#19
>>Towa
調べ物をしてきたアイリスがマリナと何か難しい話をしている。
統治権がどうとか、委任がどうとか。
正直私には良くわからないし、興味もない話だ。なので、私はさっきアイリスが席を外している間にマリナから聞いた灯台の様子を見に行くことにした。
一昨日の夜、丘の上から灯台を見ていて思ったんだけど……ヘカテーの灯台って思ったより明るくなかったんだよね。
ホロムービーで見た灯台はもっと明るかったのに。マリナにそう言うと、少し困ったような声で実は灯台のメンテナンスが出来ていないって言われたんだ。
機械的な不調はマリナにも直せるらしいけど、問題は光源部分に使っているC3。
1000年以上潮風に晒されていたせいか傷が沢山付いて、光の出力が落ちているらしいんだよ。
統治とか自治とかは専門外だけど、C3の話なら私の専門だからね。マリナには美味しいご飯を食べさせて貰ったし、少しは恩返ししておきたいと思ったんだ。
それに……灯台って映像ではみたことあるけど、実際に上ったこと無かったから、中を見てみたかったっていうのもあるんだけど。
狭い塔の内部をぐるぐると回るように上ったせいで少し目が回りそうになったけど、ようやく灯台の上部に到達した。
パブの建物同様この灯台もマリナの手作りらしくて、余計な装飾とかは無いけど堅実な造りになってるようだ。
こういうのもDIYっていうのかな?
問題のC3は灯台の最上部に設置されていた。周囲をくるくると反射鏡が回るような構造になっていて、その中心に割と大きめのC3が設置されている。
近づいて触ってみると表面がざらざらになっているような感覚があった。
色自体は蒼の筈なんだけど、触って感じるランクと色味が合わない気がする。退色しているっていうより……これは色が濁ってる?
所々クラックも入ってるみたいだし、これは再調律でどうにかなる感じじゃなさそうだ。
このC3には悪いけど、たぶんこのままじゃ再生は不可能だから痛んだ表面をカットして、二回りぐらい小さなC3にして、他の用途で再生するぐらいしか使い道が無いんじゃないかな。
他の用途……そうだ、良いことを思いついた!
確か使える部品がアルカンシェルにあったはず!
……けど、他の用途はともかく灯台の修理には新しいC3が必要になるね。
アルカンシェルにもいくつかC3を積んでるけど、さすがに大きなものは持ち歩いていないし。
そう思った私は、昨日イゾラにあるギルドの出張所で見た光景を思い出した。
なんでも試掘が始まっているとかで、少数だけど出張所にC3が置かれていたっけ。あの中に丁度灯台用に使えそうなサイズのものがあった気がする。
「もらいに行こう」
うん。そうしよう。あそこの出張所は海の平穏を乱してるからね。
迷惑料代わりに徴発しても文句は言われないだろう。
だた、いきなり出張所へいって強奪してくると後でアイリスに怒られそうだから、一応お姉ちゃんに話だけは通して置いた方がいいだろう。
そう考えた私は灯台を降りてパブへと向ったんだけど……登りよりも下りの方が目がクラクラすることを身をもって体感した
アイリスとマリナはいつの間にかパブの1階へ移動して話をしていた。
お茶が置いてあるところを見ると、長話になるから移動してきたのかな。マリナの表情は変わらないけど、アイリスの顔は随分と難しい顔になっていて美少女が台無しだ。
あ、でも私がこれからC3をもらいに行くっていう話をしたらもっと眉をひそめちゃうかな?
そう思いながらも私はアイリスに灯台の件と、C3を徴発しに行くことを切り出した。
「C3を徴発……?」
「うん。丁度良いのがあった気がする」
「……そっか、それはいいね」
「いいの?」
あれ?思っていたよりもあっさりと許可が出た。
てっきり何馬鹿なこと言ってるの!って怒られると思ったんだけど。
「マリナ、さっきの件だけど……私に交渉の全権を委任してもらないかな?悪いようにはしないよ」
「どちらにせよ、このままだと退去になりますので、これ以上悪くはならないと思います」
「だね。でも現状維持と、プラスαをもぎ取れるようにがんばってくるよ」
「わかりました。ではアイリスさんに交渉の全権を委任します。吉報をお待ちしております」
「うん、任された。トワ、行こうか」
「うん。でも解せぬ」
良くわからないけど、アイリスはギルドの出張所に何かを交渉しに行くらしい。
あ、C3を貰えるように交渉するのかな?でも迷惑料代わりだから、交渉して譲って貰うというより、有無を言わさず持って行く方が正解のような気はするけど。
前回は私の操縦だったけど、今回はアイリスの操縦でイゾラへ向かうことになった。
同じタイミングでライセンスを取って、私の方が頻繁にブリーズを乗り回してたはずなのにどうしてアイリスの操縦の方が滑らかなんだろうか。
「いや、トワの操縦って結構大雑把でしょ?ライセンススクールで教官に指摘されてたじゃない。センスはいいけどもう少し慎重に、って」
「何も言ってないのに。解せぬ」
いつも通り考えを読まれ、そして先回りして回答された。
まぁ私はエアロプレーンなんて事故せずに飛んで、目的地に着けばそれでOKだと思うんだけどね。
「そういう姿勢だから雑なんだよ、トワは」
「アイリス、絶対に考え読んでる」
「いや、今のは口に出してたよ?」
あれ?そうだっけ。
そんな事を言っている間に、イゾラが見えてきた。アイリスは操縦しながら器用に通信を入れて、着陸許可を取り付けている。
見ると朝方降りてきたHLVがまだ駐機場に止まっていた。
一昨日はヘリオスからの荷物を運び込むだけだったけど、今は試掘したC3の積み込みでもしてるんだろうか。持って行かれる前に徴発しないと。
着陸態勢に入った頃、アイリスが私に言った。
「トワ、これから少しデリケートな交渉をするから、理不尽だと思っても口出しするのをしばらく我慢してくれる?」
「……わかった。後で文句を言う」
「文句が出ないように、がんばって交渉まとめるよ」
そう言って笑って見せたアイリスの顔は、さっきパブで見た難しい顔とはちがって本当に自然な笑顔だった。
これは……きっと何か勝算があるんだろうね。
駐機場に降り立った私達を、一昨日と同じシーラっていう主任が出迎えてくれた。ここの責任者だと言ってた気がするけど、暇なんだろうか?
いや、まだ業務は何もないから暇なのか。私がそう思っていると、アイリスが急に深刻な顔をして言った。
「シーラ、大変な事が判ったの!作業を一旦全て止めて。このままだと支部全体が0号処分になりかねない!」
「ぜ、ぜ、ゼロ……!?」
シーラが目を丸くして絶句している。
一体何が始まるんだろう?




