#3
>>Iris
アリサが口にした、全力制裁に至る最後の引き金となった出来事は衝撃的なものだった。
惑星政府が、自分達の要求を通すためにギルドの職員を処刑する。
信じられない事態としか言いようがない。
そして、その愚行に対してギルドが全力制裁を行うということは……これがもし他人事であれば「仕方の無い事だ」と受け入れることが出来ただろう。
だが今回、スゥ局長はデモクラスに対する全力制裁の調整担当として私とアリサを指名してきた。
むろん、その指名には納得のいく理由はつけられていたけど……。
「アイリス。これは回避できるの?」
私の思考はトワの問いによって遮られた。
トワが言っているのは、デモクラスに対する全力制裁が中止できるのかということだろう。
状況的にそれは難しいと思う。
けど……私は自分が考えていることをトワに告げることにした。
「正直、この段階まで来たら難しいと思う。だけど、捕らわれているギルド職員を救出できたら、もしかしたら――」
「アイリスさん。残念ですが……統括局は既に全力制裁を決定しています。支部職員の救出は制裁へ至る地ならしですから、すでに判断に影響を与えられる段階は終わっています」
「……そうだよね。ごめん。トワ、そういうことだから」
「……わかった」
アリサの言う通りだ。
私はまだ、この段階でもデモクラスの人達を救う手段があるんじゃないかと頭のどこかで考えていた。
だけど、すでに決定は下され、今はもうその決定が実行に移されるまでのロスタイムでしかない。
その24時間という時間は、あくまでもデモクラスに取り残されたギルド職員を救うための時間だとアリサは言っている。
「それでっ、保安部と監察部の人とはどう連携するんですかっ!?」
沈み込んだ空気を変えるように、マリエッタが言った。
この子には無理をさせたくないんだけど……でも、状況は説明しておく必要がある。
「保安部は実働戦力だから、このフェーズでは直接動けないって聞いてる。ただ恒星系内に戦力を置いて支援活動はしてくれるって話だとは思うけどね。監察部の方は……私達と同行して、現地の最終確認をする人員を派遣するって聞いてるけど」
「ええ。ヒナが来るそうです」
「スゥ局長、徹底してこの件は私達に処理させたいんだね」
「あとで抗議は入れておきます」
ヒナとはブライアローズの一件以降、1ヶ月ぐらい顔を合わせてないけど、まさかこんな任務で再会することになるとは。
「どうして私達なの?」
「すでにデモクラス側も全力制裁が行われることは通知されているんだよ。だから見るからにギルドの関係者だったりエージェントらしい風体の人間を送り込むと即座に拘束される可能性があるって統括局は判断してるんだ。でも、私達なら……」
「小娘だから油断する?」
「まぁ、そういうことだね。たぶんヒナが派遣されるのも同じような理由だと思うけど」
おそらくそれだけじゃないだろうと私は思っていた。
まず私とアリサが出向けば不慮の事態……例えば人質解放交渉が必要になった場合に、現場判断で対応できると思われていること。
さらに言えば私もアリサも外見よりも戦闘能力が高い。
現地でトラブルに巻き込まれても、自力で切り抜けられると思われているのだろう。
どちらの理由もはっきりとは明言されなかったけど、スゥ局長がそれらを織り込んでいるのは明白だ。
「監察部からは報道関係者を装って潜入する方法を提案されています。なんでも取材パスのあてがあるとか……了承しますか?」
「記者か……まぁ、他に思いつく方法も無いからいいんじゃないかな。でも武器はどうやって持ち込もう?」
「私のブレードは発振部にスポンジでも被せておけばマイクに見えなくも無いですが……銃は正直難しいですよね」
私とアリサの会話を聞いていたトワとマリエッタが何事か内緒話をしている。
なんだろう?そう思っていると2人は何かで合意したらしく、揃って私の方へやってきた。
「どうかしたの?」
「アイリス。サプライズ」
「ですっ!」
そう言うとトワは……指輪のようなものを手渡してきた。
小さな朱のC3が埋め込まれてるけど……なんだろう、これ。
「アイリス。少し早いけど、お誕生日おめてどう」
「おめでとう御座いますっ!」
「誕生日?あれ……そうだっけ?」
宇宙にいると誕生日という概念とは無縁になる。
冷凍睡眠をしたり、スターゲートで知らない間に時間が過ぎていたり。
私の場合は長く死んでた期間もあったし。
でも、主観時間で見れば……最後に故郷で誕生日を祝って貰ってから1年ぐらい経っているような気もした。
そうか、私は正式に17歳になるのか。
でも誕生日プレゼントに指輪?
サプライズといえばサプライズだけど、トワ達が何を考えて今これを持ち出してきたのか、いまいち話が見えない。
「アイリス。はめてみて」
「えっと……小指には大きいし、人差し指には小さいね……。薬指ぐらい?」
「アイリスは左利きだから左にして」
「いいけど……」
「ちょっ、トワ様!?それ、もしかしてアイリスさんへのマリッジリング贈呈じゃないですよね!?もしかして、アイリスさんは俺の嫁的な話ですか!?」
左手の薬指にトワから貰ったリングをはめた途端、アリサが騒ぎ出した。
いや、そうなるのが判ってたから右手にはめようとしたんだけど。
私が指輪を付けたことを確認して、トワは言った。
「アガシオン」
「え?」
「アイリス、アガシオンって言って」
「アガシオン?」
トワが発した謎の言葉を繰り返した。
すると……左手の手中に突然銃が出現した!?




