#8
――同時刻、国会議事堂前。
ケンは再びこの場所に立っていた。
前回対峙したのは1000の獣魔。
今回ケンの眼前にいるのはたった1人の戦士。
数だけ見れば前回の方が難敵だと言えるかもしれない。
だが今回対峙している黒い戦士は……フォトナイザーよりも、強い。
一度敗れた相手。
しかも撃破するための手立ては何も用意されていない。
それでも、ケンは右手を天高く掲げて叫ぶ。
「凝晶!」
国会議事堂前に眩い虹色の輝きが溢れ、次の瞬間にはメタリックな輝きを放つコンバットスーツを身に纏ったフォトナイザーが姿を現した。
《宇宙シェリフ・フォトナイザーがコンバットスーツを凝晶するタイムは僅か1ミリ秒に過ぎない。では凝晶プロセスをもう一度見てみよう!》
人気の無い国会議事堂前に響く解説音声を鼻で笑い飛ばしながら、無言でフォトナイザーを見つめるフォトライザー。
フォトナイザーもまた仇敵を睨み付けるようにフォトニックアイを輝かせる。
《衛星軌道上の母艦ステラマリアより発信された量子指令が、空間を越えてケン・イチジョウジの身体へと到達する。ナノスケールで編まれた量子フォトン結晶がケンの元へ即座に転送され、わずか1ミリ秒でフォトナイザーの装甲が凝結生成される。フォトン-プラズモン結合が光を物質化し、仮想質量を伴う光の勇者……すなわちフォトナイザーを誕生させるのだ!》
凝晶したことによってスーツの破損箇所は修復されているが、装着者であるケンの傷は重く、また先ほどの戦いでエネルギーを消耗しすぎている。
おそらく現状ではエトワールモードを発動することも叶わないだろう。
だが、それでも。
『宇宙シェリフ、フォトナイザー!』
正義のヒーローは果敢に戦いを挑む。
不屈の正義だけを武器として。
圧倒的な不利。
スーツの性能も、装着者の体力も。
そして武器の威力もエネルギーの残量も。
フォトナイザーは全ての面で黒い鏡像に劣っていた。
数合打ち合っただけでフォトニックブレードは刃の中心部で折れ、既にコンバットスーツにも無数の傷が刻まれている。
ああ、そして既にフォトナイザーのヘルメットは破損し、血に濡れたケンの素顔までが露出しているではないか!
『これで終わりだ』
「……まだまだ、なんだぜ!」
フォトライザーが振り下ろした黒い刃を、折れた刃で何とか受け止めるフォトナイザー。
だが、負荷に耐えかねたブレードがミシリと鈍い音を立てる。
勝利を確信したフォトライザーは一度刃を引き、黒い刃を大きく振りかぶった。
不屈の正義が、今まさ敗れ去ろうとしていた――
――その頃、ギルド支部最奥、C3通信室。
複数設置されているC3通信機を一つ一つ改めていたヒナは、古ぼけた通信機の裏側に取り付けられた小さなモジュールを発見した。
「……これで……最後!」
躊躇せず、モジュールを抜き取るヒナ。
既に彼女の足下には同種のモジュールが十数個、転がっている。
だが、今抜き取ったモジュールはそれまでの物とは違い、少し大きく、色も黒かった。
「もしかして、これが……?」
黒いモジュールを手に、ヒナはケンの勝利を祈る。
――振り下ろされた黒い刃は、しかし途中で靄のように霧散した。
続けて、フォトライザーのスーツも黒い粒子に還元されてゆく。
「なんだ……何が起こった……?」
『正義は最後に勝つんだぜ!』
そう言うとケンは変身が解除されたアルゴスに対して砕ける寸前だったフォトニックブレードを突きつけた。
勝負あった、と宣言するケン。
だがアルゴスは投降しろと告げるケンににやりと笑うと右手を横へ突き出した。
「何度でも、変身すれば良いだけのこと。凝黒――」
起動キーワードを口にし終えたアルゴスだが、その上半身が右手を起点にゆっくりとずれ、ブレードを振り切った姿勢のフォトナイザーにもたれ掛かるように崩れ落ちてゆく。
『……俺は、止めたんだぜ?』
小さく呟いたケンの言葉は、誰の耳にも届かないまま……風に溶けていった。
ハッテとアルゴスが討たれ、ギルド支部に設置されていた量産型フォトナイザーシステムの通信モジュールも全て破壊された。
ハッテが保有していた技術情報もサーバごと処分されたことで、フォトナイザー量産計画は完全に阻止された。
ヒナによる事後の調査で、今回の件はハッテと、ピアースの息が掛かっていたアルゴスの独断によることが判明。
支部そのもの対する処分は軽微なもので済んだ。
負傷を押して戦ったケンは応急処置されていた傷口が開いたことで出血し、気絶しているところをヒナによって発見された。
無駄に体力のあるケンは数日もすれば元通りだろうと医師が太鼓判を押したことで、ヒナはようやく安堵した。
入院したケンを病院へ残し、ヒナはギルド支部からアリサに報告を行う。
「アリサ様。支部長ハッテ、および元監察官アルゴスの0号処分、完了しました」
『ご苦労様でした、ヒナ。……無理、していませんか?』
「はい、大丈夫です。それと、量産型フォトナイザーシステムの全破棄も完了しました」
『それは重畳です。それで、ケンは?』
「入院中です。でも聞いて下さいよ!あの正義馬鹿、目を覚ました途端にワタシに告ってきたんですよ!」
『……青春、ですか?』
「ちがいますっ!ワタシの心はアリサ様に捧げてますから!」
そんなことを言いながら、ヒナは報告の通信を終えた。
ヒナがアリサに命じられた「量産型フォトナイザーシステム」の破壊は完璧に履行された。
だが……ヒナの手元には、黒いバックルが残されていた――
惑星トーエイ編の後始末となる物語はこれにて終了です。
次回からは漂流船を舞台にした血湧き肉躍る?お宝探しの物語「スリーピング・ビューティ」をお届けします。
★評価やリアクション、感想などを頂ければ励みになります!




