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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部5章『終の海』ヘカテー-星海の惑星
533/550

#5

 ――結果は真っ黒だった。


 バイオテクノロジーを用いた生体兵器の開発。

 それも一般市民を巻き込んだ大規模なものが、この星では行われていた。

 トーエイの公式記録にはゲルゲム団というふざけた名前の犯罪組織と、その首領であるジャーアック……Dr.レリアス・アルカディアがその首謀者だと記されていた。


 47歳という年齢で、それまでの名声も功績もかなぐり捨てて悪に走ったレリアスという女性化学者のデータを見たヒナは、星喰み(アバドン)の黒幕であったベネディクト・ピアースのことを思い出した。

 もしピアースがレリアスに接触していたら?

 彼女はピアースの差し出した、永遠の命と言う禁断の果実を手に取ってしまったのではないか……?


 公式記録にある穏やかな表情を浮かべた、だが逃れ得ぬ老いの手が迫りつつあるレリアスの顔写真を見ながら、ヒナは自分の想像が正しいことを確信した。


 だが、同時に疑問もあった。

 仮にレリアスが星喰み(アバドン)の手先だったとして、ピアースと直接取引するような人間がわざわざリスクを取って惑星征服の矢面に立つだろうか?


 実際、ジャーアックとなったレリアスはフォトナイザーに二度敗れ、最後には死亡している。


 それに、トーエイにおける星喰み(アバドン)が先代フォトナイザーという不確定要素によって阻止されたのだとしたら、何故ゲルゲム団の敗北後にフォトナイザーシステムの量産兵器化という話が出てくるのだろう。

 それはまるで「獣魔」と呼ばれる商品に見切りを付けて、「フォトナイザー」を新たな商品として扱っているように感じられる。


 もしレリアスが黒幕なら、敗死した彼女が自らの野望を阻んだフォトナイザーを商品化するとは思えないが……。



 ヒナは13年前の出来事をさらに掘り下げ、ある事に気が付いた。

 ギルド支部が真っ先に占拠され、当時の支部長以下、主要メンバーが軒並み殺害されているにも関わらず、当時支部長補佐であったハッテだけが生き延びている。


 さらに言えばゲルゲム団はその後も警察組織や行政府を制圧しているが、その過程ではギルド支部のような殲滅戦と呼ぶのがふさわしい虐殺は行っていない。

 なら、これが意味するのは……ギルド支部を潰す目論見があったということだ。

 それも、ハッテだけを残して。


 現在ハッテがフォトナイザーの兵器化を進めていることを考えると、導き出される結論は1つ。


 ハッテこそが星喰み(アバドン)のエージェントであり、Dr.レリアスは星喰み(アバドン)に踊らされた犠牲者のひとり。

 ……そう、惑星アーレスにおけるアインツやツヴァイのような兵器開発のために利用された哀れな存在だった可能性だ。



 しかしゲルゲム団の再起とフォトナイザーシステムの量産化は、星喰み(アバドン)の黒幕であるピアースの死後におきた出来事だ。


 ならこれは星喰み(アバドン)の計画というよりも、ハッテがピアースの計画を乗っ取ったと考えるのが妥当だろうか?


 マリエッタが言うにはハッテはフォトナイザーに執心していたようだし、もしかすると「獣魔」プロジェクト時点からフォトナイザーシステムに懸想(・・)していたのかもしれない。

 根拠はないが、ヒナは……ハッテの愛憎入り交じったフォトナイザーへの言動を思い返し、自分の考えが正しいことをなぜか確信した。


 だがハッテを処分するには裏付けが必要だ。

 もしハッテがレリアスの獣魔開発に協力していたのなら資金的な流れがあったはずだが……13年前の記録が残っていることを期待するのは望み薄だろう。

 なにせハッテは支部の幹部を抹殺している可能性が高いのだから、その際に自分にとって不利な資料やログは破棄していると考えるべきだろう。


 なら……フォトナイザーシステム量産計画の資金はどうだろうか?

 そちらなら、まだ追えるかもしれない。

 正義についての迷いを振り払うためにも、立ち止まっているより動いた方がはるかにいい。

 ヒナはそう思いを新たにした。



 ヒナが資金の流れを追っている間に市内で再び強盗事件が発生したが、今回の展開は大きく違った。

 なぜならその場に偶然ケンが居合わせていたからだ。


 市民の目の前で始まるフォトナイザー同士の対決。

 「銃を持つ偽物」と「剣を持つ本物」の違いが白日の下に晒される。


『フォトニック……ブレード!』


 必殺の剣閃が偽物を両断し、トーエイの住民達は、正義の勝利に歓喜した。

 そして倒された(・・・・)偽フォトナイザーの遺体から、その正体が先日ヒナによって捕らわれた身元不明の男とは違い、オーイズミにたむろするギャング組織の構成員だと明らかになった。


 本来、フォトナイザーともギルドとも関係のない男が何故偽物とはいえフォトナイザーシステムを手にしているのか?


 トーエイのメディアは量産型フォトナイザーの存在と合わせて様々な「真相」を書き立てた。

 だが、そんなニュースを目にしたヒナは、一言呟いた。


「……それが、星喰み(アバドン)だから」


 おそらくハッテは「量産型」で満足しているのではない。ヒナはそう感じた。

 3対1の劣勢からケンが量産型に勝利したことはハッテも把握しているはずだ。


 ならギャング達に「量産型」を使わせ、ケンと戦わせる使い捨てのコマにすることでデータを収集、「完成形」を造り出そうとしている可能性が高い。


 ヒナはケンに量産型と戦うことを止めるように忠告すべきか迷った。

 だが、量産型とは言えフォトナイザーシステムは強い。一般の警官隊では相手が出来ない程に。


 コンバットスーツを身につけたギャング達を倒す存在が……正義のヒーロー(フォトナイザー)がいなければ、トーエイの治安は崩壊してしまうかもしれない。


 そう思うと、ヒナはケンに戦いを止めるよう求めることが出来なくなった。


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