#12
「だれ?」
「私達はパンギャラクティカ……」
アイリスは記者の身分を名乗ろうとしている。
だけど女の子の表情はさっきより緊張しているように思えた。
これ、もしかするとメディアを名乗ったら余計怖がらせるやつじゃないかな?
そう思った私は思わず横から口をはさんでいた。
「アイリス」
「うん?」
「私は、トワ。あなたは?」
「……マナ」
女の子はマナと応えてくれた。
うん、アイリスはコミュ力お化けなんだけど、今回は記者を名乗るんじゃなくて、ちゃんと名乗った方が良い気がしたんだ。
アイリスは一瞬私の方を驚いたように見たけど、微笑んで頷いてくれた。
「……私は、アイリス。よろしくね、マナちゃん」
「うん。どんなごよう?」
「どうして独りでお掃除してたのかな、って思って」
「だって、それがふつうのはずだって」
掃除をするのが普通。
うん、それは確かに普通の事だ。
だけど、この星ではそれは普通じゃないように思えるし……「普通のはず」ってことは、この子は自分がしてる事がこの星の普通と外れてることを知ってるってこと?
私がそんな事を考えていると、フォトンタブにメッセージが入った。
マナとの話はアイリスに任せて、後ろを向いてメッセージを確認する。
『図書館左手より老人1名が接近中。荷物らしきものを所持』
周囲を警戒してくれていたアリサからのアラートだ。
左手……軌道エレベータの方を見ると、確かに杖を突いたおじいさんがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
私はアイリスの袖を引っ張って、視線でおじいさんを指し示す。
アイリスは少しだけ目を細めると、わかったという様子で少し頷いてみせた。
「マナちゃんは図書館に住んでるのかな?」
「うん。おじいちゃんといっしょにすんでる」
「そっか、あれ?おじいちゃん、帰ってきたんじゃない?」
「……?あっ、おじいちゃん!」
アイリスが自然にマナの視線を老人へ向けさせると、マナは老人のことをおじいちゃんと呼んだ。
マナの言葉に優しく微笑みを浮かべた老人の顔からすると、悪い人じゃないように思えた。
少なくとも、この星に来てから微笑んでいる人は初めて見た気がするから。
「おや、客人かな。……余所の星から来られた様子じゃが」
「ええ。少しお話を聞かせてもらっていたところです」
「そうか。じゃが、早く帰られた方がよい。この星は……もう長くないじゃろうから」
老人が私達の近くにたどり着き、声を掛けてきたタイミングでアリサ達も合流してきた。
このおじいちゃん、ギルドがデモクラスを攻撃するってことを信じてるのかな?
これまではみんなギルドの制裁なんかない、普通に「明日」や「来週」が来るって話してたのに。
「それはそういう意味ですか?」
「……立ち話もなんじゃ。中で話をしようかの」
アリサがそう声を掛けると、おじいちゃんはアリサをちらりと見てそう言った。
どうやら図書館の主はマナではなくて、このおじいちゃんらしい。
ゆっくりと階段を上る老人の後に続き、私達も図書館へと移動することにした。
図書館の中は照明も無く、薄暗かった。
窓から差し込む陽光は照明としてはかなり心許ない。
私達は人間よりも感覚が鋭敏だからこの状態でも問題無く動けるけど、マナやおじいちゃんは結構不便なんじゃないかな。
そんな事を考えながら周囲を見回した私は、そう大きくはない図書館に沢山の紙の本が並んでいる光景に圧倒された。
普通、図書館ってC3に記録した情報を閲覧機で見る形になってるものだけど、ここは紙の本がこんなにも沢山ある。
アイリス達も興味深げな様子で紙の本を見ている。
でもよく見ると、続き物になってるはずの本が欠けてる気がする。
番号が振られているものも飛び飛びになっていたり、酷いものだと6巻から始まってたりしてるし。
そもそも難しそうな学術書だけじゃなくて子供向けの童話とか、雑誌なんかも収蔵されてるし……どういう図書館なんだろう。
私が怪訝に思っていると、ちょうどアリサが蔵書についておじいちゃんに話しかけていた。
「ここは紙の書籍で知識を蓄えているのですね」
「うむ。元はここもC3を使った図書館じゃったが、資源が枯渇して以降フォトンが必要な閲覧機は真っ先に廃止されての……。星に残っておった本をここへかき集めたんじゃ」
「では……貴方が?」
「うむ」
驚いた。結構な数の本があるのに、これをおじいちゃん1人で集めてきたの?
もしかして、本が飛び飛びだったりジャンルがバラバラだったりしたのは見つけた本を全部回収してきたってこと?
じゃあ、ひょっとしたら今持ってる荷物も……。そう思ったんだけど。
「いや、これは儂とマナの食事じゃ。おそらく最後の晩餐になるじゃろう」
「どうして、最後だと思われるのですか?」
アイリスは目を細めてそう言うけど……やっぱりそうだ。
この人はデモクラスが滅びることを知っているんだ。
でもおじいちゃんはアイリスではなく、アリサの方を見て言った。
「なに、貴女が来られておるからじゃよ。最終確認じゃろ?シノノメ評議員殿」
「!?」
アリサの正体を言い当てたおじいちゃんだけど、その顔にはギルドへのヘイトではなく、悲しみと諦めの表情が浮かんでいるように思えたんだ。




