?トワ様、私にはお古を下さらないのにどうしてマナには!?」
「アリサは私の着れない」
「着るとか着ないとかではなくてですね、トワ様のお召し物があれば、毎日クンカクンカすることが出来るではないですか!」
「……おねえさん、へん」
「同意する」
トワ様の視線はいつも通りですが、マナの視線が急に不審人物を見る目になったのはどういうことでしょうか。
私はただ、トワ様成分を無限に、エンドレスに吸っていたいだけなのに。
……少し取り乱してしまいましたが、今はトワ様成分の話よりも、制裁をお2人に見せるかどうかの方が重要でした。
「こほん。それよりですね、この後のミッション最終フェーズは私が見届けますので、トワ様たちはどこか手近な惑星へ先に戻って頂こうかと考えているのですが」
「アリサ」
「……はい」
「ありがとう。でも、私も見届ける」
トワ様ははっきりとした口調でそうおっしゃいました。
ありがとう、という言葉は私がトワ様を悲劇から遠ざけようとしていることを承知しているということでしょうから、覚悟の上でそう言われているのだと思いました。
「私だけじゃない。マナも」
「うん」
トワ様が続けた言葉にマナも頷きます。
話を聞くと、どうやらトワ様は入浴中にこの後デモクラスに起こることをマナに説明したそうなのです。
そして自分がそれを見届ける覚悟であると告げるトワ様に、マナも自身の故郷が迎える最後を見る責任があると言ったのだとか。
この後に何が起きるのかを知った上で、見届けると言う選択を2人がするのであれば。私がその選択に異議を挟むべきではないでしょう。
なので私はお二人に承知した旨を伝えました。
3光時と言う距離は光が3時間掛けて進む距離です。
光速の99.9%で航行できるレゾナンスドライブを使えば惑星上の時間で言えば3時間強で移動できるはずの距離ですが、実際に3光時の移動にも加速と減速のプロセスが必要なので、6時間という猶予時間は3光時を移動するのにギリギリの時間でした。
……ええ、レゾナンスドライブ搭載艦なら。アルカンシェルに搭載されているグラビティドライブは一般的な航行手段であるレゾナンスドライブよりも格段に加減速が滑らかで効率的なのです。
特に減速については、完璧な重力制御の効果でトップスピードから一瞬で停止する事も可能な驚異的な性能を誇ります。
ですが今回はあえて一般的な亜光速航行をエミュレートする形で移動していますので、私達がマクドウェル将軍の待つ宙域へ到着したのは24時間という猶予期限が終わる5分前のことでした。




