#20
>>Iris
私の爆弾発言にシーラは固まってしまった。
だけど、HLVと試掘の両方を一度に止めるにはこういうのが一番効果的だからね。
十数秒固まっていたシーラが私の「忠告」に従い慌てて各所に連絡を入れるのを見ながら、私は出張所の建物に向かって歩き始めた。
トワは周囲の様子……おそらくC3の物色をしながら、シーラは焦った様子で私の後を付いてくる。
うん、こういう政治的な所は本当ならアリサに任せたいんだけど……まさかこのためだけに待機中のあの子を呼び出すわけにもいかないからね。
私とトワが始めたことだから、私達2人でちゃんとけりをつけよう。
出張所の応接室に入った私達は、冷や汗を流しながら少し震えているシーラと対面してソファに腰掛けた。
ちょっと驚かせすぎたかな……そう反省しながら、私は口を開く。
「シーラ、突然のことで悪いけど、ヘカテーへの進出はギルド憲章に違反することが判ったの」
「憲章!?……ど、どの条項ですか?環境基準の部分は新型の採掘機械でクリアしているはずですし、騒音問題も周囲に居住者がいませんし……」
「もっと根源の部分。ギルド憲章第1条第1項」
「えっ……それって、内政干渉の……?でも、この星は統治者がいないはずです!」
私の指摘にシーラはそう反論する。
うん、そうだよね。ヘリオス政府、ひいてはギルド支部の見解は「ヘカテーは未開の惑星で統治者が存在しない」と言うことになっているから。
私はそんなシーラにこの星にはオリジネーターが存在することを告げた。
「機族……あのマリナというヒトですか!?」
「そう。彼女がこの星のオリジネーター……つまり統治者だったの」
「でも、ヘリオス政府の見解では……」
「シーラ、聞いて。マリナはヘリオスへ人間が入植する前からここにいたの。そして、マリナは……ヘリオスの発見者でもあるの」
「それって……!」
さすが若くして主任になっただけあってシーラも頭の回転が速いようだ。
私の告げた事実……すなわち、ヘリオス政府がマリナの統治権を侵害する海賊政府であったという事に思い当たったのだろう。顔面蒼白になって絶句してしまった。
そんな彼女を少し気の毒に思いながら私は言葉を続ける。
「でも、ギリギリで止める事ができた。もしこの星からC3を持ち出していたら、内政干渉だけじゃなくて、資源強奪の罪まで成立してしまうとこだった。でも……」
「は、はい。まだ積み込んだだけで搬出はしていません!でも、アイリスさん、どうしてあのマリナって言うヒトがオリジネーターとして登録されていないんですか!?支部でも権利関係はちゃんと確認しましたよ!?」
シーラの言うことももっともだ。
私はシーラに対してマリナがオリジネーター制度が制定される以前にすでにヘカテーとヘリオスを発見していたこと。
そしてマリナの報告した情報がクレリスの大図書館に彼女の名前と共に公式の記録として保存されていることを告げた。
公的記録に残っている以上、この件についてヘリオス政府もギルド支部も抗弁することは不可能だ。
「そんなことが……!じゃあ、私達ヘリオス支部はみんな、ぜ、ゼロ……いや、死にたくない……!」
「落ち着いて、シーラ。まだ挽回する方法があるの」
「なんですか!?どんなことでもします!だから処刑しないでください!アイリスさん、命だけは助けてください……!」
いや、私は別にシーラを処刑しに来た訳じゃないんだけどね……。やや錯乱気味のシーラを落ち着かせてから、私は告げた。
内政干渉は監察官や司法権を持つ幹部の目の前でやらかした言い逃れできないケースは別として、基本的には統治者からの親告によって認定される。
つまり、マリナがこの件について事を荒立てようとしなければ穏便に解決することが出来るんだ。ただ、権利侵害に対する補償は当然必要になるけどね。
そしてギルドには「ギルドメンバーは無償奉仕を行ってはいけない、必ず報酬は受け取るべし」というルールがある。
これは要するに等価交換の原理で、貢献に対しては対価を求めるということなんだけど……同じ理念に照らせば損害に対しては賠償を、と言う意味にもなるんだ。
まぁこれ、一般的にはギルドのアフターフォローは万全に、というモットーとして認識されてるんだけどね。
実際、つい最近アフターフォローでかり出された私が言うんだから間違いない。
「じ、じゃあ、お金で解決できるんですか!?」
「そうだけど、もう少しオブラートに包もうよ」
「ならっ……あれ?でも……」
私の言葉にシーラは期待に一瞬目を輝かせたかと思うと、何事かを考えてまた蒼白な顔になる。
うん、何を考えているかは判るよ。きっと賠償で済むなら助かったと思った直後に、賠償金額の大きさを想像して人生を悲観したんだろうね。
でも私の目的はシーラを虐めることじゃない。今回の問題を穏便に……マリナだけでなく、シーラにも、ヘリオス支部にヘリオスの政府にも傷が残らないように解決することだから。
「それで賠償についてなんだけど、実はこの星にある灯台がトラブルを抱えててね。割と大きなC3が必要になるんだけど……。トワ?目星はついた?」
「うん」
実はさっきからトワが窓の外、HLVのあたりをじっと見ていたことに気が付いていたんだ。
この子の事だから、灯台に使えるC3を物色しているんだろうと思っていたけど、正解だったようだ。
「シーラ、今回の試掘についてはマリナさんの側からの依頼でヘカテーの灯台を修理するために、現地資源をギルドの協力によって採掘したって形で処理しようと思うんだけど、どうかな?」
「そ、それでいいんですか!?持ち出せないものですから、お返しするのは当然ですけど……!」
「露天掘りならともかく、海底鉱床だから採掘にはギルドの技術力が必須だったでしょ?その労力分を賠償額に加算して評価して貰うよ」
「はい、そう処理頂けるなら!あっ……でも……」
返事の後に言いよどむシーラ。何を気にしているのかは判る。一昨日聞いた、新しく設置予定の軌道ステーションと軌道エレベータのことだろうね。
この手の機材は基本的に注文生産なんだけど、出張所建設がここまで進んでいるということはおそらく既に資材はヘリオスへ到着しているはず。
今からキャンセルすることは出来ないし、かといって支部が余剰備品として保管するには軌道ステーションは大荷物すぎる。
それにこんな不良在庫を抱えていたら、ヘリオス支部が統括局に内密に開発計画を進めていたこと……それも最悪の場合は内政干渉になり得る案件だったことが発覚してしまう。
もしそうなったらシーラが望んでいた出世どころか降格、下手をしたらギルドから追放されかねないからね。
「新軌道ステーションの件なんだけどね、これからバーゼル支部長やヘリオス政府と協議する必要はあるんだけど……納税分って事にしようと思ってるんだ」
「納税……ですか?」
「そう。ヘリオスもマリナの星だからね。彼女は統治者として税収を受ける権利があるんだよ。ヘリオスからは船乗り支援のための物資がこれまでずっと定期的に送られていて、マリナはそれで満足していたらしいから政府分の納税はそれで相殺。でもギルドは……これまで船乗りの支援、してなかったよね?」
「……たぶん……。はい」
「まぁ、支部開設から1000年ぐらい経ってると思うから、1000年分まとめ払いだと思えば軌道ステーションと軌道エレベータを提供してもバチはあたらないでしょ?」
まぁ我ながらかなり強引な立て付けだとは思うけど。行き場を失った資材が後の火種になり得るなら、あるべき所へ配置するのがベターな解決策だろう。
もちろん軌道ステーションが置かれるのはイゾラではなくラボの上空。つまり、マリナの旧型ステーションをリプレースする形になるんだけどね。




