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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部6章「スリーピング・ビューティ」ブライアローズ-凍宝の星船
541/571

#5

>>Alyssa


 緊急ショートジャンプを命じるアイリスさんの言葉に、私は彼女の意図を理解しました。


 センサーで捉えた艦艇の配置状況から考えられる現状予測。

 そして、ロックされていた野良Sランク保護というミッション情報。


 それらが示す状況は……時間的猶予が無いことを示していたからです。


 現在の艦艇の配置については、マリエッタがスピンドル軍警の艦艇がプライアローズに向かっていると告げた時点でおおよそ事情は察することができました。


 遭難船の財宝は最初にたどり着いた船が獲得することができますから、スピンドル政府はおそらくブライアローズに積載された財宝の独占を狙い、救難信号の発信位置を本来の位置からずれた場所として公開。

 救援レース参加者を撒きつつ財宝を独占しようとしたのでしょう。


 亜光速での航行は途中で航路が間違っていると気付いてもそう容易に修正はできません。

 ですから偽座標を信じて私達のいる位置へと向かっている11隻の船は、既に「救援レース」からは脱落した存在だと言えます。


 本来であればスピンドル政府の行いは遭難船の乗員乗客を救助できる確率を押し下げる愚行ですが、財政難に苦しむ辺境惑星の行政府が、倫理よりも実利に手を出すというのはあり得ない話ではありません。


 これが単なる財宝争奪戦なら私達も騙されたうちの1隻ということで手を引いても構わないのですが……問題はギルドからのミッションです。

 統括局が900年近く冷凍睡眠しているであろう「眠り姫」、スリーピング・ビューティがどの程度の確率で生存していると試算しているのかは判りませんが、軍警の船が先に到着すると「彼女」の生存確率はおそらく0になるでしょう。

 なぜなら……。


「――ということで、おそらく軍警はブライアローズに乗船したら、真っ先に冷凍睡眠宙の乗員乗客を抹殺するはず。だからそれを止めないと、スリーピング・ビューティも殺されちゃうんだ」

「どうして、そんなことするの?」


 トワ様は不審げにそう言われますが……。

 そう、スピンドルの政府がブライアローズに積まれた財宝を手に入れるためには、最初に到着するだけではダメなのです。


「遭難船の不文律、ですね?」


 私の言葉にアイリスさんは頷きました。

 遭難船の財宝を手に入れることが出来る条件のうち、一番判りやすいものは誰よりも早く到達するということ。

 ですが……その船に持ち主がおらず、かつ乗員乗客が生存していないこともまた、必須条件なのです。


 この不文律は船の所有者である個人や企業が存続していれば遭難船に眠る乗客達の命を守る条項として機能しますが、ブライアローズは900年も前に遭難した船です。

 それはつまり運営会社も、権利者も皆死に絶えているということで、そのことは不文律が持つ意味を一変させるのです。


「そう。不文律は、スピンドルの政府が『宝船』を手に入れるために、積極的に乗員乗客を殺す理由になりうるんだよ」


  本来「生存者がいない」という条件は自然に発生することが前提で、乗員の殺害を許容するルールではありません。

 しかしスピンドル政府は「積極的に条件を満たす」ために、故意に生存者を殺害しようとしていると私達は考えました。


 辺境でろくな産業もなく政権運営に行き詰まった独裁国家が、乗員乗客に生存者がいなければ莫大な財産を手に入れることができると知っていれば。

 見知らぬ過去の生存者よりも自らの欲を優先させることは想像に難くありません。


 そしてセンサーが捉えた艦艇の位置関係が、その推測を裏付けています。


「だからね、私達がスリーピング・ビューティを助けるためには――」

『ショートジャンプ、行くよっ!』

「――この状況に跳び込むしか、ないんだよ」


 アイリスさんの言葉を遮るようにサクヤがジャンプドライブの始動を告げ、軽い振動と共に船窓が一瞬漆黒に包まれました。


 次の瞬間……私達の目の前には「茨の野バラ(ブライアローズ)」が、その姿を現していました。



「艦影及び艦籍確認っ!目の前の大型船は……随分破損してますけどプライアローズで間違いありませんっ!右舷ドッキングポートに取り付いている船、スピンドル軍警所属……駆逐艦、フライホイールですっ!」

「まさかと思ったけど本当に駆逐艦か……。救助どころか関係者ごと消す気まんまんじゃない。で、残りの小型艦は?」

「えっと……民間輸送船ですね、船籍は……ガンガン運送?」


 マリエッタが告げた艦籍情報のうち、最初の2隻については私の想像通りでした。

 ですが3隻目は……軍警の支援艇か何かだと思ったのですが。

 なんですか、そのガンガン運送というのは。


 私の疑問に答えるようにマリエッタは報告を続けます。


「えっと、スピンドルを拠点に活動している運送会社ですけどっ!反社会的勢力と繋がってるとか、あまり評判は良くないですっ!スピンドルの交信圏から外れてるのでアルカンシェルさんの通信能力でも現地ネットに繋げなくて、詳しくは判りませんけど……」

「反社会的勢力と繋がってる運送会社、か……。軍警と一緒に来てるってことは、直接手を下す役目を押しつけられてる使いっぱしりってところかな?」

「もしくは、軍警の思惑を抜け目なく察知して尾行してきた曲者で、軍警を出し抜いて財宝を独り占めしようとしているか……ですね」

「どちらにせよ、双方共に『スリーピング・ビューティ』を狙う敵、ってことだろうね」


 アイリスさんはため息をついてそう言いました。


「アイリス。あれが茨の船?」

「そうだね。でもホントに茨で覆われてるみたいに見えるね……」


 船窓から眼前に浮かぶ大きな船体を見つめていたトワ様が言われる言葉に、私も改めてブライアローズの様子に目をやります。

 資料映像で見た本来のブライアローズは、純白の船体に豪奢な装飾を施された、まさに宇宙の薔薇とでも呼ぶべき美しい豪華客船でした。


 けれど今、その面影はほとんど残っていません。


 遭難後、どのような経路をたどり、何を越えてここへ流れ着いたのか……。

 微細な岩石が漂うアステロイドベルトを通過したのか、彗星のダストトレイルを横切ったのかはわかりませんが、900年に及ぶ漂流の果てにブライアローズの船体には無数の岩塊が突き刺さり――その名の通り、茨に覆われた薔薇(ブライアローズ)のような外観となっていたのです。


 しかしすでに2隻の船がブライアローズに接舷しているということは問題です。

 ショートジャンプ前のセンサー情報から逆算すると、彼らがここへ到着してからそう時間は経っていないはずですが……。


「マリエッタ、ブライアローズに接触している2隻に通信。こちらがギルド所属で、ギルド関係者の救助ミッション中だと開示してみて」

「……えっと、ジャンプアウト直後からコンタクトしようとしてるんですけど、応答ありませんっ!」

「……アリサ、ヒナ、どう思う?」

「軍警が後続の船を認知していたなら、時間最優先で総員移乗している可能性はありますね。民間船相手なら自動防衛システムで対応できるでしょうし」

「運輸会社の方はあまり乗員数が多くなさそうですから、ブリッジ要員ごとブライアローズへ移乗してると思います!」


 私とヒナの言葉にアイリスさんは頷きました。

 おそらく彼女も同じように状況分析していたのでしょう。


 ブライアローズ両舷のドッキングポートが塞がっているのなら、私達は船倉側の搬入口あたりが狙い目でしょうか。


「じゃあ船内突入は私とトワ、アリサ、ヒナ。コスモスーツに着替えて、各自武器を持って5分後にブリーズで発進」

「わかった」

「はい」

「了解しました!」

「マリエッタ、あなたはアルカンシェルに留まって2隻の船の制御を奪取できないか試してみてくれる?」

「はいっ、かしこまりですっ!」

「作戦の最優先目標は全員が無傷で戻ること。次に『眠り姫』の確保。じゃ、ミッション開始!」


 アイリスさんの号令で、私達の「スリーピング・ビューティ救出作戦」は始まりました。

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