インターミッション『その名はフォトライザー』トーエイ-黒鎧の惑星 #1
《……かくして首領ジャーアックは再び倒れ、ゲルゲム団は今度こそ壊滅した。
だが宇宙の闇は、なおも爪を研いでいる!
たたかえ、フォトナイザー!
まもれ、フォトナイザー!
正義の光を絶やすな――ありがとう、宇宙シェリフ、フォトナイザー!》
深夜の議事堂前でポーズを決める特撮ヒーローの映像と、そこに流れる無駄に熱い音声。
虚ろな目でそれらを視聴していた「彼女」はぽつりと呟いた。
「ワタシ、何を見せられてるんですか?」
時は巻き戻り13日前。
監察部の拠点であるオラクルXVIIIにて、惑星アノインティングおよび惑星アスクレピオスでのミッション報告を行ったヒナは、主と合流すべく航宙船を駆っていた。
だがそんなヒナのもとにアリサ本人からの連絡が入る。
内容は惑星トーエイでの監察依頼。アリサ達が立ち寄ったその惑星でなにやら陰謀の予兆が感じられるが、顔が知られているアリサ達では捜査に支障を来す可能性が高い。
そこで白羽の矢が立ったのが、アリサの専属秘書官にして特命監察官であるヒナだった。
ヒナは年若い女性である上に美人でもある。
監察中の冷たい表情とは逆に、普段の彼女は温厚そうな笑みを絶やさないため、外見から彼女が泣く子も黙るギルドの監察官だと看破できるものはまずいない。
それに今回、ヒナはアリサが行った「任務」の事後処理を行う秘書官としてトーエイを訪れる形となる。
これまでにもヒナは学生や旅行者といった仮面をかぶって惑星を訪れたことがあったが、今回の仮面はヒナ本来のものだ。
『――やはり貴女に任せるしかありません。できますか?』
「はい!お任せ下さい、アリサ様!」
口では快活にそう答えたヒナだったが、本当は一刻も早くアリサ達に合流して命を救って貰ったこと、そして恩寵を与えて貰ったことの感謝を伝えたいと思っていた。
だが、アリサ直々の頼みでは断れる筈もない。
むしろ恩返しができると喜んで任務を引き受けたのだが……。
「ヒナ・カイラニです。シノノメ管理官の秘書官を務めています。残務処理のために派遣されました」
ギルドの制服を身に纏い、ひっつめ髪に伊達眼鏡を掛けたヒナは、どこからどう見ても秘書だった。
ただ、いささか美人すぎる感はあったが……彼女の主は「とんでもない美人」であるアリサだ。
それ故に、トーエイ支部の人間は美人の秘書だから美人、という事実を比較的あっさりと受け入れた。
アリサがこの星で関わった業務の資料を確認したいと申し出たヒナは、会議室へ案内された。
ハッテと名乗った支部長はホロディスプレイを用意し、映像記録を再生すると会議室を退室していった。
不審に思いながら映像を見るヒナ。
はたしてそこに映されていたものは……。
《戒厳令の布告からおよそ1時間半後。市民への外出が禁止されているにも関わらず、国会議事堂へと続く敷地の前には多数の人々が集まっていた――》
――そして話は冒頭へと戻る。
ヒナがアリサから受けた依頼。
それはトーエイ支部内部で兵器開発が行われている可能性の示唆と、その真相究明。
必要であれば開発された兵器の破壊というものだった。
ミッション自体は内部監察の延長線上にあるものだが、問題はその「兵器」の正体だ。
アリサは破壊の可否についてヒナが先入観無しに判断できるよう、最低限の情報しか与えなかった。
それ故にヒナは自身が監察すべき「兵器」の正体を悟り唖然とした。
「このコンバットスーツが?ワタシ、正義のヒーローを監察するんですか……?」
潜入捜査であるにも関わらず、そう漏らしてしまうのは致し方ないことだろう。
コンバットスーツ自体はさして珍しいものではない。
個人用の戦闘装備として、パワーアシスト付きの装甲服やパワードスーツの類はどこの惑星軍にも……なんならギルドにも配備されている。
だが、あくまでもそれらは通常兵器のカテゴリーに属するものだ。
決して天高く叫ぶことで瞬間的に装備できたり、馬鹿威力の必殺技を放てたりするものではない。
1000体にもおよぶバイオ兵器相手に単騎で立ち回り……女神や英雄の助力があったとはいえ、その半数以上を討ち果たすような戦闘力は、通常兵器とは明らかに次元が異なるものだ。
このフォトナイザーというシステムは非武装を装い敵地へ侵入し、深部で強力な武装を展開できる恐るべき兵器。
それもテロリズムに最適な、高い隠密性をもつ兵器だ。
ヒナはアリサがこのフォトナイザーシステムを危険視したのだと理解した。
だが問題はアリサがこの件をギルド内部監察として指示してきたことだ。
それはつまり、このフォトナイザーとギルドに関係がある?
先ほどの映像ではギルドについては一切言及されていなかったが……?
ヒナが今回のミッション背景について黙考していると、会議室の扉が開きハッテが現れた。
「カイラニ秘書官、いかがでしたかな?」
「ええ、とても参考になりました」
「そうでしょうとも。それで、フォトナイザーをどう思われましたかな?」
「このフォトナイザーシステムというものは極めて危険ですね。テロリスト用の装備にも見えます」
「……ほほう」
ハッテの返事には若干の間があり、ヒナを見る彼の目がすっと細まったが、ホロディスプレイを注視していたヒナはそのことに気付かない。
ハッテは微笑みを浮かべると言った。
「ええ、まさに。ちまたではヒーローなどともてはやされていますが、彼は危険人物なのです。いやはや、困ったものですよ。たとえば……」
そう言うとハッテはメディアが報じていたフォトナイザー批判や、行政府が変身禁止条例を審議しているという記事をホロディスプレイに表示してみせた。
しかしそれらの記事が配信されたのは二週間以上前……すなわち「戒厳令決戦」以前で、記事の内容もジャーアックがメディアを操作して流した流言飛語の類いだ。
だがハッテは記事の配信日を表示させず、あたかもフォトナイザーが現在進行形で危険視されているように装った。
記事を読むヒナの端正な眉がひそめられたことを確認し、ハッテはほくそ笑んだ。
「それで、今回秘書官が来られたのはどのような御用向きですか?」
「はい。主の任務報告を作成し、統括局へと提出するためです」
「ああ、シノノメ管理官殿ですな。お美しい方でしたが……報告業務は秘書官に一任されているのですな。高貴なお方は世俗的なお仕事には興味が無いと見えますな。いや、これはしたり」
冗談めかしてそう言ったハッテに、ヒナは冷たい視線を向ける。
アリサが高貴な女神であることは否定しないが、彼女は実務能力も抜群に高いのだ。
実際、ヒナがアリサの秘書官になってからこれまでの間、アリサは業務処理に関してただの一度も秘書官の手を借りたことがないぐらいに。
……もっとも、そのことはヒナのプライドを少なからず傷つけていたのだが。
監察官であるヒナは主観的な感情で他者を評価してはならないと訓練されている。
だが、それでも……ヒナは思う。
このハッテという男は気に入らない、と。




