#4
>>Iris
マリエッタの報告を耳にした私は、事態が思っていたよりも面倒な方へ……単なる宝探し以外の要素を帯びてきたことを感じた。
アリサに目をやると、彼女も頷いている。
ただの宝探しに軍艦が出張ってきて、おまけにギルドはミッションの情報を一部伏せている。
この状況でこれがただのお宝探しだと思えるほど、私もアリサもギルド統括局を……ひいてはスゥ局長のことを信用できないというのが正直な所だ。
おそらくこのミッション情報のロックされていた部分に、答えがあるのだろう。
そう思った私達は行動を開始する前にミッション情報の確認を行う事にした。
ロックされた情報である以上、ロック解除には管理官の承認が必要になるはずだけど……。
「ミッション情報、呼び出しますね。……ロック、外れてますが……なんですか、これ?ブライアローズ号に乗船している乗客1名を極秘裏に保護せよ?その旅客のコードネームは『スリーピング・ビューティ』で、……野良Sランクシンガー!?」
「は?」
思わず間の抜けた声が出てしまったけど、たぶんブリッジにいる全員が――トワを除いて――私と同じような表情をしているだろう。
野良シンガーというのはモーリオンギルドに所属していないクリスタルシンガー能力の保有者をさす俗称で、ギルドが血統主義であることを踏まえるとそこらに存在する者ではないが、さりとてそう珍しい存在でもないという、微妙な存在だ。
私が知っている範囲でもティンバリスにいるリーヤ、そしてアノインティング統治者であるのリルカがそうだしね。
リーヤの場合はギルドから抜けた高位シンガーと他ギルドの女性の間に生まれ、リルカの場合はギルド所属ではないセレスティエル、エトワールであった初代フローラ・セレスセラの直系の子孫としてシンガー能力を受け継いでいる。
……そう言えばヒナも元々はリーヤと同じような立場だったけど、彼女の場合はBランクのシンガー能力があるという理由で幼少期にギルドに引き取られたから「元野良」ということになるだろうか。
いずれにせよ野良シンガーというのはギルドの血統管理から離れたところで一般人との混血によって生まれる存在だから、そのシンガー能力は基本的にそう高くはない。
だからヒナのようなBランクというのは例外中の例外で、リーヤとリルカもおそらくランク的にはCかDというところなんだけど。
その常識を踏まえて考えると、ミッションデータに記されている「Sランク野良シンガー」と言う存在がいかに非常識なものなのかは言うまでもないだろう。
そもそも現在統括局が把握しているSランクのシンガーは、表向きSランクと言うことになっているトワを除けば10名しかいない。
……いや、私達がスターゲートを旅している間に1名が老衰で死亡したと聞いたから、現存しているのは9名のはず。
そんな希少な存在が、野良だなんてありえないでしょう!?
「え、Sランクって……あの、Aよりも1ランク高いSですかっ!?」
「……ミッションデータが誤入力されてなければ、そのSだね。アリサ、どう思う?」
「これが『遭難したSランクシンガー』の救助ミッションであれば、さほどおかしな所はありませんが……」
うん、アリサの言うとおりだ。
Sランクシンガーはギルドにとって何よりも貴重な「人財」だ。
それはもう、ブライアローズに積まれている財宝などとは比べものにならない程に。
実際、ギルドはSランクシンガーの数が年々減少していることに頭を悩ませていて、風の噂では人工的な手段でSランクシンガーを創り出そうとした……なんて話もまことしやかに囁かれているぐらいだ。
もっとも、噂ではその計画は失敗して随分前にプロジェクトも解散になったらしいとアリサが言っていたっけ。
まぁ、私が死んでいた間の話だから詳しいことは判らないんだけど。
「そもそもギルドで把握していないSランクシンガーなんているんですかっ!」
「普通に考えればいないだろうね。なにせ統括局は血統管理で1人でもSランクを多く生み出そうとしてるみたいだし」
「メラニーが情報を伏せているせいで、統括局はシンガー能力の由来を正確に把握出来ていませんからね。内部資料ではSランクは突然変異の特異体質だと考えられているようですし」
アリサが言うとおり、シンガー能力というのは『歌』のエレメントから生み出されたセレスティエル、エトワールの血を引く者のことであり、エトワールの血が濃ければ鯉ほど高いシンガー能力を持つことになる。
けどその事実はセレスティエルがオリオン腕由来の存在であり、放浪機と戦う為に生み出されたという情報が付随するため、ペルセウス腕では禁忌の知識とされ、統括局局長であるメラニー・スゥにより情報が隠匿されている。
だから統括局、特に医療部がどれだけがんばって研究したとしても、最後のエトワールであるトワが子供を産まない限り、新しくSランクシンガーが生まれる可能性は限りなく低いわけだけど……。
ともあれ、そんなギルドにとって最大級のVIPに対する救助ミッションが組まれること自体は、そうおかしなことじゃないんだけど……。
そこまで考えて、私はあることに気が付いた。
このミッション、既にかなりシリアスな状況になっている!
「サクヤ、緊急ショートジャンプ準備。準備が出来次第プライアローズの予測現在位置へ可能な限り寄せて跳んで!安全係数は最低限でいい」
『は?何、急に』
「説明はあと!ジャンプ準備急いで!」
『ほーい。今ジャンプ機関の通常クールダウン中だから……180秒後に跳べるよ』
「アイリス、どうしたの?」
私が緊急ジャンプを指示したことで、それまでぼーっとミッションデータを見ていたトワが声を掛けてきた。
そう言えばこの子だけは野良Sランクに反応してなかったっけ。
まぁ、トワはSSランクだから格下の野良シンガーに興味が無いのか……いや、違うな。たぶんこの子は野良Sランクという存在の異常さに気付いてないだけだね。
ともあれ、私は自分が抱いた危惧を全員に説明しておくべきだと思った。
なぜなら、このミッション、高確率で戦闘になるだろうから。




