#15
もう少し、何か役に立つことを口にするかと思ったのですが。ですがこれ以上時間を掛けても意味は無さそうです。
そう判断した私は、指揮官の言葉を遮り、言いました。
『私がギルドの管理官であるということを知っていて、射殺を命じたと言うことがどういう意味を持つか、理解出来ていますか?』
『……なに?』
『あなた方はモーリオンギルドを完全に敵に回した、ということです。ここが惑星法の支配範囲内だというのであれば、惑星上で有効となるギルド憲章もまた効力を発揮します。そして我々のギルドは……敵対者に対して一切の容赦なく、全力制裁を行うことをギルド憲章に掲げています』
そう。そしてそのことは、足下に倒れる11の死体が示す通りです。
『全力、制裁……まさか、そんな……』
『管理官に対する危害行為はその時点で全力制裁の対象です。つまり、私に対する抹殺命令を出した時点で、あなたは……いえ、スピンドルという惑星は終わったのですよ』
『ス、スピンドルは……祖国は関係がないだろう!』
『あなたが民間人なら、そうでしょうね。ですがあなたは自らが司法権を持つ惑星の代弁者として振る舞った。そのことが意味するのは、スピンドルという惑星そのものがギルドの敵となったという事実です』
私の言葉に、司令官は自分の判断がもたらした結果を理解したのか、震え出しました。
『ですが……あなたは私達に銃を向けませんでした。ですから、あなた個人は許しても良いかもしれませんね』
『お、おお……慈悲を頂けるのか……!』
『ただし。あなたを個人に対する制裁を行わないということは、この件が無かったことになると言うことではありません。この愚行に対する咎が惑星スピンドルのものとなる……つまり惑星に対して制裁を科すということになります』
『なっ……』
当たり前です。
私達の命を……何よりもトワ様に銃を向けておいて、ただで済むと思っているのだとしたら、どうかしています。
ですがギルド憲章に厳密に従うのであれば私は銃を持たない指揮官に直接手を下すことはできません。
ですから、私は彼が言葉をもって私達の処刑を命じたように……言葉をもって彼を処刑するのです。
『選びなさい。あなたが生き延びて星が滅ぶか。あなたが死んで星が残るか。私はどちらでも構いません』
『星が、滅ぶ?馬鹿な……何をする気だ!』
『何も』
『何も……?』
『ええ。ギルドはスピンドルから撤退し、以降一切の取引を行いません。幹部を狙うような惑星と取引出来る訳がありませんからね』
私の言葉に指揮官は絶句します。
本来ギルドが惑星に対して全力制裁を行うとすれば、それは今私が口にしたような生ぬるい対応ではありません。
ギルドの全力制裁とは「全力」の名の通り、以降に同様な愚行をなす者が現れないよう、相手を完全に殲滅することを意味する行為です。
惑星相手に全力制裁が行われるようなことがあれば、おそらくギルド艦隊が派遣され惑星全土を焦土に変えるような徹底的な殲滅戦が展開されることになるのだろうと思います。
ただし、そういう状況になるのはあくまでもギルド幹部が殺害された場合のみで、今回のような殺害指示による未遂行為であればそこまで苛烈な対応は必要ないと私は判断しました。
ですが一方でギルドの撤退、そしてC3の取引停止と言う処分が実際に行われれば、それは多くの惑星にとって文明の緩やかな死を意味する死刑宣告になるでしょう。
なにせギルドを敵に回すような愚かな星だという烙印を押されることになるのですから、近隣惑星との貿易や交流も全て途絶することは火を見るより明らかです。
辺境でまともな産業もない惑星であれば……文明的な滅びを迎えるまでおそらく数年と掛からないでしょう。
私の言葉が示す意味を理解し、絶望した表情の指揮官が震える手で懐からブラスターを取り出しました。
貧しい星だという割には、華美な装飾が施された銃。
おそらく、これまでこの指揮官は民を搾取し、富を独占していた側の人間なのでしょう。
彼はノロノロとブラスターを持ち上げ、エアフィールド越しに銃口を口にくわえました。
そこまで見届けた私は、ヒナを促してブリッジを立ち去ります。
――ブリッジの扉が閉まる直前、音を通さぬ真空を通じて、射撃音と共に何かが爆ぜた音が聞こえたような気がしました。
『アリサ様……あの……』
『ヒナ。これがTit for Tat、しっぺ返しです』
ヒナは何かを言おうとしましたが、私の言葉にそれ以上言葉を続けることはありませんでした。
ですが、その代わりに……。
『な、なぁ……女神サマ?頼むからオレらの星、滅ぼさないでくれよ?』
そう言えばバンがいたことを忘れていました。
しかも先ほどの会話、オープンチャンネルでしたから……たぶんバンだけでなく、アルカンシェルを通じてアイリスさん達にも聞かれてますよね。
後でやり過ぎだと怒られるかもしれません。
そんなことを考えながら、私はバンに応えます。
『大丈夫ですよ。あなたも知っている通り、Tit for Tatは遺恨を残さない掟です。報復が済めば、その後はまたフラットな関係です。……あなた達が裏切らなければ、ですが』
『裏切らねぇ、オレは、オレの社員も絶対アンタを裏切らねぇ……いや、むしろ信者として崇めるぜ!』
『それは――』
『とても良いことです!アリサ様の信徒となれば、あなた方には幸運が訪れます!ワタシが保証します!』
『おおアリサ神!』
またも私の言葉を途中で遮り、ヒナが余計なことを言い出しました。
私は別に女神ではないですし、信徒獲得とかには興味が無いので、そういう布教活動は止めにして頂きたいのですが。
……ともあれ、後顧の憂いを断つという役目を果たし終えた私は、トワ様達の所へ戻ることにしました。




