#2
>>Alyssa
墓石にはユーリ・ルバコフの名と、5年ほど前の日付が没年として刻まれていました。
「ユーリ。宿題、お疲れ様でした」
クレリスの大統領という重責を長く担い続けたユーリ。
彼と出会ったのは90年ほど前のことになるでしょうか。
当時まだ20代半ばだったユーリとは、疫病で壊滅状態になった惑星ヴェリザンに対する複数惑星合同の支援事業に関する調整の場で出会いました。
私がペレジス側の代表。ユーリはクレリス側の実務担当者でしたっけ。
当時のユーリはそれはもう軽薄で軟派な若者で、通信で私の顔を見た瞬間に口説いてくるようなロクデナシでした。
ですが一方で保険衛生局の担当者としては熱意に溢れた優秀な人間で、ヴェリザンの支援にも積極的に尽力してくれました。
そう、故郷を離れられない私の代わりに、片道8年を掛けて直接ヴェリザンへ出向いてくれる程に。
ヴェリザンの混乱が収まり、故郷であるクレリスへ帰ったユーリは私に対して政治家になると宣言しました。
ヴェリザンでの体験を経て何か思うところがあったのでしょう。
そして大統領になれたら付き合って欲しいと何度目かの口説き文句を口にする彼に、私はあえて誤解した風を装って「クレリスから人類至上主義者を根絶できたら、酒ぐらいなら付き合ってもいい」と答えたことを覚えています。
ユーリは宣言通り政治家になり、実績を積んで最終的にはクレリスの大統領にまで上り詰めました。
私は彼が約束などとうの昔に忘れ去っていると思っていましたが、あれから何十年かが経った後、老齢となったユーリ・ルバコフ大統領は私との約束を守りコーラルテピッドを壊滅させてみせました。
ですが……その翌年。
私達がスターゲートの中を旅している最中に、結局一度も私と直接顔を合わせないまま、ユーリは逝ってしまいました。
そして今、私は生前のユーリと酌み交わすことが出来なかったお酒を手に、彼の墓前に立っています。
開栓したフェイアリンの瓶をユーリの墓石に軽く打ち合わせ、芳醇な赤い液体をユーリの墓石に注ぎます。
「ユーリ、遅くなりましたが、約束のお酒です」
半分を墓石に。残りの半分は瓶のまま私が飲み干しました。
テロマーである私は他人と違う刻の流れを生きています。こうやって親しい人を見送るのも、初めてではありません。
ですが、それでも……。
墓地を吹き抜ける風に髪を嬲られながら、私はただユーリとの時間に想いを馳せました。
しばらく喪に服していた私でしたが、そろそろ墓地を離れてホテルへ戻ろうかと考えたタイミングでアイリスさんから通信が入りました。
どうやらカルティアの質問攻めから解放されたようですね。
「はい、アリサです。お疲れ様です、アイリスさん」
『うん……アリサ、お疲れ案件が来たんだけど』
「……はい?カルティアがらみですか?」
『ううん、ギルドから』
ヒナが未消化の休暇が溜まっているというのでクレリスで彼女の休暇に付き合う予定だったはずですが、何やらミッションが入ったようです。
ですが、アイリスさんの説明を聞いていた私は頭が痛くなってきました。
『――ということなんだけど』
「断りましょう」
『それがね、強制的に受諾にされてるんだよ、これ』
「なんですか、それ。メラニーに苦情を言わないと」
『私もそう思ったんだけど、トワが面白そうだからって……』
「わかりました。では早速向かいましょう」
『……アリサに相談した私が馬鹿だったよ……』
「ちょ、その言い方、酷くないですか!?」
『ともかく、用事が終わったら帰ってきてくれる?』
そう言ってアイリスさんからの通信は切れました。
それにしても、遭難した豪華客船の捜索ミッションとは……メラニーは何を考えているのでしょう。
ユーリ、ではまたいつか。
心の中で彼に別れを告げて、私は家族の待つところへ歩き出しました。
>>Towa
ローヒーの後継ゲームはあまり面白くなかった。
完全ARだから手応えがないっていうのもあるんだけど、ヒナが手加減なしの全力攻略モードだったから、あっという間にラスボスまで撃破しちゃったんだよね。
初参加のニュービーが最短クリアとか、他のプレイヤーに申し訳ないってマリエッタが騒いでたけど。
ともあれ、思ったよりも早くゲームが終わったから、私達3人はアイリスが待っているホテルへ帰ったんだけど、なぜかアイリスは寝室のベッドに座って頭を抱えていた。
話を聞くと、なにやら面倒そうなミッションを押しつけられたらしい。
「面倒なミッション?何?」
「一言で言えば……宝船探し、かな?」
「面白そう。やる」
「……トワならそう言うと思ったよ」
「アイリス様、もしかして宝船ってブライアローズですか?」
「うん。知ってる?」
「知ってるもなにも、ここ2日ほどずっとニュースでやってましたよ。でも、どうしてギルドがブライアローズを……?」
ヒナの言うとおり、たしかにそこは理解不能なんだよね。
豪華客船ブライアローズは沢山のお宝が積み込まれている宝船らしいから、私もどんなものが積まれているのかか見てみたいとは思うよ?
けどそれは個人的な興味であって……ギルドがわざわざミッションを出す理由ってなんだろう?
アリサに連絡を取っているアイリスを見ながら、そんなことを考えたけど、私にはギルドが何を考えているのかはさっぱり判らなかった。
「マリエッタ、ヒナ。どうしてギルドは船を探すの?」
「えっと、財宝目当て……じゃないかな?」
「わたしもそう思いますっ!」
「ほほう」
確かに財宝は積んでると思うけど、それって持ち主がいるから見つけても自分のものにならないよね?
私がそう言うとヒナとマリエッタは顔を見合わせた。そして、マリエッタは言った。
「なりますよっ!見つけた人のものにっ!」
「ほほう」
2人が説明してくれたところによると、なんでも難破船や遭難船の扱いは、不文律だけど一応の決まりがあるらしい。
「発見された位置が惑星の行政圏外」で、
「所有者がいない」状態、なおかつ
「生存者がいない」場合は、
最初に船へたどり着いた人が船体や積載品の所有権を得ることが出来るんだそうだ。
ブライアローズは900年ぐらい前の船だから乗客が緊急避難として冷凍睡眠していたとしても生存している可能性は0に近い。
船を保有していた会社も、虎の子の豪華客船を失った事で何百年も前に倒産しているとマリエッタは言った。
だから最初にブライアローズへたどり着いた人が、豪華客船に眠る莫大な富を得る権利があるんだそうだ。
「いうならば、ジャックポットを引き当てるってやつですね」
「なら、みんな血眼になってる?」
「はいっ、さっきニュースでも12隻の航宙船が向かってるって言ってましたっ!」
そんなにライバルがいるんじゃ絶対勝てないよね。
そもそもブライアローズのいる場所って随分遠いらしいし。
一瞬そう思ったけど……私は気が付いた。
「FTLしたら一番乗りできる?」
「はいっ!勝ったも同然ですっ!」
「亜光速で駆けつけてる人たちから見たらチートだからね、トワの船……」
ヒナはそう言うけど、彼女が乗ってるオンブルだって超光速船だよね。
私達がそんな話で盛り上がっている間にアイリスとアリサの通話は終わったみたいだ。




