#2
ひとしきりハッテからフォトナイザーに関する状況説明を受けた後、ヒナはハッテが勧めるギルドの宿舎ではなく、あえてトーエイの星都オーイズミに宿を取った。
僅かばかりの手荷物を寝台におき、一息ついたヒナは制服から私服へと着替えて街中へと赴くことにした。
もちろん眼鏡は外し、髪型は普段のものに戻している。
南国風の軽やかな民族衣装を身に纏い微笑みを浮かべたヒナの姿は、変装などしていないというのに先ほどまでの「カイラニ秘書官」とはまるで別人だった。
「さて、と。じゃあ噂のフォトナイザー君に会いに行こうかな……」
正式に宇宙シェリフの称号を得たケン・イチジョウジだったが彼の生活は「戒厳令決戦」の前からあまり変わっていない。
午前中は市中のパトロール。
昼からはアイリスが企画したヒーローショーへの出演。
なにせ宇宙シェリフは名誉称号でしかないため、給与や恩給の類いは出ない。
ケンも人の子であり、生きていくためには金を稼ぐ必要があるのだ。
アイリス達と出会う前は父や祖父の残した遺産とバイトで食いつないでいたケンだったが、正義のヒーローとして認知された今はヒーローショーへの出演で比較的高額なギャラを得ることが出来る。
ケン本人にはあまり喝采願望の類いはないが、それでも人前でフォトナイザーが……父の残した正義が称賛されることは嬉しく思っていた。
なので彼は、今日もオーイズミ郊外の野外講堂で悪との戦いを演じる。
トワが組みこんだ手加減システムを使いながら。
『宇宙シェリフ、フォトナイザー!』
「「「うぉぉ---!」」」
フォトナイザーの情報を得るため、レンタルしたフォトンバイクに跨がって野外講堂で行われていると言うヒーローショーへ向かったヒナは、2つの事実に唖然とした。
まず1つ目はヒーロー本人がショーに出演しているということ。
当初ヒナは「ケン・イチジョウジ役」の役者がステージに立っているのだと思った。
人並み外れた視力を持つヒナは、ステージ後方からでもその役者が資料でみたケンと同じような濃い顔立ちであることに気付いており、無駄にメイク技術が高いのだと思っていた。
だが、その「役者」が右手を高く掲げて裂帛の気合いとともに叫んだ瞬間、それが役者では無くケン本人であることが……光と共に証明された。
「凝晶!」
ステージ上が虹色の光に包まれたかと思うと、次の瞬間そこにはメタリックな輝きを持ったコンバットスーツを身に纏った人影、フォトナイザーがいたから。
《宇宙シェリフ・フォトナイザーがコンバットスーツを凝晶するタイムは僅か1ミリ秒に過ぎない。では凝晶プロセスをもう一度見てみよう!》
「「「見てみよう!」」」
会場内に流れるアナウンスを観客達が唱和しているところを見ると、これはお約束の演出ということなのだろう。
そう、その唱和こそヒナが驚いた2つ目の点だ。
ヒナの認識ではヒーローショーと言うのは子供向けイベントであって、会場にいる大人はあくまでも子供達の付き添いだと思い込んでいた。
だが、今目の前で変身……いや、凝晶だったか?ともあれ、フォトナイザーとなったケンの姿に熱狂しているのは老若男女を問わず、全ての観客だった。
そしてフォトナイザーの変身プロセスについて、熱狂的に……そう、まるで宗教的な文言を唱えるかのように、全観客が一斉に唱和していたのだ。
「なにこれ……こわっ」
トーエイという星の事情を知らず、ケンの戦いの意味をまだ知らないヒナが、思わず小声でそう呟いたのも致し方ないことだろう。
ヒーローショーの後に握手会があることを知ったヒナは、破り取った手帳のページに何事かを走り書きし、握手を待つ列へと並んだ。
列に並ぶのは子供だけではなく、大人も、老人も……観客の殆どが並んでいる。
ヒナはケンとの握手時に、小さく折りたたんだ手帳の切れ端を彼の手のひらに握らせた。
不審げな表情をするケンに綺麗なウインクを決めると、ヒナは足早にその場を離れた。
握手会の後、楽屋へ戻ったケンは、褐色肌の美人から渡されたメモを開いて目を通した。
戒厳令決戦の後、星を去りゆくアリサへの公開告白と、それにつづく公開処刑が惑星全土に生配信されていたこともあり、恋人募集中だと言うことが世間に知れ渡ったケンに対して交際申し込が殺到していた。
とはいえケンが求めているのは自身を正義のヒーローとして憧れの目で見るファンとの出会いではなく、ケン自身が心ときめく相手との出会いだ。
これまでにもさまざまなアプローチでケンの気を引こうとする女性達はいが……走り書きのメモを渡されるというような、古典的でドラマチックな演出は初めてだった。
そこに記されていたのは、時間と場所。そして二人きりで会いたいという言葉だ。
手渡してきた美人のことを思い、ケンは思わず呟いた。
「俺にも春が来たんだぜ!」
だが、指定されたカフェでケンを待っていたのは春ではなく冬だった。
凍えるような冷たい目つきでケンを睨み付ける、褐色肌の美人。
美人であるが故に、冷たい視線の威力が倍増しており、周囲の席に座っていた客達がそそくさと退店するほど、ケンの回りの空気は冷え切っていた。
「それで……?アリサ様に告白した、と?」
「し、師匠はイケてる女だったんだぜ!」
「不敬な!アリサ様は女神ですよ!?」
ヒナはケンの人柄を見極めようと彼を呼び出したが、席に着いて間もなくケンが以前アリサに告白して振られたと唐突に話し出したため、彼女の視線は明らかに猜疑心の色を帯びた。
さらにヒナに呼び出されて嬉しかったと無神経な一言を付け加えたことで、彼への好感度は一気に氷点下まで落ち込んだのだった。
ケンは自分がヒナの地雷を踏み抜いたことに気付いておらず、冷め切った空気に戸惑うばかりだった。
だが、そんな空気はカフェ店内で放送されていたホロニュースによって一変する。
『緊急速報です!先ほどサウスストリート4番街の宝石店に強盗が押し入りました。強盗の姿はフォトナイザー!繰り返します、強盗はフォトナイザーの模様!現在警官隊と銃撃戦になっている模様です!危険ですのでお近くの方は至急退避してください!』
アナウンスと共に、視聴者提供と但し書きが付けられた映像が流れている。
そこには確かにコンバットスーツを身につけた人物が銃で石造りの建物の壁を破壊した上で宝石店へ押し入る姿と、店員を負傷させショーケースに展示されていた宝飾品を奪うシーンが映し出されていた。




