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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部8章「ダモクレスの剣」デモクラス-懲槌の惑星
594/643

#2

 惑星デモクラス。

 辺境域にほど近い、貧しい工業惑星。

 元々は近くの惑星で政治犯とされた人間を流刑とするために作られた、監獄惑星のようなところだったという話もありますが……。

 そんな惑星が道を外れたのは今から300年ほど前、この星の未開地域にC3の鉱脈が発見された事が切っ掛けでした。


 デモクラス政府は宝の山であるC3の発見を喜び、ギルド支部を誘致しました。

 これまで碌な外貨獲得手段を持たなかった星に、惑星外に通用する資源が発見されたのですから、住民達の喜びはいかほどのものだったことでしょう。


 幸運な……あるいは不幸なことに、デモクラスの周辺宙域にはC3を参出する惑星は他にはありませんでした。

 そのためデモクラスの住民が採掘したC3はギルド支部によって相場よりも高く買い取られることになります。


 おそらく、この優遇措置が間違いの始まりだったのでしょう。


 困窮していたデモクラスの財政はC3の産出によって急速に改善します。

 そして豊かになったデモクラス政府はこれまでの反動からか、住民向けの社会福祉を充実させてゆき、大幅な減税も繰り返しました。


 デモクラスは元々二大政党制だったそうですが、減税政策を行う政権与党に対抗すべく、野党側は住民からの徴税停止を訴える公約を掲げたポピュリズムに走りました。


 そして……国民はそれに乗ってしまった。


 次の選挙では圧倒的な支持を受けて野党が政権を奪取し、惑星の統治を行うようになりました。


「……それ、良さそうな話ですけど……良くないですよねっ!?」

「ええ、その通りです。デモクラスの民がマリエッタのように聡明なら良かったのですが」



 野党に転落した元政権与党はポピュリズム政党に対抗すべく、C3の販売益を国民に分配するという名目でベーシックインカム制度の導入を推進します。


 政権を獲得したポピュリズム政党もそれに応じるように国民への給付を強化し……結果としてデモクラスは働かなくても生きていける星になりました。


 働いているのは惑星外から訪れた、C3鉱山の労働者とギルドの職員のみ。


 徴税無し、社会福祉完備。

 労働も不要で誰もが贅沢な暮らしを満喫できる。

 当時のデモクラスは、パラダイスのような惑星だったそうです。


 ですが、そんな時代は250年近く続いた後、唐突に終わりを告げました。


 C3の鉱脈が尽きたのです。


 当初、デモクラス政府はC3鉱脈は500年以上資源産出が可能であると見立てていたようです。

 それが半分以下の年数で枯渇したのは見立てが甘かったのか、それとも持続可能性を考えず贅沢のために過剰採掘を行ったのか……。


 いずれにせよ、財源の核となるC3を失った事でデモクラスは静かに、しかし確実に壊れ始めました。

 いえ、そもそも天然の埋蔵資源であるC3に依存していた財政そのものは遅かれ早かれ破綻を来すことは確実だったので、ただそれが予想より早かったと言うだけなのですが。


 ここで住民達が心を入れ替え、昔のように労働を再開すれば問題は無かったのでしょう。


 ですが……一度堕落し、働かない生活を覚えた住民達にとって、働かずに贅沢な生活ができるという既得権益を奪われることは容認できない選択でした。


 緊縮財政を執ろうとした政権与党は、ありもしない空手形を根拠とした給付継続を訴えた野党に選挙で惨敗。

 結果としてデモクラスの政府は僅かな蓄えを放出しながら、これまでのパラダイスを維持しようとします。


 むろんそんな事が長続きするはずもありません。

 そのため財源に困窮したデモクラス政府は、選挙権を持たない住民以外から徴税することに決めました。


 旅行者。

 星外の企業。

 貨物を運搬してきた航宙船。


 そして……C3枯渇が叫ばれるようになった後も、星に留まっていたギルド支部に。


 何の根拠もない、常識外れな課税が行われました。

 徴税と称して政府公認の掠奪紛いの行為も行われたと聞きます。


 結果として星外企業は全て撤退。

 航宙船も寄りつかなくなりました。 

 ギルドは……僅かに産出されるC3のためにデモクラスに残りましたが、状況の悪化にともない支部撤退の議論を開始します。


 そのことを知った住民は、ギルドが逃げるとかろうじて成り立っている生活が崩壊すると暴動を起こしました。


 ギルド撤退に反対する運動は、やがてエスカレートし暴徒達はギルド支部を襲撃。

 職員を拉致・監禁する暴挙に出たのです。


「それで、全力制裁なんですかっ!?」

「違うの。まだ……続きがあるんだ」


 力なくアイリスさんがそう言います。

 ですが、そこから先の事はあまり口にしたくないのでしょう。そう思った私が後を引き継ぎました。


「デモクラスの住民は、ギルド職員を人質にギルドに対して『納税』を求めてきたのです。そして、ギルドがそれを拒否すると…捕らえた職員の一部を見せしめのために処刑しました」

「……!」

「どうして?」

「……彼らは、それが自分達の権利だって主張してる。だけど、それは……ギルドにとっては許されざる敵対行為だから」


 そう。だからこそ……デモクラスには、全力制裁が決定されたのです。



 デモクラスがなぜこのような愚行に走ったのか、私には判りません。

 けれど統括局から説明されたこの星の歴史を振り返れば、かつて政治犯の流刑地であったという成り立ちが、影を落としていたようにも思えます。


 反体制的な思想の持ち主が追放され、自分たちの国を築いた。

 その中で権力を得た者たちは、やがてその維持のみに腐心するようになった。

 権力闘争の際、暴力に訴えなかったことは確かに評価できるでしょう。


 けれど、その代償として、彼らは衆愚政治を選び――結果として、暴走したリベラリズムが社会の崩壊を招いた。


 ……そんな風に、私には思えました。


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― 新着の感想 ―
単一資源の輸出に頼って崩壊しかけた星ってまるでナウルみたいだな
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