#17
>>Towa
「ちょ、待ってください!」
銃を構えた暴徒にアイリスが悲鳴のような声を上げる。
だけど暴徒は止まろうとしない。
アイリスはアガシオンを召喚して……これで暴徒を倒せると思ったのに、アイリスは銃を撃たなかった。
もしかして、アガシオンにトラブルが発生してる!?
私がそう思った瞬間、暴徒が発砲した。
そして、何発かの弾のうち2発が……アイリスに命中した!?
「アイリスっ!?」
私は思わず階段の影から飛び出していた。
レゾナンスシールドを展開し、アイリスの身を守る。
後ろからアリサも階段を駆け上がってきて、アイリスを物陰へと運んでくれた。
「ごめん……ヘマした」
「アイリス、アイリス!」
「トワ様、落ち着いてください。かすり傷……ではないですが、致命傷ではありません」
でもアイリスが撃たれた!
私は血を流すアイリスの姿に恐怖と悲しみ、そして怒りの感情で頭の中がぐちゃぐちゃになりそうで、アイリスが怪我をしているのに名前を呼ぶことしかできない。
「……やむを得ません。暴徒を排除して退路を切り開きます」
「ですがアリサ様、数が多い上に完全に囲まれています!あの連中、統制が取れてないから平気で同士討ちしますよ!?」
「アリサ、ヒナ……アルカンシェルを、呼んで……郊外から……逃げよう」
痛みをこらえてアイリスがそう言う。
私はその言葉に我に返り、フォトンタブでマリエッタをコールした。
「マリエッタ、すぐ来て!アイリスが撃たれた!」
『!?判りましたっ!トワさん達の現在位置確認……降下予定ポイントβへ降ろしますっ!』
降下予定ポイントっていうのは事前に決めていたいくつかの脱出経路の一つで、βは郊外の開けた場所。
そこへアルカンシェルを緊急着陸させてくれるらしい。
問題はギルド支部からその場所まで500mぐらいは離れてるってことで、その距離を負傷したアイリスを守りながら逃げないといけないということだ。
それに私達が反撃しないのを良いことに、暴徒達がじりじりと階段へ近づいてくる気配が判る。
「トワ様はアイリスさんを。ヒナはマナちゃんを。私はセノンさんをカバーします。トワ様、閃光手榴弾で左手の方を攪乱して頂けますか?私が斬り込んで血路を開きますので、」
アリサの言葉に私は頷いたけど……ヒナが何かを決意した表情で口を開いた。
「マナちゃん、1人で走れる?」
「……うん」
「ではアリサ様。私が殿を務めます。アリサ様は皆さんを先導して下さい」
「ヒナ?それは命を捨てるということですか?」
ヒナの言葉に、アリサが静かにそう問う。
ヒナはアリサの言葉に頭を振って言った。
「死ぬつもりはありません。ですが……ワタシは、アリサ様を裏切ることになります」
「どういうこと、ですか?」
ヒナは少し悲しそうに微笑むと、懐から黒いバックルを取り出した。
あれって……もしかして!?
「アリサ様、あとで愚かなワタシを叱ってください。……『凝黒』」
[Change Photorizer]
右手を水平に延ばし、ヒナは静かにそう言葉を紡ぐ。
それは私達が知っているフォトナイザーの起動キーワードとは似ているけど、異なる響きの言葉だった。
そして無機質な合成音声と同時にヒナの体を一瞬、闇が包む。
そして現れたのは。
「黒い……フォトナイザー……?」
『これで10分、時間を稼げます。さぁ、行ってください!』
闇を凝縮したような漆黒の装甲に、血のように赤いラインが走るコンバットスーツ。
色合いもフォルムも違ったけど、それでもそれは……黒いフォトナイザーだった。
黒いフォトナイザーはヒナの声でそういうと、階段から飛び出していった。
ブラスターの射撃音に混じっていくつもの怒声と悲鳴が聞こえる。
「今のうちに……トワ様、イグナイトを」
「うん」
私は降下ポイントの方向へ向かってイグナイトを投げた。
普段なら当たらないように山なりに投げるんだけど……この連中はアイリスを傷付けた。
だから、抗議の意を込めて、先頭の男にイグナイトを直接ぶつけてやった。
八つ当たり?ううん、違うよ。
これは報復なんだ。
ぶつかったイグナイトは強力な閃光と共に衝撃波を放つ。
閃光から目を守るために振り向いた後方では、コンバットスーツを身に纏ったヒナが派手な立ち回りで周囲の目を引きつけている。
さすがフォトナイザーシステムだけあって、投石どころかブラスターの弾が命中してもびくともしていないね。
一瞬の閃光が収まり、辺りに闇が戻ったことを確認し、私はイグナイトを投擲した方向を振り返った。
周囲にいた暴徒達はまとめて吹き飛ばされていて、幾重にも重なった人垣に風穴が開いている!
「行きますよ!」
アリサの声に私達は走り出した。
私はアイリスに。アリサはセノンさんに。それぞれ肩を貸して。
マナは1人で私達の後を付いてくる。
私達が脱出したことに気付いた何人かが立ち塞がったけど、アリサのブレードと私のシールドバッシュで叩き伏せて……脱出に成功した。
後方ではまだブラスターの音と怒声が響いている。
ヒナ、大丈夫だろうか。
ううん、コンバットスーツを纏っているヒナが相手なら……暴徒の方を心配すべきかもしれないね。
「……トワ」
「傷、痛む?もうすぐアルカンシェルだから」
「違うの。ごめん……私、撃てなかった……トワに貰ったアガシオンで、人を撃つこと……出来なかった」
小さな声でアイリスがそう言う。
そうか、アガシオンが壊れてた訳じゃなくて、アイリスが私達のプレゼントを人殺しの道具にしたくないから、撃てなかったんだ。
その言葉を聞いた私は、自分が馬鹿だったことにようやく気が付いた。
私は……アイリスに武器ではなく、身を守るための道具をプレゼントするべきだったんだ。
そう、アイリスが私に託してくれたレゾナンスシールドのように。
「ごめん。私、何も考えてなかった」
「トワも、マリエッタも、悪くないよ。私の、覚悟が……足りなかった……でも、説得に失敗して撃たれるなんて、管理官失格だよね」
「そんなこと、ない」
アイリスは間違ってない。
間違ったのは私だ。
ランディングギアを出して着陸体勢に入っているアルカンシェルを真っ直ぐ見つめながら、私はそう繰り返すことしかできなかった。
着陸したアルカンシェルは後部ハッチを開けてくれた。
マナに先に行くよう指示して、私はアイリスを支えながら船倉へと上がる。
と、悲鳴じみた声が聞こえた。
「アイリスさんっ!ち、血がっ!大丈夫ですかっ!?」
マリエッタだ。
アイリスが撃たれたことを伝えていたからか、メディカルマシンの準備をしてくれている。
気が利く子で本当にありがたい。
私がアイリスをメディカルマシンに横たえると、直ぐに治療が始まる。
最初に止血剤が投与され、苦痛に歪んでいたアイリスの表情が少しだけ穏やかになる。
セレスティエルはテロマーと同じで、麻酔や鎮痛剤の類いはあまり効果が無いけど、傷口の再生を促す傷薬なら効果が見込める。
傷の再生が始まれば痛みも引くけど……まだ傷の再生は始まったばかりだ。
それでも私は、少しだけ気持ちが楽になった。
「トワ様、ここはお任せします。私はヒナの援護に」
「うん」
治療の開始を見て取ったのか、セノンさんを船倉に誘導したアリサはレゾナンスブレードを手に市街地の方へ戻ろうとした。
うん、殿を務めてくれているヒナが未だ戻ってきていないからね。
出来れば私もヒナを助けに行きたいけど……。
だけど、その必要は無かった。
だって、黒いコンバットスーツが漆黒の風のような勢いで船倉へ飛び込んできたから。




