#1
>>Towa
私はゼロから物を作るのは苦手だ。
勉強……というか基礎研究っていうやつが苦手だから。
だけど、誰かが作ったものをいじって新しい機能を追加したり、違う使い方を考えたりするのは好きだ。
得意とまでは言えないけど、これまでにも色んな物を作ってみたことがあるし。
大抵はガラクタだったけど、イグナイトとか停蔵庫とか、役に立つ物が出来たこともあった。
で、今いじってるものは……たぶん上手くいく感じのやつだ。
「トワさんっ、送信機側の動作確認できましたっ!」
「受信機も出来てる」
うんマリエッタが半分、それも難しい方を手伝ってくれたからね。
私がしたのは元々あった部品から必要な物だけを取り出してコンパクトにまとめたのと、あとはC3を調律して強化したぐらい。
でも、これが完成すれば……。
「この間から2人でなにやってるの?」
「わっ、アイリスさんっ……!?えっと、その、これはぁ……」
アルカンシェルの船倉で作業をしていた私達の元にアイリスが現れた。
トーエイに立ち寄ってから時間があればずっと籠もってたからね、船倉に。
今はまだアイリスには話せない。
けど、私はアイリスとお互いに隠し事をしないという約束をしてるから、一応説明だけはしておかないといけない。
「サプライズの準備。詳細は秘密」
「えっと……それ、もうサプライズになってないんじゃない?」
「秘密は保持してる」
「そう?まぁ、トワが納得してるならいいけど……。ところで、緊急ミッションが来てるんだ。ブリーフィングするから2人もブリッジに来てくれない?」
「わかった」
「はいっ!」
サプライズの件は有耶無耶にできたようだ。
でも、緊急ミッションってなんだろうか。アイリスの表情が冴えなかったことが気になるけど……。
ブリッジに上がった私が目にしたのは、難しい顔をしたアリサだった。
アイリスとアリサ、2人が揃ってこういう顔をしているときは、大抵良くない事が起きてる証拠なんだけど。
私達がブリッジに入ったことを確認して、アイリスが口を開いた。
「じゃ、説明するね。保安部、監察部との合同ミッションの依頼が来たんだ。統括局直々のご指名でね」
「保安部に監察部、ですかっ!?」
マリエッタが驚いたように言う。
ギルドの保安部は、普通の惑星でいうところの警察や軍隊に相当する部門。
警護や防衛、普通の犯罪捜査なんかを行ってるところで、ギルドが保有する戦力も保安部の管轄下だって聞いたことがある。
私達の故郷CM41F3Cだとジョッシュが保安部のスタッフだった。最後に会った時は開拓団長になってたけどね。
あとは……私は直接見たことがないけど、パパも開拓団で保安部の隊長をしてたって聞いてる。
監察部の方はギルド内部の問題を調査する部門で、ヒナが所属してるところだね。
保安部と違って外向きの部署じゃないってアリサが言ってたけど、ヒナの話を聞いている限りだと保安部以上に面倒な仕事を押しつけられてる感じがする。
それに保安部は基本的にチームプレイだけど、監察部は潜入捜査とかするから単独行動でつらいってヒナも言ってたし。
でもそんな2部署と合同でのミッションって、一体なんなんだろう?
アイリス達の表情が優れないところをみると……またC3強奪でも発生したんだろうか。
いや、でもセヴランスへ派遣されたときは監察部も保安部も動いてなかったし。
私がそんな事を考えていると、アイリスが言った。
「ミッションはデモクラスっていう惑星でのギルド支部職員の救出。制限時間は私達の現地到着から24時間」
「制限時間?ブライアローズみたいな感じ?」
「あれも時間勝負でしたけどっ、私達が到着してからカウントダウンって……」
マリエッタが言うとおりだ。
これまでにも私達は何度か期限付きのミッションを受けてきた。
チューリングではパーティ出席の日までに到着する事を求められたし、アノインティングではお祭りが開催されるまでに問題を解決しろって言われた。
ブライアローズの一件でも、軍警と時間勝負での競争だったし……基本的に事態は私達を待ってくれない。
けど、今回は微妙に違うらしい。
「アイリス、どういうこと」
私の問いにアイリスは目を伏せた。
そんなアイリスの肩に手を置いて、アリサが口を開いた。
「トワ様。惑星デモクラスは……ギルドの全力制裁対象に指定されました。つまり、私達が到着した24時間後に、惑星デモクラスは滅亡します。……ギルドの手によって」
>>Alyssa
私の言葉にトワ様も、マリエッタも茫然としています。
そして……手を置いたアイリスさんの肩も震えていました。
このミッション、やはり荷が重すぎます。
統括局の……メラニー直々のミッションですが、やはり断るべきだったと私は思いました。
「アリサさんっ、全力制裁って……あの全力制裁ですかっ!?」
「ええ、そうです。惑星デモクラス政府は私達モーリオンギルドの敵であると認定されました。そして政府だけでなく、デモクラスの民衆達も全て」
「政府だけじゃなくっ!?」
内政干渉禁止を掲げるギルドは、基本的に平和主義の組織です。
ギルドから誰かに争いを仕掛けることはありませんし、可能な限り穏便に……もしくは最小限の力の行使で問題を解決することを目指します。
これまでに私達が従事したミッション。そして私の専属秘書官であるヒナが携わった事件捜査。
それらはまさに交渉と最小限の力による問題解決でした。
ですが、ギルドが自らに課した制約では解決できない事態が発生した場合……総力をもってその相手を屠ります。
その仕組みこそが全力制裁。
モーリオンギルドは通商組織ですが、並の軍事国家など歯牙にもかけないレベルの戦力を保有しているのもまた事実です。
それらは基本的に通商の自由を守るための抑止力ですが、限度を超した者には実際に振るわれる破滅の槌でもあるのです。
その槌がいかに強力であるかは考えるまでもありません。
私もこれまでに何度か敵と対峙した際に、全力制裁を示唆した事があります。
例えば故郷であるペレジスでクローン兵器を購入した犯罪者達に。
あるいはセヴランス王国でギルド職員を監禁した貴族に。
あるいはブライアローズで対峙した軍警の司令官に。
いずれも全力制裁という言葉に屈し、敵対者たちは自ら滅亡の道を歩みました。
それほどまでの抑止効果が……全力制裁という言葉にはあるのです。
「背景を説明するね。……その前に、ちょっと座っていいかな?」
「どうぞ」
通常、アイリスさんがブリーフィングで何かを説明する時には、基本的に立ったままで行います。
彼女が小柄で、座っていると姿が見えにくいというのもありますが……それでも彼女はどんなミッションにも全力で立ち向かう姿勢として、起立して説明を行ってきました。
ですが、今回は事態が事態なので、さすがのアイリスさんも前向きな気持ちでミッションに向き合うことが出来ないのでしょう。
シートに深く腰を下ろしたアイリスさんはデモクラスという惑星について語り始めました。




