#7
ギルド章を掲げ、投降を求めるヒナを一瞥したフォトライザーは無言で黒い刃を振り抜く。
……何かが来る!
直感的にそう思ったヒナは身を躱す。
と、ヒナが立っていた観客席が黒い衝撃波のようなもので破壊された。
『ほう……いい動きだ。この玩具より手応えがありそうだ』
「ちっ……ケンっ!ここはワタシが食い止める!あなたは下がりなさい!」
『だが!』
「いいから!」
そう言い放つと、ヒナはケンの撤退を見届けず、レゾナンスブレードを発振させてフォトライザーへ斬りかかった。
『……この動き、面白い。特命監察官と言ったか?死にぞこないのアレクシスは教官として優秀だったのだな』
「……教官は、関係無いっ!」
フォトライザーの斬撃を機敏に躱わしながら、ヒナは黒いコンバットスーツへと迫る。
その動きは明らかに人間離れしたもので、彼女が人間ではなく女神の眷属であることを示していた。
激しい斬撃の応酬の末、大ぶりになったフォトライザーの隙を突き、ヒナは腰部のバックルにレゾナンスブレードを突き立てることに成功する。
「取った……!」
『何をだ?』
だが、バックルを貫通していたはずのレゾナンスブレードの刃は……まるで霧散するようにその光を減じていた。
「どうして!?」
『監察官のブレードがシステムを破壊することは確認済みだ。我らが対策を怠るとも?』
「くっ!」
ヒナが量産型フォトナイザーを倒した時のデータが収集されたいた。
そしてギルドはヒナ達が持つレゾナンスブレードの開発元でもある。
なら、ブレードの開発データから対抗策を産み出すことはさして困難なことではなかったのだろう。
だが、ブレードの無効化にエネルギーを使いすぎたのか、フォトライザーの黒いコンバットスーツは黒い靄のように霧散し、アルゴスの姿が現れる。
「ち……。ここまでか」
そう言い残して、アルゴスは撤退した。
アルゴスの撤退を見届けた後、ヒナは敗走したケンの後を追った。
血痕を追って町外れへと向かうと……そこには変身を解除したケンが倒れていた。
手傷を負い意識を失ってはいるが、命には別状は無いとヒナは判断する。
だが、フォトライザーという圧倒的な力の前に敗北したケンの正義が、このことで折れてしまったのではないかヒナは懸念した。
ケンを宿に運び、傷の手当てを行っていたヒナはアリサからの連絡を受けた。
ギルド統括局がトーエイに対するハッテの内政干渉を認定。ハッテと、その直接の配下として行動しているアルゴスに対して0号処分を決定した、と。
またハッテが生産した量産型フォトナイザーについても、その影響力の大きさから破壊指令が出された。
同時にハッテは現在進行形で内政干渉を続けているためその排除は急務とされ、現地に滞在しているヒナに執行官としての指令が下されたとアリサは告げた。
『ヒナ。もう一度だけ問います。本当に大丈夫ですか?もし無理なら私が――』
「アリサ様。ワタシは特命監察官です。執行官として断罪を行う覚悟は出来ています」
『……そうでしたね。貴女を侮辱するつもりはありませんでした。謝罪します』
「いえ。ですが……敵は手強い。ケンも敗れました。もしワタシの正義が届かなかった時は……アリサ様のお力添えを」
『承知しました。ですが無理はしないように』
通信を終え、ヒナが己の正義を示すブレードを手に覚悟を固めていた時、ケンが目を覚ました。
「こ、こは……」
「ワタシの宿。痛むところはある?」
「……全身が痛いんだぜ」
「そう。でも、喋れるなら大丈夫だね。ワタシ、これからハッテを処分してくるから、あなたはここで寝てていいよ」
「俺も行くんだぜ!……いててて」
ヒナの言葉にケンはベッドから飛び起きるが、傷口もまだ塞がっていない状態では無理があった。
だが、それでも戦いに向かおうとするケンに、ヒナは不思議そうに問うた。
あなたの正義は敗れたのに、どうしてまだ戦うの、と。
ケンの答えはシンプルだった。
「戦い続けている間は負けてないんだぜ!それに、ヒーローは何度でも立ち上がるんだぜ!星の命が熱くて燃えるんだぜ!」
詭弁と精神論を合わせたようなケンの言葉は、ヒナの論理的な正義とは全く相容れないものだった。
だが、それでも……ヒナにはケンのその正義の在り方が、不屈の正義が眩しく思えた。
星の命の下りは理解出来なかったが。
『速報です!黒いフォトナイザーが出現しました!警官隊を蹂躙し、黒いフォトナイザーが国会議事堂へと向かっています!あっ、報道ドローンが撃墜されました!』
急を告げるニュースに2人は頷き合い、立ち上がった。
ケンは国会議事堂へ。
ヒナはギルド支部へ。
互いの正義を胸に、それぞれの戦場へと向かって走り出す。
「特命監察官、ヒナ・カイラニだ!これよりトーエイ支部の特別監察を実施する!なお支部長ハッテには内政干渉罪で0号処分命令が出ている!監察を妨害するものも同罪と見なすので、そのつもりで!」
右手にアクアマリンの光を放つレゾナンスブレードを持ち、左手にギルド章を掲げてそう呼ばわるヒナの前に立ち塞がろうとする者はいなかった。
だがヒナはハッテを討つ前にすべきことがあった。
フォトライザーと対峙するケンを助けるために、C3通信施設を押さえるのだ。
だが……施設の前には後回しにしたはずのハッテが立ち塞がっていた。
「小娘が……監察官だったとはな。だが、好きにはさせん。見ろ、儂らの開発したフォトライザーシステムを!これがあればフォトナイザーも、統括局も恐るるに足りぬ!」
「……今の発言はギルドに対する反逆の意思があると見なしますが、問題ありませんか」
「問題など無い。なぜなら貴様も、ギルドもこの儂が滅ぼし尽くすのだからな!見よ凝――」
右手を挙げ、変身キーワードを口にしようとした姿勢のまま……首を失ったハッテの体は崩れ落ちた。
「……変身など、させる訳がないでしょう」
人間を遙かに超える速度でレゾナンスブレードを振り抜いた姿勢のまま、ヒナはそう嘯く。
驚愕の表情を浮かべたまま転がったハッテの頭部に冷たい一瞥をくれたヒナは、ハッテが持っていたフォトライザーシステムを拾い上げた。




