#4
自らに向かって近づいてくる量産型フォトナイザーを見据えたヒナは冷静に対処法を吟味した。
量産型と言うだけあってフォトナイザーとそのまがい物はおそらく技術的には同一の存在だ。
ヒナは呆れながらもフォトナイザーの変身プロセス解説をちゃんと聞き、理解していた。
フォトナイザーは母艦から量子通信を受信することでナノスケールのフォトン結晶が装着者の元へ到達する。
となると何かマーカーのようなものが存在しているはず。
ケンと3人、変身前の姿に共通していた装備は?……そう、ベルトのバックルだ。
なら、そのバックルこそがフォトナイザーシステムの弱点であるはず。
一瞬のうちにそう結論づけたヒナは、自分に向かってくる量産型フォトナイザーの前に立ちはだかり、レゾナンスブレードを発振させた。
『どけっ!ぶっ殺すぞ!』
錯乱しているのか、まるで鈍器のように銃を振り上げ大声を上げる量産型フォトナイザーに対して、ヒナは冷静にブレードを構える。
あれがハッテが……ギルドが作った装備なら量子通信モジュールにC3を使っているはず。
そしてC3レシーバーなら共鳴の刃で無効化できる!
低い姿勢で駆けたヒナが突き出したアクアマリンの輝きを放つ光刃は、狙い過たずに量産型フォトナイザーの腰部を刺し貫いた。
動きを止めたまがい物のバックルが小さな火花を散らし……コンバットスーツは光の粒子になって消滅する。
そして凝晶が強制解除された男は、その場に崩れ落ちた。
「……ふぅ」
『驚いたんだぜ!あんた、強いんだな!』
気楽そうにそう言って近づいてきたフォトナイザー……ケンに向かってヒナはブレードを突きつける。
「あなた。人を殺しましたね?」
『あいつらは悪党なんだぜ!それにあんただって』
「ワタシはショックモードで変身を解除させただけ」
そう。ヒナが言うとおり……ケンが倒した男達は両断され息絶えている。
しかしヒナが倒した男は意識こそ失っているが、生きていた。
「変身を解除し、投降しなさい」
『ま、待って欲しいんだぜ!』
「そこの量産型のように、システムを破壊した方がいいですか?」
『フォトナイザーを壊されたら困るんだぜ!』
そう言うとケンはあわてて凝晶を解除した。
ヒナは、ケンの事をハッテが言うような迷惑ヒーローではないと信じていた。
なぜなら、彼女がハッテに見せられた映像の中で、アリサは確かにケンと共闘していたから。
自身が崇拝する女神が味方する相手が悪であるはずがない。ヒナはそう信じ、それ故にハッテの言動を疑った。
だが……ケンの正義は、ヒナが忌避する力による正義そのものだった。
かつて彼女の師であるアレクシスが振るった、力の正義が形を変えてまた眼前に現れたのだとヒナは思った。
「あんた、一体何者なんだぜ……?」
「ワタシはギルドの監察官です。そして、女神の眷属でもあります」
「じゃあ、正義の仲間なんだぜ!」
そう言って握手を求めるケンの手を、ヒナは拒絶した。
「ワタシはあくまでも法に則った正義を尊びます。無軌道な暴力は正義ではありません」
「……言ってることが難しくて良くわからないんだぜ!でも、あんたは師匠の仲間なんだろ?」
ケンの言葉はヒナの正義を揺さぶった。
そう、アリサはケンの正義を認めている。そのことがヒナには理解し難かったのだ。
だが、同時にヒナはケンの正義に憧れのようなものも感じていた。
迷いも揺らぎもない絶対的な正義は、ヒナにとっては望んでも手の届かない遠いものだったから。
しかし同時にその正義は危険なものでもあった。
躊躇いなく敵を討ち、その命を奪うことは取り返しの付かない結果をもたらすかもしれないものだから。
だが、ヒーローショーで見た光景がヒナの疑念をさらに深める。
この星の人々はケンの正義を熱狂的に受け入れている。
つまりケンと彼が象徴する正義は、トーエイの人々に希望を与える存在なのだ。なら、そのケンの行いは……正しいのだろうか?
ヒナは破壊した量産型フォトナイザーのバックルを拾い上げ、黙ってその場を後にした。
その夜、ヒナはアリサに現状報告を行った。
ケンとの邂逅。
ハッテが抱く二心。
量産型フォトナイザーの出現とケンによる討伐。
ヒナの言葉を黙って聞いていたアリサは、一言「判りました」と答えた。
ハッテの処遇と量産型フォトナイザーシステムについては統括局長のメラニー・スゥと協議を行うとアリサは告げ、ギルド支部に対するスタンスは結論が出るまで現状維持だと指示を行う。
ヒナはそんなアリサに、人を殺めるケンの正義の正しさについて聞きたいと思ったが、彼女がそのことを言い出す前に通信は切れた。
ヒナは続けてマリエッタにも連絡を入れた。
量産型フォトナイザーの登場にマリエッタは興奮し、ヒナがバックルを手に入れたことに狂喜乱舞――比喩ではなく文字通り、通信映像の向こうでマリエッタは謎の踊りを踊っていた。
『ヒナっ、それ絶対に頂戴っ!これでわたしも凝晶できるっ!』
「いや……壊れてるよ、これ」
興奮さめやらぬマリエッタからフォトナイザーシステムのことを聞き出したヒナは疑問を抱いた。
本来フォトナイザーは母艦を必要とするはずだが……この量産型はどこから量子指令を送信しているのだろう?
ヒナの疑問にマリエッタがこともなげに答える。
『それ、C3通信で代替してるんだよねっ?ならギルド支部でしょっ!』
「……そっか、それもそうだね」
フォトナイザーの変身システムに母艦を必要とするのは、大がかりな量子通信システムが必要だからだとマリエッタは推測していた。
だがケンの母艦であるステラマリアの持つ量子通信システムはギルドが保有するC3通信システムの劣化コピー版にすぎず、それ故に巨大な船体を必要としてるのだ、と。
実際、ハッテが秘匿していた情報の中にはギルドの通信システムに小型のモジュールを組みこむことでステラマリアの機能を技術的に模倣可能であると記されていたとマリエッタは言う。
量産型フォトナイザーが存在するということは、ギルド製の小型モジュールはすでに完成しているということだろう。
そしてハッテがフォトナイザーシステムを商品化しようとしているのなら、そのモジュールは簡単にC3通信システムにインストールすることが出来るだろうとマリエッタは言った。
「でも、何のために?そりゃ兵器として欲しがる輩はいるかもしれないけど」
『そこまでは判らないかなっ!ゲルゲム団の方はちょっと星喰みぽかったけどっ』
冗談めかしてマリエッタが口にした言葉にヒナの表情がこわばる。
星喰みとは、ヒナとマリエッタが過去に戦った巨大な恒星間犯罪。
自らの利益の為に星を貪り、喰らい尽くす悪夢のような犯罪だ。
ヒナはマリエッタに礼を言い、フォトナイザー誕生の背景を知るためにトーエイで起きた過去の犯罪……ゲルゲム団の蜂起について調査を行う事にした。




