#14
>>Alyssa
スピンドル軍警の駆逐艦、フライホイール。マリエッタによって大半の制御権を奪取されたこの船はもはや宇宙に浮かぶ棺桶も同然です。
12人の乗員達が全てブリッジに集まっていることはマリエッタからの報告で確認済みなので、私とヒナ……そしてなぜか付いてきたバンは、真っ直ぐにブリッジへと向かいます。
『なぁ女神サマよ、ここはマズいんじゃねぇか?』
『法規上の話ですか?』
『判ってるのかよ!なら、これ以上追い詰めずにエアロックの外で対処すべきだろ!』
『あなた、海賊なのにコンプライアンスを遵守するのですか?』
『オレは海賊じゃねぇ!善良な民間運輸会社の経営者だ!』
『ジョリーロジャーを掲げた民間人……?』
私とバンのやり取りにヒナも加わってきました。
ええ、彼女の言うとおりです。どこの世界に海賊のシンボルをコスモスーツに描く民間人がいるというのですか。
『これは、趣味だよ!格好良いだろ、ジョリーロジャー!』
……ああ、ここの世界にはいたようですね、物好きが。
そんなことを言っている間に、ブリッジが近づきました。
『では海賊好きな民間人さん。ここでしばし待機を。カタが付けばお呼びします』
『いや待て、さっきは奇襲できたが、今回は確実に待ち伏せされてるぞ!?』
『ええ、そうでしょうね。ヒナ。大丈夫ですか?』
『はいっ、問題ありません、アリサ様っ!』
『だ、そうですよ』
開いた口が塞がらない、という表情をしたバンを置いて、私達はブリッジのドアを開きました。
出迎えたのは11丁のブラスターの銃口。
予想通りの展開ですね。
『乗船を許可した覚えはないぞ、民間人』
『あら、そうでしたか?通信越しに訪問は告げていたと思いますし、実際に歓迎頂いているようですけど』
『この状況でなお余裕とはな。何者だ』
『ご存じでは?ですが、一応問われた以上は名乗らぬ訳にはいきませんね。私はアリサ・シノノメ。モーリオンギルドの二等管理官です。こちらは私の秘書官であるヒナ・カイラニ。短い間になりますが、お見知りおきを』
私の言葉に対して、声を掛けてきた年配の男――おそらく指揮官か艦長でしょう――は冷たい目で私達を睨みました。
『それで、何をしに来た?』
『知れたことです。釈明を求めに参りました』
『釈明?』
『無警告での攻撃がどのような意図によるものか。そして遭難船の冷凍睡眠装置を破壊した理由について』
私の言葉に、指揮艦は哄笑しました。
どうやらまともに応える気はなさそうだと私は思いました。
ですが……手順だけは踏んでおくべきでしょう。
『それは貴様らが知る必要の無いことだ。これは惑星スピンドル政府の命令による作戦行動だからな。つまり、この件に関しては貴様らギルドの人間は内政干渉できんということだ』
『あら、ギルド憲章をご存じなのですね』
『そして、我がスピンドルにおける法では、政府や軍警に逆らう民間人は……即座に処刑する事になっている。つまり私が命じれば貴様らはこの場で処刑になるということだ』
指揮官が告げた内容はおそらく事実でしょう。
スピンドルは強権的な独裁国家ですから、その支配を維持するための軍警にはかなり強力な司法権……いえ処刑権が与えられていてもおかしくはありません。
『ですが、ここは惑星から4光日も離れてます!惑星の法はここでは無効のはず!』
『そちらの秘書官は法のお勉強が苦手なようだな?』
『彼女が学ぶべきはギルドの法なので。ですがヒナ?この男が言っていることに間違いはありません』
『……え?』
そう、ヒナが言うように各惑星が持つ法規が効力を持つのは惑星から1光日先までの距離……つまり、交信可能圏内のみとされています。
ですがこの定めには例外があります。
それは「航宙船の中」。
航行中の航宙船は船籍を置く惑星の「飛び地」として扱われるため、その内部では所属する惑星の法律が有効になるのです。
つまり、このフライホイール艦内では「Tit for Tat」の掟ではなく、惑星スピンドルの法律が適用されると指揮官は言っているのです。
『そういうことだ。貴様らは内政干渉故に手出しは出来ぬが、我々は貴様らを処刑することが出来るということだ。なに、心配せずともあの忌々しい海賊連中も後を追わせてやる。総員、構え!』
指揮官の言葉に11名の軍警達が一斉にブラスターを構え直します。
ああ、いかにも軍人らしい愚かな行為ですね。
無警告で発砲していれば、多少の手傷を負わせることが出来たかもしれないのに。
ですが、こうも射撃のタイミングが読み易ければ……。
『射殺せよ!』
指揮官の命令と共に11丁のブラスターがエネルギー弾を撃ち出します。
ですが、どこから、どのタイミングで撃たれることが判っている状況で、私とヒナが反応できない訳がありません。
蒼と蒼碧の煌めきは11のエネルギー弾を全て切り裂き、霧散させました。
『ヒナ』
『はいっ!!』
名を呼ぶだけで彼女は私の意思を理解してくれました。
それぞれ左右に分かれ、ブラスターが無効化されたことに茫然としている軍警共を一刀のもとに斬り捨てます。
私が6。ヒナが5。
それぞれのターゲットを処理し終えるまでには2秒も掛かりませんでした。
『ば、馬鹿な……ブラスターの弾を、撃ち落とすだと!?』
『さて、では釈明を聞かせて頂けますか?』
『しゃ、釈明……?』
指揮官にブレードを突きつけながら私が放った言葉に、指揮官は目を泳がせます。
何か良い言い訳でもないか探しているのでしょうか。私はあえて無言で指揮官の言葉を待ちます。
やがて、冷や汗をかきながら指揮官は口を開きました。
『こ、これは重大な内政干渉だ!ギルドの、それも管理官がこのような不法行為を……!』
はぁ。私は思わず深いため息をついてしまいました。




