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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部5章『終の海』ヘカテー-星海の惑星
534/552

#6

「フラワー商会……!」


 トーエイの金融機関に対し、内偵なのでギルドには正体を話すなと釘を刺した上で監察官の身分を明かしたヒナは、ようやくハッテとピアースを繋ぐ資金の流れを発見した。

 ハッテの私的な口座に継続的な送金を行っていた商会こそが、動かぬ証拠だった。


 ギルドは表だって支援できない活動に対して出資するためにいくつかのペーパーカンパニーを保有している。

 フラワー商会もその中の1つで、その商会はヒナが所属する監察部が管理しているものだ。

 問題は、フラワー商会は監察部全体の管理ではなく、監察部部長……つまりピアースの裁量によって運用されていたということだ。


 実際、ハッテの口座に対する送金記録はピアースが死亡した月で途絶えている。

 つまり、ハッテがフォトナイザーシステムの量産に使用していた資金はピアースの、星喰み(アバドン)のものだということだ。


 ヒナはこの発見をすぐさまアリサに伝達する。


『判りました。この証拠があれば狸……いえ、メラニーも動かざるを得ないでしょう。ですがヒナ、状況が状況です。貴女が執行官に任命される可能性は高いですが……大丈夫ですか?』


 アリサの言葉が意味するのは、ヒナ自身が力を持ってハッテを0号処分(処刑)するということだ。

 ヒナはこれまで自分の意思で誰かの命を奪ったことはない。だが、それでも……法の執行もまた監察官の任務の一端であるのなら。


「もちろんです」


 ヒナは静かにそう答えた。


 その日、ヒナは話があるとケンを呼び出した。

 ヒナはケンに対して、ギルドが量産型フォトナイザーを市中にばらまいている可能性が極めて高いこと。そしてハッテが全ての黒幕であることを告げた。

 その言葉に対するケンの答えはあっさりしたものだった。


「わかったんだぜ」

「わかった……って、それだけ?」

「俺のすることは変わらないんだぜ!」


 ケンはあくまでも、現れた悪を討つだけだと笑って告げた。

 ギルドへ攻め込んでハッテを討たないのかと問うヒナに、ケンは心外そうな表情で答えた。


「正義のヒーローはいつだって専守防衛なんだぜ!親父も、モリヤマ先生もそう言ってたんだぜ!」


 その言葉はヒナにとって意外なものだった。

 なぜなら、ケンの正義は無軌道な暴力だと思っていたから。

 だが、ケンには明確なルールがあった。

 専守防衛……つまりそれは人々を守るための戦いであり、絶対普遍の正義なのだと。


「じゃあ、あなたが悪人を殺すのは、どうして……?」

「それは、戦った結果だぜ!俺は負ければ死ぬ。相手も負ければ死ぬ。それだけなんだぜ!」


 それはまるで原生生物を相手にしたハンティングにおける掟のような……生死を賭けた戦いを続けていた人物のシンプルで残酷な答えだった。


 一般的な正当防衛と似ているようで少し違う価値観。

 だが、ヒナはそれこそがケンの強さであり、折れない正義の源流なのだと理解した。


 だが同時に不安にも思った。

 もしケンの力が届かない相手が現れたら……?

 そのとき、彼は力の正義を貫けるのだろうか、と。


 かつてヒナの師であるアレクシスは、力なき正義に意味はないと言い放った。

 ケンの力と正義が……ハッテの悪意の前に折れないことを、ヒナは願った。



 ――だが、ヒナの懸念は現実のものとなってしまった。

 黒鎧の形をとって。


 翌日、ケンは何者かによって野外講堂へと呼び出された。

 ケンから呼び出しについて知らされたヒナも、講堂の客席に身を潜めて様子をうかがっている。


 と……そこへ現れたのは、2mを超す筋肉質の巨漢。ヒナはそれがハッテの秘書……を名乗るボディガードであるアルゴスだと気が付いた。

 監察部出身のアルゴスはかつてピアースの配下にいた人間で、星喰み(アバドン)の関係者だと目されていた人物でもある。


 ケンも決して背が低い方ではないが、それでもアルゴスと対峙すると頭一つ分ほど背丈が違う。

 物陰から見ていても、ヒナはその威圧感に怖気が走った。


 アルゴスはケンを一瞥すると、宣言した。


「ケン・イチジョウジ。ここまで役に立ってくれたことを感謝する。だが、貴様はもう不要だ」

「何を言ってるんだぜ!」

「もはや言葉は不要。……凝黒」


[Change Photorizer]


 右手を水平に延ばし、アルゴスはそう言葉を紡ぐ。

 それはフォトナイザーの起動キーワードとは似て異なるものだった。


 無機質な合成音声と同時にアルゴスの体を一瞬、闇が包む。

 そして現れたのは。


「黒い……フォトナイザー?」

『フォトナイザー?そんな玩具と一緒にして貰っては困る。これは我らの力、その名は「フォトライザー」だ』


 アルゴス……フォトライザーの言葉に、ケンは飛び退って距離を取ると凝晶し、フォトナイザーへと変ずる。


 白く輝くフォトナイザーのコンバットスーツと、黒をベースに朱い輝きを纏ったフォトライザーのコンバットスーツ。


 基本的なデザインは類似しているのに、まるで印象が違うとヒナは思った。

 ケンが纏うフォトナイザーは彼の正義である専守防衛を具象化したような守りのスーツ。

 黒いフォトライザーは鋭利なフォルムで相手を断罪し、滅ぼす力の象徴であるように思えた。


 装着者であるアルゴスの体格を反映して大柄なフォトライザーだが、その動きは機敏だ。

 彼の振るう振るう闇を纏った大型のブレードはケンのフォトニックブレードを正面から粉砕し、フォトナイザーに手傷を負わせる。


『ぐっ……なら!「トワ可愛い」!』


 ケンは奥の手であるエトワールモードを発動する。

 量産型フォトナイザーが相手であればこれが逆転の一手になるはずだが……。


『ダブルフォトニックブレード!』

『くだらん』


 しかし、ケンの放った必殺の一撃は、フォトライザーに軽い損傷を負わせることしかできなかった。


『馬鹿な!』

『言ったはずだ。そんな玩具とは違うと』


 アルゴスの言葉と共にフォトライザーは茫然とするフォトナイザーへ猛攻を仕掛ける。

 黒い刃がエトワールモードの装甲を削り、剥がし、抉り取る。

 このままではケンが負ける……!

 そう思ったヒナは、介入を決意した。


「アルゴス!モーリオンギルド特命監察官、ヒナ・カイラニだ!直ちに戦闘行為を停止しろ!」


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