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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部6章「スリーピング・ビューティ」ブライアローズ-凍宝の星船
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#8

 ブライアローズは5層になった構造だけど、階層間の移動はリフトやシャフトを使って行われていたそうだ。

 アイリスが言うには上層の客室フロアでは0.3Gの疑似重力が設定されていたみたいだけど、私達がいる下層……いわゆるサービスフロアにはそんな高度で維持コストの掛かるものは使われていなかったらしい。

 そもそも無重力の方が荷物の運搬とか楽だからね。


 なのでサービスフロアでは階層移動も天井に穴が空いているだけで、そこから上下移動するんだけど……問題は今私達が見上げている穴の先でエネルギー弾が飛び交ってるってことなんだよね。


『どうみても、この上で軍警とガンガン運送が撃ち合ってるよね?』

『ええ。このまま上がると双方から撃たれます』

『迂回しますか?』

『ここから見て船尾側に冷凍睡眠ポッドが設置されている筈ですが……そちらからも弾が飛んできていますね。どちらが船尾側に陣取っているのかは判りませんが』

『ガンガン運送側からは今のところ攻撃受けてないから、私達から攻撃を仕掛ける訳にもいかないよね?』


 飛び交うエネルギー弾を見ながら、そんなことを言っていた時だった。


『アイリスさんっ、欺瞞通信準備できましたっ!すぐ開始しますかっ?』

『マリエッタ、ナイスタイミング!さっそくやって!』

『はいっ!』


 マリエッタの返事が聞こえた直後、双方の射撃が一瞬だけ止まり、その後銃撃戦は再開された。

 船尾側からの攻撃はさっきとあまり変化は無いけど、船首側からの攻撃は明らかに手数が減ってるように見えるんだけど……。


『この反応……船首側が軍警だね』

『おそらく。彼らが船尾側ならガンガン運送と戦闘している暇があるなら人員を割いて冷凍睡眠ポッドを破壊しに行っているはずですし、緊急事態が発令されれば殿を置いて、移動できる人員は艦へ一旦帰還するでしょうから』

『どちらにせよこのままでは飛び出せないからね。……よし、じゃあこうしよう』


 そう言ってアイリスが提案した作戦はこうだ。

 私達が船内に侵入していることは船倉での戦闘で軍警には伝わっている可能性がある。

 だけどガンガン運送とはまだコンタクトを取っていないから、これから私達がこのシャフトを通じて上のフロアに上がることを通信で双方に通告する。


 先程の対応を考えれば軍警は間違いなく射撃を継続するけど、ガンガン運送の方は射撃を止める可能性があるから、そうなった場合は軍警の方だけを相手にすれば良い。


 もし双方の射撃が止まらないなら、飛んでくる弾が多い船尾方向に向けて私がシールドを展開してブロックしつつ、その間にアイリスが射手の少ない船首方向を制圧する。

 アイリスのガードはアリサとヒナがブレードで弾を撃ち落としてくれるらしい。


 ブレードでの迎撃ってアリサが出来るのは知ってたけど、ヒナも出来るようになってたんだね。

 テロマー因子、恐るべし。けど、アイリスの提案にアリサが修正案を出した。


『その状況で双方が射撃を止めないなら、あえて飛び出す必要もないでしょう。連中は私達がシャフトから出てくると思っているでしょうから、迂回ルートを取ってどちらかの背後から挟撃してやれば片方は簡単に殲滅できます』

『なるほど、通告を欺瞞情報として再利用する訳か。うん、無駄なリスクは取りたくないし、双方が敵だと判ればそれでもいいかな』


 そういうことで作戦は決まった。



『こちらはモーリオンギルドの遭難者救援チームです!上層でシャフトを挟んで戦闘を行っている勢力に通達します!ワタシ達の移動を危険にさらしています。シャフト周辺での戦闘を停止してください!』


 ヒナがオープンチャンネルの通信で呼びかけた瞬間、またしても一瞬だけ双方の射撃が止まったけど……船首方向からの射撃は直ぐに再開し、今度は船尾方向からの射撃は完全に停止した。

 そしてオープンチャンネルで応答があった。


『こちらガンガン運送だ!見ての通りオレらは攻撃を止めてるがら軍警連中はお構いなしだぞ?どうするつもりだ?このままだと軍警の連中が勢いづいて押し切られちまう。迂回するならそう言ってくれ!』

『射撃停止に感謝します。30秒だけ待ってください!』


 アイリスがそう返答すると、私に頷いてみせた。

 私もアイリスに頷き返し、レゾナンスシールドを起動した。

 周囲が淡い緑色の光に包まれる。


『じゃあ、行く』

『トワを盾にするなんて、姉として失格だけど……』

『私、盾職だから』

『トワ様、万が一に備えて後方は私が』

『うん』


 私とアリサはアイリスを挟んで背中合わせに立つ。

 私はシールドを船首方向に向けて。

 アリサは発振したブレードを手に船尾方向を向いて。

 タイミングを合わせて私達は床を蹴って跳び上がった。


 シャフトと上階の通路を通過するのは一瞬。私は上階の天井に手を付いて慣性を殺し、その場で盾を構える。

 碧の光が上昇してきたことで、船首側……さっき見たのと同じ軍警のコスモスーツを着た人影が私に向かってブラスターを撃って来るのが見える。

 でも3人程度の銃撃なら、シールドで十分に受け止めることが出来る!


 私の背後では同じように天井へ着地(・・)したアリサがブレードを手に船尾方向に目を光らせている。

 今のところ船尾からの攻撃は、ない。私がそんな状況を見て取った瞬間だった。


『私のトワにっ、銃を向けるなぁぁぁぁっ!!!』


 怒声と共にアイリスがこちらへ跳んできた……けど、アイリス?

 シールドよりも前に跳んでるよ!?

 私が慌ててアイリスのカバーに入ろうとしたけど、その必要は無かった。


 だってアイリスは天井に着地するまでにブラスターを三連射し、敵の攻撃は止まっていたから。


『……もしかして、トワ様と私がこちらに出る必要は無かったのでは?』

『アイリスだけで突破できた』

『いや、無理だからね?今の「絆」ブースト込みだからね?ああ、トワ可愛い、トワ大好き!』


 薄暗いブライアローズの通路、その天井で。

 私を抱きしめ……『絆』の排熱(かわいがり)をしながら、アイリスはそう言った。


 なんだろう、この状況。


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