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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部6章「スリーピング・ビューティ」ブライアローズ-凍宝の星船
547/577

#11

>>Alyssa


 さすがに軍警を名乗るだけあって、統率は行き届いているのでしょう。

 私達が発信した偽りの緊急事態に、ブライアローズ内に展開していた全乗員が搭乗デッキに集まっているようです。


 マリエッタがロックした彼らの駆逐艦、フライホイール側のエアロックはどうやら手動開放されているようで、緊急事態の確認を行うために何人かが乗船するのが見えました。

 ですが残り数十名の軍警達は乗艦も出来ず、さりとて緊急事態で呼集されている以上は持ち場を離れることもできず、ただ不安げに周囲を見回している状態です。


 と、私の横にも不安そうに辺りを見回している人がいました。

 バンという海賊……いえ運送会社の社長がそっと私の背中に触れ、接触回線で話しかけてきました。


『おい、どう見ても50人以上いるぞ?どうするんだ?グレネードでも投げ込むのか?』

『そんなことをしたら、私達まで船外に放り出されますよ?』

『じゃあどうするんだ?ここで連中の様子を見張って、動きがあったら下層へ戻るか?』


 バンの言うことは確かに一理あります。

 普通であればここで軍警の動きを偵察し、動きがあれば探索中のアイリスさん達に警告を発するのがセオリー通りの対応でしょう。

 ですが、私達はここへ偵察に来た訳ではありません。私はヒナにも触れ、三者の接触回線で告げました。


『TfTに則り、後顧の憂いを断つためここであの連中を殲滅します』

『いや、いくらなんでも――』

『ヒナ、私は敵中央部へ斬り込みます。あなたは私の討ち漏らしを処理してください』

『承知しました、アリサ様!』

『では、参ります』

『ちょっ、話を――』


 私が物陰から移動したことで、バンとの接触回線が切れました。

 彼がベテランの航宙船乗りらしく、オープンチャンネルで通信を入れたり、むやみな発砲をして奇襲の利を潰すようなマネをする愚か者ではなくて助かりました。


 奇襲を仕掛けるなら一気に敵中へ跳び込むのが上策。航宙船内とは思えぬほど高い天井を持つブライアローズの空間を生かすのが良いでしょう。


 天上を見上げた私の視線に気付いたのか、ヒナも無言で頷きます。

 それを確認した私は物陰から飛び出し、天井へ向かって跳び上がります。


 天井に一旦着地し、そこから敵陣の中央へ向かって一気に急降下して斬り込みます。


『Blade of the Storm, to my voice give heed!』

(青嵐の刃よ、我が声に応えよ!)


『Blade of the Ocean, to my voice give heed!』

(大海の刃よ、我が声に応えよ!)


 私の起動歌に応え、蒼い光の刃が形成されます。

 一瞬遅れて後に続くヒナも蒼碧の刃を生み出しました。


 突然の発光に軍警達が上を向きますが……遅いですっ!


『敵襲!敵襲!』

『なんだ……ぐわっ!』

『敵、2名……ですが陣中のため発砲できず!指示求む!』

『かまわねぇ、撃て、撃て!』

『おい、オレは味方……ギャァ!』


 慌てているのかオープンチャンネルに混乱した軍警の通信が混じります。

 狙い通り、敵陣の中央へ斬り込んだことで同士討ちを恐れた彼らは発砲することが出来ません。


 混乱の中、撃ち込まれるエネルギー弾の殆どは私達ではなく仲間である軍警に着弾し、散発的に私達へと向かってくるものもブレードで簡単に打ち払うことが出来るレベルです。


 縦横無尽に振るわれる蒼と蒼碧の双刃が、瞬く間に敵の数を減らしてゆき……そして。


『討伐完了しました!』

『ご苦労様、ヒナ。怪我はありませんね?』

『もちろんです』


 戦闘が終了したことを見て取ったのでしょう。バンがゆっくりと物陰から漂い出て来ました。

 心なしかヘルメットのバイザー越しに見える表情が青ざめて見えるような気もします。


『なぁ、あんたら……本当に人間か?』


 オープンチャンネルで発せられるバンの声に、私は少し微笑んで応えます。


『ええ、もちろん――』

『違います!』


 えっと。

 私、一応人間のふりをしようとしたのですが。

 私の言葉を途中で引き取ったヒナが、私の思惑とは正反対の言葉を続けました。


『ヒナ?』

『バン船長!アリサ様は女神ですよ?人間呼ばわりは不敬です!』

『えっと』

『そして私は女神の眷属です!』


 堂々と何言ってるんですか、この子は……。

 私はヒナの爆弾発言に少しだけ頭が痛くなり、思わずエアフィールドの酸素濃度を高めてしまいました。


 いえ、確かに私は各所で女神呼ばわりされていますが、それはあくまでも他称であって自称してまわるようなものではありません。

 というか自分のことを女神と呼ぶ女とか、ただの痛い人じゃないですか。


 私がそんな事を考えている間に、バンは言いました。


『そうか、女神様とその眷属か……いや、そう言われても信じるしかねぇよな』

『信じないでください!私達はただのギルド職員です!』

『アリサ様っ!なんてことを!アリサ様は二等管理官、つまりギルドの頂点じゃないですか!ただの職員ではありません!』


 ああ、もう。普段のヒナは理知的なのですが……私の事になると時々おかしな言動をするようになった気がします。

 特に彼女が私の眷属(セミテロマー)になってから、それが顕著なような気がしますが……。


 いえ、今はそれよりもスピンドル軍警についてです。

 とりあえずブライアローズ側にいた者は片付けましたが、船内に入った者を追わねば。


『……ともかく、指揮官らしき者がいませんでしたし、何人かは船内に入っています。追撃を行う必要があるでしょうね。少し作戦を練りますのでお待ちを』


 私は未だ茫然としているバンにそう声を掛けると、秘匿通信でアルカンシェルを呼び出しました。

 バンのことを信じていない訳ではないですが、状況はまだ流動的ですし、手の内を晒しすぎるのは良くありませんからね。


『マリエッタ?聞こえていますか?』

『はいっ、女神様っ!』

『マリエッタ、あとでお仕置きですよ?……いえ、それよりも駆逐艦内のモニタリングはできますか?』


 マリエッタはどうやら余計なことまで聞いていたようです。一言、釘を刺してから私は本題を告げました。

 敵船の内部状況が判れば戦略も立てやすいのですが。


『はいっ!乗船したのは全部で13名、5人はブリッジに直行で、残りは船内各所の状況確認をしてますっ!個別に部屋に閉じ込めたりもできますけど、どうしますかっ!?』

『散開していると面倒ですね。通信系の押さえはまだ効いていますか?』

『はいっ!モニタリングしますかっ?』

『いえ、それは不要です。では指揮官の音声データを使って、探索中のクルーをブリッジへ移動させるような指示を。出来ますか?』

『かしこまりですっ!準備でき次第お知らせ……あ、出来ました!』


 私が指示を行っている最中に作業を始めていたのでしょう。

 返答を終える前に作業が完了したと告げるマリエッタ。相変わらず驚くほど手が早いです。

 軍警もまさか未成年の少女の手のひらの上で踊らされているとは思ってもいないでしょうが……。


 ともあれ私はバンに状況を説明し、敵艦フライホイールのブリッジで決着を付けることを宣言しました。

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