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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第3部5章『終の海』ヘカテー-星海の惑星
527/538

#21

「あとね」

「ま、まだ何かあるんですか!?」

「今回の交渉だけど……私は休暇中だから、シーラがまとめたことにしておいてくれる?」

「え……?」

「だってこのままだとシーラ、下手すると降格でしょ?けどギルドの大失態を未然に防いだってことにすれば、降格どころか昇進できるかもよ?」

「でもっ、これはアイリスさんの手柄で……!」

「いや、私これ以上昇進したくないし。昇進して役職付きになってオラクルで籠の鳥になるのはごめんだよ」

「アイリスは私と旅をする」


 口出しNGだとは言ってあったんだけど、我慢できなかったのかトワがそう言った。

 うん、でもそれは私も同じ気持ちだよ。

 私とトワ。そしてアリサにマリエッタ。


 みんなでいつまでの旅を続けるためには……私には昇進も手柄も不要だからね。



 ――そして、私がマリナと話をした翌日。

 シーラの報告を受けたバーゼル支部長がラボに姿を現した。彼はかなり青い顔で、シーラから聞いた事実の確認をした上で賠償交渉の書類にサインをしていったらしい。


 「らしい」と言うのは私はその場に立ち会わなかったから。

 トワとボースンさんの3人連れで釣りにいそしんでいたので、交渉についてはマリナからの伝聞だったんだ。

 うん、シーラに手柄を譲る以上、私が交渉の場にいるのはおかしいからね。


 最終的にヘリオス政府はマリナがオリジネーターである事を認めつつ、自治領として現政府が統治を続けることになったそうだ。

 納税についてもこれまで通り老船員の支援のみ。


 ギルド支部については余剰資産となったヘカテー開発用物資をマリナに提供することで今後の納税義務を免除して貰うことになったそうだ。

 ただし海底鉱床の開発は中止になったけどね。

 バーゼル支部長は現地に二等管理官であるアリサが留まっていることを知って事後策の検討をしたいと泣きついてきたと、げんなりした表情のアリサから連絡があった。

 おそらく、統括局への言い訳についてはアリサが何とかしてくれるだろう。


 ともあれ、結局落としどころとしては全てが現状維持ということだ。


 その結果が正しいのかどうかはわからないけど、この件について最終的な決定はヘリオス政府とバーゼル支部長、そしてヘカテーの統治者たるマリナの間で下すべきだと私は思っている。

 うん、それこそ「内政干渉の禁止」ってやつだから――。


「アイリス、引いてる」

「わっ、また大きい!?でももうハンマーヘッドは食べたくないんだけど!?」

「でっかい嬢ちゃん!この海にはマリーンっとかっていう旨い大物もいるらしいぞ!」

「アイリス。マリーン希望」

「いや、希望されても私にはどうしようもないよね!?」


 何度目かの海釣りの最中に物思いにふけっていた私は、大物の気配に現実へと引き戻された。

 妹と、旧友との休日も今日で終わりだ。

 私もトワも連日海に出ていたので随分と日焼けしたけど……まぁ、セレスティエルだから、すぐに元に戻るだろう。


 ちなみに、釣れたのはマリーンではなくハンマーヘッドだった。

 いや、どれだけいるのよ、このサメもどき。



 その日の夕暮れ、私達はヘカテーを去ることした。

 顔見知りになった数人の老船員とボースンさんが港まで見送りに来てくれた。

 笑顔で手を振る老船員達にお礼を言われたけど……私は何もしていない。ただ、現状が維持されただけだからね。


 マリナが操縦するボートへ乗り込む直前。

 トワはボースンさんにしがみつき、小さな声で言った。


「また、会える?」


 ボースンさんはその言葉に応えず、トワの頭を撫で……優しく微笑みながらも首を横に振った。

 トワは一瞬目を伏せたけど……それでも言った。


 いつかまた、大宇宙(おおぞら)のどこかで。


 叶うことの無い再会を希う(こいねがう)別れの言葉。

 だけど、かつて交わしたその儚い約束は、この終の海で果たされた。


 なら……いつかまた、どこかで。


 トワはそう願っているのだろう。


 トワがボートに乗り込んだ後、私もボースンさんとハグを交わし……そして彼だけに聞こえるよう、小声で言った。


「無理させて、ごめんね」

「……なんでぇ、バレてたのか」

「そりゃ、ね。でもありがとう。トワの心を守ってくれて」

「まぁ、年長者としての責務ってやつだ」


 ボースンさんは……おそらく余命あと僅かの身。

 ここ数日も普段通りにしてくれていたけど、折々に苦しそうな表情を浮かべていたことに私は気付いていた。


 でも、彼はトワに心配を掛けまいと苦痛を押し殺して私達に付き合ってくれていたんだ。

 おそらく、私達が来なければもっと早く海へ旅立っていただろうに。


「嬢ちゃん……いや、アイリス」

「はい」

「トワのこと、守ってやってくれよ。あれは間違い無く佳い女になる」

「もちろんだよ。……ね、私は?」

「あんたはもうとっくに佳い女だ。決まってるだろ?」


 そう言って笑うボースンさんと拳を軽く打ち合わせ、私もボートへと乗り込んだ。

 さあヘリオスへ帰ろう。


 家族が……アリサとマリエッタが、待っている。



今回はもう1話短い更新があります

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