#12
>>Towa
ブライアローズの冷凍睡眠室はかなり酷い状態だった。
ガンガン運送の人達に乗員用ポッドの部屋を任せて、私とアイリス、そしてボブさんで乗客用ポッドの部屋を見て回ってるんだけど……。
これまでに確認した4つの部屋では冷凍睡眠ポッドのコントロール装置が壊れていたり、エネルギー切れで止まってたりしていた。
ポッドの中で眠っている人達はどこか不安げな表情を浮かべたまま氷付けになっている。
私はこれまでにも何度も冷凍睡眠を使ったし、他の人が冷凍されている姿も見たことがある。
一見するとブライアローズの乗客達は普通の冷凍状態にあるように見えたけど、アイリスが言うにはこの人達は既に死んでいるんだそうだ。
冷凍睡眠の事故と聞いて、私はアイリスを喪った時のことを思い出してしまった。
心の底から、忘れていたはずのどす黒い恐怖と悲しみが込み上げてきそうになった時……アイリスが私の手を握ってくれた。
『大丈夫。私はここにいるから』
『うん』
そうだ。アイリスは帰ってきてくれた。
でも……この人達は元いた所へ帰ることが出来ないんだ。
名前も知らない大昔の人だけど、それでも私は乗客達を蘇生できないことに言い知れない悲しみを感じた。
結局、私達が確認を担当していた7部屋のうちポッドが稼働していたのはⅤとⅦの番号が振られた2部屋だけだった。
乗員用と違って乗客用の冷凍睡眠ポッドは個別管理のポッドだったけど、部屋そのもののエネルギー供給が断たれてたところが多かったんだ。
2つの部屋にはそれぞれ8機のポッドが設置されていたけど、Ⅴの部屋にあったポッドは7つが使われていて、Ⅶの部屋のポッドは5つしか使われていなかった。
つまり、蘇生できる可能性がある乗客は全部で12人。
緊急冷凍されていたせいかポッドにはパーソナルデータは入力されていないので、どれが誰なのかは判らない。
けどフロントパネル越しに中の様子を覗き込んだ感じだと7人が男の人、4人が女の人。
そして最後の1人は……性別は良くわからないけど、たぶん子供だと思う。
『アイリス、どれがお目当ての人?』
『スリーピング・ビューティと言うからには女の人だとは思うけど、この4人の中にいるかどうかは判らないかな』
それもそうか。私はこの蘇生の可能性がある4人の中に今回のミッションで指定された「眠り姫」がいるんだと無意識のうちに考えてた。
けど、もしかしたら既に確認した死亡済みの人の中に含まれてる可能性もあるんだよね。
でも、旅客側もどれが誰だか判らないし、そもそも眠り姫のパーソナルデータも無いから、蘇生できた人にあなたは野良シンガーですか?と聞かないとミッションが達成できたかどうか判らないってことだよね?
『じゃあトワ、ボブさん、まずⅤの部屋から解凍処理始めようか。トワ?解凍終わってもポッドは開けないでね?』
『わかったぜ』
『うん』
アイリスは握ってくれていた手を放すと、オープンチャンネルでそう言った。念を押すように言ってるけど、私だってポッドを開けたらダメな理由はわかる。
だってここ、真空だからね。
解凍後に酸素が供給されるポッド内ならともかく、そのままフロントパネルを開けたらその瞬間にせっかく蘇生した人が死んじゃうことは私にだってわかるよ。
『蘇生できたらどうするの?』
『生存者がいたら、その部屋の環境を復帰させるよ。幸い室内の環境系は機能してるみたいだから、温度を上げてエアフィールドで覆えばポッドの外に出すことが出来るし、外に出ることが出来ればコスモスーツを着せられるからね』
『ほほう』
アイリスは説明しながら手際良く7つのポッドに解凍処理を行っていく。
私も部屋の反対側から作業を行い、ボブさんは部屋の環境系を調べてくれている。
この部屋で眠っているのは5人の男の人と、2人の女の人。みんな高そうなドレスや礼服を着てるところを見ると、船内でパーティでもしていたんだろうか。
900年近く前の事に想いを馳せながら、操作を進めていく。
ちなみに女の人の片方は年配の……おばあちゃんと呼んでも差し支えないぐらいの歳の人。
もう1人は40歳ぐらいかな?派手な化粧の人だ。
部屋の両サイドから、ポッドが次々に解凍処理の終了を告げる光を点灯させて行く。
だけどその光は、全て異常を示すレッドサインだった。
『やっぱり900年だと厳しいか……。トワ、解凍の終わったポッドに緊急プロトコルの指示を入れていってくれる?』
『わかった』
『ボブさん、環境系のほうはどうですか?』
『ここの部屋は温度調整できそうだぜ。だが、肝心のお客さんが寝たままじゃな』
『何かあったときに緊急避難用に使えるかもしれませんから、復旧作業だけ進めて貰えますか?』
『わかったぜ』
私は7つのポッドに蘇生失敗時の緊急プロトコル発動を指示していくけど、反応は芳しくない。
青白い顔のまま、目をつぶっている7人の人を見ていると、胸が苦しくなってきた。
アイリス……。
ううん。
アイリスはちゃんと私の隣にいてくれている。
でも、あの時のアイリスは確かに、青白い顔で、そのまま起きてこなくて――。
『――ワ、トワ?』
『アイリス。どこにもいかないで』
『……ごめんね、私の配慮が足りなかった。後は引き受けるから、トワはブリーズへ戻っておいて』
私を抱きしめながらアイリスは優しい声でそう言ってくれる。
でも、ここで逃げたら……たぶん私はこの後もずっと、遭難者救助が出来なくなる。
だから、ここはどうしても最後まで見届けないとダメだと思った。
『大丈夫』
『……無理、してない?』
『してる。でも、大丈夫』
『そっか。じゃあ、駄目になりそうだった早めに言ってね』
『うん』
結局……Ⅴの部屋では、誰も蘇生することは出来なかった。




