#10
通りを進むと、堆くゴミが積み上げられた場所が何カ所か目に入った。
いったい何故こんなゴミの山か?
その理由は3箇所目の堆積場に、ドローンが埋没していることに気付いたことで理解できた。
どうやらこれはゴミ処理用のドローンのようだけど……処理できるキャパシティを超えて、処理中に機能を停止してしまったようだ。
そういえば先ほど配給を受けていた人々は、食べ終わったパックをその場に投げ捨てていた。
もしかしたら……ここまでに通り過ぎたゴミの山は、かつて配給所だった場所なのかもしれない。
無計画にC3を採掘し、資源を枯渇させた人達。
何も考えずにゴミの山を築き、場所が埋まれば別の所へ移動する人達。
持続可能性というものを全く意識しない社会がたどる末路が、この星の姿なのかもしれない。
「……レッツパラダイス」
移民募集のポスターに記されていたキャッチフレーズ。
アリサが呟いたその言葉は、無責任な繁栄のツケを未来へと送り続けた星の、静かな末期を悼むもののように思えた。
「ここ、ギルド支部……だよね?」
「地図情報上はそうなっていますね」
「……瓦礫の山にしか見えません」
私達がたどり着いたギルド支部は、跡地としか呼びようのないものになっていた。
ギルド支部に対して掠奪や襲撃という事案が発生したことはミッションデータにも記されていたけど……建物ごと瓦解しているとは……想像以上の事態だ。
一体何があったんだろうか。
いや、今私達が知るべきは何が起きたかではなく、ここにいた職員達がどこへ連れ去られたのか、だ。
だがこの惨状をみれば、人々がギルドに対して向けている感情が穏やかなものではない事は判る。
そんな状況下でどうやって職員の居場所を探るべきだろう?
私がそう悩んでいると、ヒナが微笑んで言った。
「アイリス様。そのためのこれですよ」
そう言って彼女が差し出したのは、PGNと書かれたエンブレム――取材パスだ。
そうか、完全に忘れていたけど、私達は今メディア記者という立場を装ってデモクラスに来ているんだ。
なら、取材を行う体でギルド支部が辿った運命を調査すれば良いのか。
「アリサ、トワ。悪いけど取材用のダミー道具出してくれる?ヒナもカメラの準備お願い。そっちはダミーじゃなくて、あとで統括局へ提出する記録映像として使うから」
「はい、わかりました!」
私達は周囲に人がいないことを確認し、擬装用の取材道具を準備した。
アリサはマイクをはじめとした音響機器。
トワは照明……と、何故か左手にイグナイトを持ってる。
いや、フラッシュバンは照明にならないし、使わないからね?
準備が終わった私達はインタビューを開始したけど、ギルド支部の惨状を思えばここは敵地と言っても過言ではない。
無作為に話を聞く訳にもいかないから、独りで行動していて、なるべく温厚そうな人間を探すことにした。
しばらく物色していると中年の女性が1人、かつては公園だったとおぼしきゴミ置き場の前に置かれたベンチに腰掛けているを発見した。
うん、あの人なら大丈夫そうだ。
そう思った私はアリサ達に目で合図をしてからわざとらしい笑みを浮かべて女性に近づいた。
「すみませんっ!少しお話を聞かせて頂いてもいいですか!」
「……誰?ここらじゃ見ない格好だけど……」
「私達はパンギャラクティカニュースの取材クルーなんですけど、街の皆さんにお話を聞かせて頂きたくて!」
「パンギャラ……なに、それ?」
女性は私がPGNの取材パスを見せてもそれが何か判らないようだ。
デモクラスの様子を見る限りだとまともな教育が行われているようには思えなかったし、この女性もニュースを見る習慣がないのかもしれない。
いや、PGNはそもそもまともなニュースネットでもないけどね。
けど、このままだと話が聞けそうに無いので、少し変化球を投げて見ることにした。
「惑星デモクラスの移民キャンペーンを取材させて頂きたくて。銀河のパラダイスだと言う触れ込みを聞いて、遠くの星から来たんです!」
「あら、そうなのね」
女性の表情が少し緩んだ。
やはりそうか。この星の状況は、私達の目から見れば「パラダイス」にはほど遠い。
けど、星外の事を知らなければ。
そして政府のプロパガンダを妄信的に受け入れていれば。
惨状としか思えない状況を、パラダイスだと信じている可能性があるかと思ったんだけど……どうやらその読みは当たったようだ。
しばらく当たり障りの無い事を話をしていて判ったことがある。
この女性はデモクラスの状況が苦境に陥っている事はある程度理解している。だが、移民によって労働者が来れば、自分達の生活は改善すると信じている。
つまり、私達の取材によってデモクラスの事が星外に知られれば、自分達が楽を出来ると思い込んでいるんだ。
私はその他力本願ぶりに内心では呆れながらも笑顔を維持したまま、本命の質問に斬り込んだ。
「この星はC3の産出で有名だと聞きましたが、ギルドはデモクラスを支持しているのですか??」
「はぁ?ギルドの連中が?アンタ、何言ってるんだい!」
これまで頭が足りないなりにデモクラスの良い事を語っていた女性の態度が一変した。
どうやら予想していた通り、ギルドに対して強いヘイトが向いているようだ。
「ギルドが何か問題でも起こしたのですか?」
「ああ、そうだよ!あいつらがアタシ達を助けないからこんなに大変な暮らしになってるんだ!ギルドはもっとデモクラスを支援しないといけないのにさ、政府は押しが弱すぎるよ!」
「……そうなんですね」
当然のことながら、ギルドには特定の星を支援する義務などありはしない。
そこが直轄地であっても、自助努力を求め、採算性が確保できない限りは全面的な支援など行われない。
ましてやギルドと無関係な上に、職員を人質取り、殺すような惑星に……。
そんな事を考えていると、横合いから肩に手を置かれた。
マイクを女性に差し出していたアリサが、片手で私の肩に触れてくれている。その手の感覚に、私は湧き上がりかけた怒りがクールダウンするのを感じた。
「色々とお話を聞かせて頂いてありがとうございます」
「まぁいいけどね。で、移民はいつ来るんだい?できれば今週中に来て欲しいんだけどね!」
仮に私達が本当にニュースネットの記者で、今のインタビューが配信記事になったとして。
こんな星に来たがる人間などいるはずも無いし、万が一いたとしても他の惑星から恒星間航行で移動するには、最低でも数年を要する。
そんな事すら理解せず、自分の都合で勝手なことを言う女性に苛つきながら、私達はその場を後にした。




