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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部6章「スリーピング・ビューティ」ブライアローズ-凍宝の星船
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#10

 何気ない風を装って、さらっと殲滅を口にするアリサ。

 うん、まぁこの子ならやってのけるんだろうけど……。

 オープンチャンネルなのでこの会話はバン達にも当然伝わっている。


『おいおい、それはいくら何でも無茶だ。あのクラスの駆逐艦なら乗員総数は7、80人ってとこだ。オレ達がやったのはまだ11人だ……殆ど数は減ってないぜ?』

『私達は6名倒しましたから、最大で残り63人か……アリサ?』

『今回はヒナもいますから、その倍でも余裕です。ですよね?』

『はいっ!アリサ様と2人なら無敵です!それに切り札……いえ、なんでもありません』


 ヒナが何か言いかけたけど、まぁそれはいい。

 女神の眷属(セミテロマー)化したヒナの戦闘力はまだ未知数だけど、アリサの半分程度の能力だったとしても、狭い船内で相手が一箇所に固まっているなら問題無く対処できるだろう。


『まぁ、あんたらはオレの部下じゃねぇが……それでも止めた方が良いと思うぜ?』

『はい、確かにご忠告頂きました。ではアイリスさん、後ほど』

『アリサ、気を付けて。ヒナも』


 そう言って船首の方へ移動するアリサに、トワが声を掛けた。

 エアフィールド越しにアリサがトワに微笑んでいるのが見える。ヒナも軽く頭を下げ、彼女たちは床を蹴って船首側へと向かった。


『おい、待てよ!おい、お前らはここで乗客救助だ!』

『社長!?』

『オレはこの無謀な娘っ子達をフォローする!ちっ、オレもヤキが回ったか……』


 そうぼやきながらバンはアリサ達の後を追った。

 たぶん足手まといになると思うけど、でも彼が見た目とは違って義侠心に溢れる人だってことは判った。


『おいおい、ギルドってのは馬鹿なのか?』

『いや、でもさっきの銃撃すごかったろ、アレならもしかしたら……』

『でも凄かったのはこのちっこい娘っ子だろ?最大戦力を置いて行くのは訳が判らんぞ』

『それを言うならウチの社長もだろ?社長、褐色美女が好みだからな』

『おい、お前ら!聞こえてるからな!さっさと働け!』


 ガンガン運送の社員達とバンが、秘匿されていない秘匿通信で好き勝手なことを言っているのを聞き流しながら、私は真っ暗な廊下の向こうにアリサとヒナの持つブレードの輝きが遠ざかるのを見送った。


 さぁ、私達は小部屋に設置された冷凍睡眠ポッドの状況確認作業を行わないと。

 スリーピング・ビューティが無事でいてくれればいいんだけど。



 先行して確認していたガンガン運送の社員が言うには冷凍睡眠ポッドが設置された小部屋は全部で21部屋あり、扉にはアルファベットが記載されている。

 そしてAからGまでが右舷、HからNまでが左舷に配置されているそうだ。


 それらの冷凍睡眠ポッドで眠っているのは、服装からみておそらくブライアローズの船員らしいと社員はいう。

 となると船体の中央部分にある残り7つ……こちらは数字でⅠからⅦまでと書かれた部屋に乗客が眠っているのだろう。


 私達はまず軍警が侵入したというAの小部屋を覗いてみた。照明が落ちたままになった暗い部屋の中には、12機のポッドを1台のコントロール装置で管理する、標準タイプの冷凍睡眠装置が設置されていた。


 マグライトで周囲を照らし確認を行ったみたけど……軍警はご丁寧にもコントロール装置だけでなくポッドにも発砲していて、連中が乗員乗客を確実に抹殺するよう指令を受けていることが窺えた。

 同じように左舷側にあるGの部屋を覗こうとしたときに、私はあることに気が付いた。


『この部屋、灯りが付いてる?』

『おう。いくつかの部屋は動力が生きてるみてぇだぞ』


 私達に同行していたボブという名前のガンガン運送の社員がそう教えてくれた。

 これまで通ったブライアローズの船内下層部では船内動力が完全に落ちているから、私は正直な所スリーピング・ビューティの救助は不可能だと私は考えていた。


 ブライアローズは船殻が破損していて空気も残っておらず、船内は真空になっている。

 そのせいで周囲の温度は宇宙空間と同じ、およそ2.7ケルビン(-270.45℃)だと考えられ、その推測が正しいことはコスモスーツに搭載されている環境モニタでも確認できている。

 つまりポッドが破損したり停止していたりしても冷凍睡眠中の人体は完全凍結状態を維持しているってことだ。


 けど、問題はポッドの機能が失われたことで、内部で眠る氷付けの人達が宇宙線や恒星フレア由来の荷電粒子に被曝し続けているということだ。


 一見すると機能を停止したポッドに眠り続ける彼らは冷凍睡眠に入った当時と変わらない状態に見える。

 けど、体内ではDNAが損傷し、細胞膜の構造も分子レベルで劣化して……不可逆のダメージが致命的なレベルで蓄積している。


 つまり停止したポッドで眠っている彼らに蘇生措置を施しても、冷凍された死体を温める事にしかならない。


 ――そう、私が冷凍睡眠事故で死んだときと同じように。


 だけどポッドの機能が機能を維持しているなら話は別だ。

 冷凍睡眠ポッドには内部にいる人間の状況を管理する機能があるだけでなく、放射線等から防御を行う機能が備わっている。

 それはつまり、適切な冷凍睡眠状態が維持出来ているということで……解凍が成功するかどうかは本人の状況次第ということになる。


 ただ問題は900年というきわめて長期に渡る冷凍期間だ。

 100年程度の冷凍であればそれなりの確率で蘇生は成功するが、300年を超えると蘇生率が極端に低下すると聞いた覚えがある。


 ましてや900年となると……蘇生できる確率は1%を下回るんじゃないだろうか。

 余程の幸運、余程の好条件が揃っていないと蘇生は難しい。

 いくつのポッドが動作しているかは判らないけど、今は生存者がいる可能性に賭けてポッドを調べるしかないだろう。


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