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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部8章「ダモクレスの剣」デモクラス-懲槌の惑星
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#16

 全員が退避したのを確認して、私は地下への階段を塞ぐ瓦礫に向かってアガシオンの狙いをつける。

 元々コンバットスーツの火器管制システムと連動することが前提になった銃であるアガシオンには、簡易的な照星と照門しか設けられていない。


 狙撃に使うなら、練習しないといけないな……なんてことを思いながら、私はアガシオンを発砲した。


 瞬間、白い輝きが辺りを照らし、瓦礫の山が轟音と共に吹き飛んだ。

 うん、文字通り吹き飛んだんだ。

 トワはアガシオンに出力調整の機能やショックモードが付いてないって言ってたけど……破壊力が大きすぎるでしょ、これ。


「……確かにブラスターじゃないね、これ」

「衝撃波を放ってるようにも見えましたが……フォトンの光圧をさらに圧縮して放出してるのでしょうか?」

「カルティアが興味を持ちそうだけど、今は……」

「ええ。なんとか地下へ降りられそうです」


 トワとマリエッタがくれた「誕生日プレゼント」は地下への道を切り開いてくれた。

 だけど、この下に広がるパーティ会場は……正直、足を踏み入れたくない陰鬱な場所だろうと、私は思った。


「アイリスさん、トワ様。ここから先は私達が先行します。良いですね、ヒナ?」

「はいっ、もちろんです!地獄の底までお供します!」

「……それ、今回は洒落になってないよ……。でもごめん、任せていい?」

「もちろんですとも」


 そう言うとアリサはヒナを伴って地下へと降りていった。

 2人が先行してくれるのはひとえに、トワに惨劇を目撃させたくないという配慮からだ。


 むろん、トワもこの下で悲劇的な光景が待ち構えていることは理解していると思うし、それを目の当たりにする覚悟もしているはずだ。

 だけど……それでも、私は。そして何よりアリサは。

 トワにそんな光景は見せたくなかった。


 優しい妹の心が傷ついてしまうことが、判っていたから。



 標準モジュールなら地下は2層構造になっている。

 職員用の更衣室や倉庫、C3加工室が備えられたバックヤード機能を持つ地下1階層。

 C3通信装置やC3の在庫を保管する金庫がある地下2階層。

 全部屋を確認するとなると少し時間が掛かるだろう。


 2人が姿を消した階段を見やりながらそんな事を考えていると、トワが小声で声を掛けてきた。


「アイリス。誰か来た」

「……小さい足音だね。子供かな」

「たぶん」


 どうやら街外れに響いた大きな破砕音が誰かの注意を惹いてしまったようだ。

 トワに灯りを消すよう指示し、瓦礫の影に身を潜め様子を伺う。


 と、小さな灯りが建物の影から現れた。

 灯りを持っているのは子供……マナよりも小さい、男の子だろうか?

 5、6歳ぐらいに見えるけど、こんな子供が夜出歩いている?


 そういえばどこぞの星(パノプティコ)では、夜に子供が出歩ける程安全というキャッチフレーズが存在しているにも関わらず子供の夜間外出が禁じられていた。

 けど、このデモクラスでは普通に子供が夜に出歩いている。


 対照的な二つの星のどちらが安全なのかと思いながら、小さな灯りを見守っていると……子供は私達に気が付いたのか、声をかけてきた。


「なにしてるの」

「夜の探検だよ。きみは?」

「……ぎるどのひと?」

「どうしてそう思うの?」


 小さい子供の割には妙に鋭い。

 それにこちらの言葉にも乗ってこない……これは面倒な相手かもしれない。


 だけど、男の子はそれ以上何も言わず、元来た道を帰っていった。

 好奇心で来てみたものの、実際に人がいて怖くなったんだろうか?


「アイリス。ここにいると見つかる」

「……そうだね。地下へ降りておけば誰かが来ても無人に見えるかな?」


 トワの言う通りだ。

 馬鹿正直にここで誰何を受けるよりも、最初から身を隠して置いた方が安全だろう。


 そう考えた私はマナ達を促して地下への階段を降りた。階段下は更衣室になっているはずという、私の記憶は正解だった。

 内部に設えられたロッカーは全て開け放たれていて、ここが掠奪されたことは明白だったけど、椅子の類いは残っていた。

 私達は埃を払って椅子へと座り、アリサ達の探索を待つことにした。


 動力が止まっているせいか地下の空気は淀んでいる。

 そして微かに漂うこの臭いは……おそらく腐臭だろう。


 臭いの元が想像できるだけに、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

 同時に、アリサとヒナに遺体の確認を押しつけてしまう形になったことを、悔いた。



 重い空気を払うように、セノンさん達ととりとめのない事を話した。

 私達の故郷の話。

 これまでの訪れた星の話。

 先ほどの子供の事を思い出し、夜に子供が出歩ける程「安心」な星の話もした。


 マナはその星がデモクラスとまるで違うと、ずいぶんと興味を持っていたようだけど。


 そして、しばらくして……。


『チー、チュィチュィ』


 階下から、高く澄んだ音の後に低く響くトリルが微かに聞こえた。


 ――告死鳥(ナイチンゲール)が、鳴いている。


 その後も断続的にナイチンゲールは鳴いた。

 全部で7度。


 それは、人質にされていたギルド職員の人数と同じ数だった。


 私も、トワも。その意味は理解している。

 だからこそ……。


「魂の輝きが、永遠に水晶に宿りますように」


 私は、無意識のうちにギルドに伝わる弔いの言葉を口にしていた。


 7度目の囀りからしばらくして、アリサ達が戻ってきた。

 ヒナもアリサも、表情が暗い。

 凄惨な光景を見てきたのだろう。


 いつもならシリアスな状況でも軽口を叩くアリサが「安否確認は終了しました」と一言だけ告げたことからも、状況は察せられた。

 いずれにせよ、これでこの星ですべきことは終わった。


 あとは撤退するだけだ。

 そう思ったのだけど。


「出て来たぞ!」

「やっぱりギルドの連中だったんだ!」


 陰鬱な地下から地上へと逃れ出た私達は。

 ギルド支部の廃墟は……100人以上の民衆に取り囲まれていた。


 地下にいたせいで、人が集まって来ていた事に気付かなかった!?

 でもどうしてこんなに……。


 その疑問は人垣の最前列に男の子が、さっき声を掛けてきたあの子がいる事で判明した。

 おそらく、物音に気付いた大人があの子を偵察に出したんだ。

 あの大人びた反応は、親か誰かの仕込みだったんだ!


 いや、今は包囲された原因よりもこれを突破する方法を考える方が先だ。

 ふと人垣の後ろに視線をやると市街地の方からも次々と人が集まって来ているのが目に入った。


 時間を掛けると脱出が難しくなる。なら……。


「皆さん、何かの誤解です!私達はパンギャラクティカニュースの記者で……」

「嘘つけ!記者がギルドの建物に入るもんか!」

「そうよ!あんた達、この星に入植者連れてくるって言ってたけど、嘘だったのね!」


 金切り声で叫んでいるのは、私がインタビューした中年女性だろうか?

 これは良くない状態だ。


 トワ達を後ろに庇い、私は説得を試みるが……デモクラスの市民は暴徒化する寸前のように見えた。

 そして、人垣の中から決定的な一言が上がった。


「おい、構わないからとっ捕まえろ!2、3人なら殺してもかまわねぇ、人質は1人で十分だ!」

「ちょ、待ってください!」


 私は慌てて制止するが、何人かの暴徒がブラスターを取り出した。

 武器を持っていない者も、足下の瓦礫や棒状の建材を拾い上げている。


 こうなったら強行突破しかないか?

 そう思った私はリコールしていたアガシオンを再度召喚する。

 左手に感じる銃の重み。


 だが、その時私は気が付いた。

 今、ここでアガシオンを発砲したら……?


 アガシオンは間違いなく「兵器」だ。

 私が日頃使っている、非殺モードが搭載されたXth――いわゆる自衛のための「武器」――と違って、出力を絞ることもショックモードにすることもできない。

 この引き金を引くと間違いなく、目の前の群衆を殺してしまう。


 そのことに気付いた私は、手にしたアガシオンの引き金を引くことができなかった。


 だって、これはトワとマリエッタがくれた誕生日プレゼントだ。

 2人の想いを殺人のためには使えない。

 私がそこまで考えた時だった。


 右肩、そして左の脇腹に、焼けるような痛みが走り、私は思わずアガシオンを取り落とした。


「アイリスっ!?」


 トワの声が、聞こえた。


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すくえねぇ連中だなぁ...
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