↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部8章「ダモクレスの剣」デモクラス-懲槌の惑星
610/629

#18

 コンバットスーツ姿のヒナは私達の方を向き、片膝を付いた姿勢で荒い息を吐きながら言った。


『……離陸を』

「アルカンシェル、緊急離脱。でも、揺らさないで」


 アルカンシェルからの返事は無かったけど、私の声が聞こえたのか船尾のハッチを閉じながら、アルカンシェルは音もなく空へと浮かび上がった。


 それを見届けたかのようにヒナは凝晶……いや、凝黒を解いた。

 と、船倉の床に滴る赤黒い……血液。

 コンバットスーツにダメージは無かったのに、ヒナが怪我をしてる!?


「ヒナ!?大丈夫ですか!?」

「大丈夫です。このシステム、思ったよりじゃじゃ馬で……傷口が開きましたけど」


 そういえばヒナは肩口に怪我をしてたんだっけ。

 コンバットスーツは装着者の身体能力を増加させるけど、その分反動も大きいってケンが言っていたことを思い出した。


 そう、コンバットスーツを使ったことで、元々傷を負っていたヒナはダメージを受けたんだ。

 私は慌ててマリエッタが用意しておいてくれた止血剤をアリサに手渡した。


 ヒナはアリサの手当てを受けながら、申し訳無さそうな声でいった。


「アリサ様。フォトライザーのこと……隠していて申し訳ありませんでした」


 フォトライザー……あの黒いフォトナイザーはそういう名前なんだ。

 そういえばこの間再会したケンが、そういう名前の偽物と戦って苦戦したって言ってたっけ。


 でも、ケンが戦った黒い偽物はシステムごと破壊したって言ってたけど……どうしてそれをヒナが持ってるんだろう?

 それに隠していたってことは、アリサにも内緒だったってことだよね?


「ヒナ。一つだけ確認したいことがあります」

「はい。何なりと」

「……先ほどのシステムは、『量産型フォトナイザー』ではないのですね?」

「はい。ハッテが開発した……おそらく自分達専用の上位機種、フォトライザーシステムです」


 ハッテ!そう、トーエイのギルド支部長で妙にフォトナイザーに詳しくて、そして怪しかった人だ。


 アイリス達はきっと悪事を企んでるって言ってたけど、フォトナイザー好きが高じて偽物まで作ったってこと?

 ……ちょっとだけ親近感が湧くけど、それは今言うと怒られるやつだよね。


 私がそんなことを考えていると、アリサが静かに言った。


「わかりました。なら、問題はありません」

「ですが……」

「私が貴女に命じたのは『量産型フォトナイザーシステムの破棄』です。それが量産型でないなら、貴女は私の指示に背いた訳ではありません。もし貴女が何らかの罪に問われるとしても、それは私の指示が不適切だったせいです」

「でも、これは破壊と支配のための、悪の力で……」

「ヒナ?力には善も悪もありません。力を扱う者の意思がその価値を決めるのです。もしその力が悪の物だと思うのなら、なおさらその力は貴女が信じる善と正義のために使いなさい。そして、私だけでなく多くの人を守るための力になさい」

「……はい」


 力の在り方、か……私には到底考えも及ばないことだ。

 アイリスもヒナも、大きな力を持っていてもそれを使わないことを選択できる。


 私には……そんなことが出来るんだろうか。



 メディカルマシンで治療を受けているアイリスを私室へ運び、私達はアルカンシェルのブリッジへと上がった。

 マナは興味深そうに辺りを見回しているけど、セノンさんは驚いた表情を浮かべている。

 うん、どちらかというとセノンさんの反応の方が普通だよね。


『ねぇ!ちんちく……アイリスは無事なの?』

「うん。怪我はしてるけど、無事」

『それ、無事って言わないよね!?アリサさん!?』

「大丈夫です、サクヤ。深手ではありませんし、彼女なら完治できるものです」


 うん、セノンさん達がいるからセレスティエルとは言えないけど、でもきっと治癒にはそう時間も掛からないはずだ。

 サクヤと話しながら船窓から外を見ると、既に大気圏からの離脱は完了しているようで、窓の外には見慣れた宇宙空間が広がっていた。


「まっくら……おほしさま、すくないね」

「船内は照明が明るいからのぉ。小さな星は地上よりも見えづらいのじゃろう」


 初めての宇宙に目を輝かせているマナに、セノンさんが優しく星の事を教えている。

 きっとこうやって手取り足取り、色々な知識や常識をマナに教えていたんだろうね。


 でも同じように船窓を見ていたアリサが少し訝しげな顔をしている。

 なにかあったんだろうか?


「マリエッタ、ギルド艦隊の艦影が見えませんが……近隣宙域の反応は?」

「えっと、オンブルらしき反応が1隻だけ……ほかは感知できてませんっ!」

「オンブル……保安部の監視船ですか?それはいつ頃からこの宙域に?」

「えっと、アルカンシェルさんの観測データだと、私達が恒星系内に入った時点からずっと同じ場所にいましたけど、ゼロアワーカウント開始は3光時ぐらい離れた所に移動して投錨してるみたいですっ!」

「となると、そのオンブルはやはり保安部が出している惑星監視船ですね……。とにかくマクドウェル将軍を呼び出して任務報告を入れておきましょうか。サクヤ?」

『はいよー』


 宙域にいるのは小型艇(オンブル)が一隻だけ?

 ギルドの全力制裁は艦隊で攻撃するってアイリスが言ってた気がするけど……この段階でもまだ姿を現してないんだろうか。

 アルカンシェルが表示しているミッション残り時間は6時間を切っているけど。


 私がそんな事を考えていると、通信用のホロディスプレイに頬に傷のある厳ついおじいちゃんが表示された。

 将軍って呼ばれてる人だよね。


『アリサ嬢、無事離脱されたようで何よりだ。……アイリス嬢の姿が見えないようだが?』

「彼女は地上で暴徒の襲撃に遭い、負傷しました」

『なんと……心中お察しする。一刻も早い傷の回復を祈念する』

「それで、任務報告ですが」

『うむ、聞かせて頂こう』

「残念ながら7名全員の死亡を確認。ナイチンゲールでバイタルデータも採取しています」

『承知した。ナイチンゲールは後ほど統括局へ提出して欲しいとの事だ』

「わかりました。ところで将軍?まだギルド艦隊が到着してないようですが」

『艦隊?今回は艦隊への出撃命令は出しておらんぞ』


 私は将軍とアリサの会話をぼーっと聞いていたんだけど、最後でなんだか雲行きが怪しくなったことに気が付いた。

 艦隊への出撃命令が出てないって……どういうことなんだろう。全力制裁はブラフだったってこと?


「将軍、どういうことか説明して頂けますか?デモクラスへの制裁はどうなるのですか?」

『18時間ほど前になるか、ゼロアワーカウントダウン開始の宣言と同時に制裁措置は開始しておる。そして、その措置に艦隊は必要ない』

「……?」

『百聞は一見にしかずと言う。儂が説明するよりも見た方が話が早い。だが……そこは桟敷としては少々近すぎる。そちらのセンサーで儂の船は捉えておるか?』

「センサーって……もしかして将軍、オンブルに!?」

『うむ。復座式とはいえ狭苦しくてたまらんが、一応今は儂の座乗艦だ。ともあれ、このポイントまで後退するといい』


 そう言うと通信は切れた。

 3光時ぐらい離れた所……たぶん、恒星を回る惑星の公転軌道でいえば、2つか3つ分ぐらい外の惑星が回っている位置になるのかな?


「ショートジャンプなら一瞬ですが……身内にもあまり手の内は晒さないほうが良いですね。サクヤ、通常航行で指定ポイントまで後退を」

『りょーかい』

「トワ様、マリエッタ。暫定的にミッション完了ということで一休みしましょうか。ヒナは手当ての続きです」

「はいっ!」

「はい」

「じゃあ私は風呂に入る。マナも入ろう」

「おふろ?はじめてはいる……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。