#7
>>Towa
船倉を出た私達は、冷凍睡眠ポッドが設置されている上階へと向かうことになった。
船内の照明は船倉と同じように完全に消えていて、内部は真っ暗だ。
アリサの持つレゾナンスブレードの輝きだけが照らす薄暗い通路を進みながら、私はさっきの出来事を思い返していた。
無警告で攻撃してきて、名乗っても攻撃の手を止めない相手。
そして敵とはいえ、そんな相手をアリサは簡単に殺してしまった。
アイリスが説明してくれた「しっぺ返し」という掟が、深宇宙という環境では正しいってことは私にも理解出来るけど、それでも心のどこかでは納得できない部分があったんだ。
私が宇宙を旅するようになって、体感時間でもうすぐ2年が経つ。
旅立った時、スラリーが美味しく感じられるようになったら立派な航宙船乗りだと聞いていたから、私は自分がもう1人前の航宙船乗りになったんだと思い込んでいた。
でも、先日再会したボースンさんのことを含めて……私は結局航宙船乗りになれてないどころか、航宙船乗りのこともちゃんと理解できてなかったんだと改めて気付かされた。
遭難船であるブライアローズの船内を見て改めて思う。
彼らが生きる大宇宙は、こんなにも過酷で厳しい……厳格な世界だったんだって。
アルカンシェルで旅をするようになってから、私はそんな当たり前のことすら忘れていて、宇宙は居心地の良い場所だと思い込んでいた。
でも、そうじゃなかったんだ――
『アリサ、右手の通路脇』
『……確認しました。死んでますね』
私が航宙船乗りについて考えていると、通信機越しにアイリスとアリサの声が聞こえてきた。
アイリスの言葉が示す方向に視線を向けると、コスモスーツを着た人影が二つ、通路の暗がりに浮かんでいるのが見えた。
コスモスーツを着た2人はどちらもブラスターで撃たれたような跡がある。
2人ともさっきの軍警とは違うコスモスーツを着てるけど、デザインはそれぞれ違うものだ。
でも、これどっちも普通に売られてる普及品だよね?
『状況的にブライアローズの乗務員ではなさそうですし、現在接舷しているのは2隻だけですから……この2人はガンガン運送の人間だとみて間違いないですね』
『だね。ということはスピンドル軍警とガンガン運送は最初から敵対してるってことかな。宝の山を目の前にして仲間割れするにしても、少し気が早いだろうからね』
『この先が船倉だということは判っていても、そこにお宝があるかどうかも判らない時点から仲間割れをするとは思えませんからね』
そんな話をしていると、後ろからアクアマリンの光が近づいてきた。
あの澄んだ大海のような綺麗な色は、ヒナのブレードだね。ヒナには私達が侵入した船倉でコンテナの中身を確認して貰ってたんだけど……。
『アリサ様、やはりコンテナの中身には貴金属や宝飾品が含まれていました。先程の連中が連絡を絶ったとなると、後続が押し寄せてくる可能性があるかと』
『そうですか。ありがとう、ヒナ。先ほどの行動を考えると、この先も次々軍警が襲ってきそうですが……』
『結果的にガンガン運送が足止めしてくれる、かな?でも手は打っておいたほうがいいね。……マリエッタ?』
ヒナの報告を聞いたアリサとアイリスは軍警の再襲撃を危惧してるらしい。
アルカンシェルに残っているマリエッタを呼び出しているけど、どうするつもりなんだろう。
『はいっ!モニタリングしてましたっ!現在、ガンガン運送の船「バンバン丸」の制御奪取完了っ、軍警の「フライホイール」は通信と艦内制御は奪えましたけどっ、航法系が別システムなので手こずってますっ!』
『……バンバンって……社名同様、独特なネーミングだね……。まぁいいか。お宝を奪われないようにするだけなら航宙船を動けなくすれば良いけど、攻撃の手を緩めさせなら……どうしようか』
『呼び戻す?』
マリエッタの言葉を聞いていた私は、思いついたことを口にした。
通信系を奪ってるなら、そこから緊急事態でも発令して船に呼び戻したらいいと思ったんだ。
『……なるほど、その手があったか。さすがトワだね。じゃマリエッタ。双方の船の通信系を使って、それぞれの秘匿回線経由で緊急事態発生を発信してみてくれる?』
『軍警の方はエアロックを閉めておけばさらに時間が稼げそうですね。マリエッタ?』
『はいっ、どちらも可能ですっ!じゃあ準備でき次第実行しますねっ!』
うん、こういうときマリエッタがいてくれると安心だよね。
でもなぜかアイリスとヒナが得意げな表情をしてるのがエアフィールドごしに見えた。
『私の義娘は優秀でしょ?』
『はいっ、私の親友は優秀です!』
ああ、娘自慢と友達自慢か。微笑ましいよね。
なら、私も参加するしかないよね?
『私のマリエッタは優秀』
『ちょっ、トワ様!?何ですか、その「私のマリエッタ」って!いつからそんな深い仲に!?』
『トワ、それアリサが誤解するやつだから……って言う前に誤解と暴走が発動してるよ……』
『トワ様、説明を……いえ、私と深い仲に!』
『いや、アリサとトワは義理の姉妹でしょ?それ以上に深い仲って何よ……』
いつも通りよくわからない事を言うアリサと、そんなアリサをジト目で見つめながら呆れた声でぼやくアイリス。
いつものやりとりをしていると、少しだけTfTのことで感じていた心の重石から解放されていくような気がした。




