#16
>>Iris
やっぱりトワは凄い。私が悩んでいるといつも何気ない一言で解決のヒントをくれる。
今回もそうだった。
私はギルドによるヘカテー開拓に法的な瑕疵が無いかを確認していたけど、さすがに広域支部の事業だけあって法的にグレーな部分は存在していなかった。
シーラが言っていた既存ステーションの撤去についても多くの惑星やギルドが定めてい安全基準に基づく話で、どこからアプローチすれば良いのか皆目見当も付かなかったのに。
けど、トワはシンプルに言った。
「ここは、マリナの星なのに」
そう。このヘカテーがマリナの星なら?それが事実なら話は違ってくる。
私はヘリオス支部で聞いたヘカテーが開発を放棄されているという話と、この星に行政府がないという事実からヘカテーが誰にも所有されていない惑星だと考えていた。
実際にヘリオスや近隣惑星、ギルドのデータベースにおいてもヘリオスは未入植の惑星という扱いになっていて、この状態であればギルドが出張所を建造し、C3の採掘事業に乗り出すことには何の問題もありはしなかった。
だけど実際にはマリナは1200年以上前からこの星に住んでいる。
つまり、マリナはヘカテーの最初の入植者なんだ。
ヘカテーにはマリナの私物だという軌道ステーションや軌道エレベータが設置されている。そして地上に存在する唯一の公共拠点であるパブもまた、マリナの手によって運営が行われている。
それはすなわち惑星の統治がマリナの手によって行われていることに他ならない。
つまり、このヘカテーはトワが言ったように法的な意味でも文字通り「マリナの星」なんだ。
これが意味するのは……ギルドがマリナの許可無く採掘拠点を置こうとする行為が、ギルド憲章で禁じられている「内政干渉」にあたるということだ。
内政干渉の禁止はギルド憲章第1条第1項に最優先事項として記されており、意図的にこれに反したギルド関係者に対する処罰は0号処分、すなわち処刑のみ。
そう、かつてこの原則を破って惑星ペレジスを私物化した自称ギルド伯……ベルンハルトを私が0号処分したときのように。
ギルドがそれほどにまで内政干渉を禁じるのは、ひとえにギルドが持つ社会的、経済的な影響力が大きすぎるからに他ならない。
ギルドがその気になれば一つの……いや複数の惑星を制圧、支配することはたやすいだろう。
だけどギルドが力ずくで惑星を侵略する組織だということが周知されたら?
他の星々はおそらく連合を組んでギルドに対抗することになるだろう。
いかにギルドがC3という文明社会の生命線を握っているとはいえ、ギルド職員の総数はギルドと無縁な人間に比べると圧倒的に少なく、全面的な戦争になればギルドが敗北するのは必至だ。
だからこそ、そのような事態を招かないためにもギルドはいかなる場合も内政に干渉せず、中立の原則を最優先事項として掲げている。
それ故にヘカテーがマリナの星であることを証明できれば、ギルドはこの星から手を引かざるを得なくなる。
年老いた船乗り達に寄り添い、死出の旅立ちを静かに見送るマリナが終の海を乱すようなことを承認するとは思えないからね。
ただ、問題が一つある。それはマリナがこの星のオリジネーターだと認識されていないという事実だ。
もちろんマリナが個人であることや機族であることは彼女がオリジネーターとして認められていない理由にはなり得ない。
機族は人間種族と完全に同等の権利を持つし、惑星の統治権を持つオリジネーターは企業や団体、個人など様々な形があるからね。
私達が先日訪れたアノインティングはセレスセラと言う企業が開拓を主導し、現在でも統治を行っている。
アリサの故郷であるペレジスは後に四大名家と呼ばれることになる資産家達によって開拓された惑星だ。
複数かつ対等な立場のオリジネーターがいたことから、ペレジスで興された行政機関では評議会制が導入され、大統領や王といった明確な個人としての指導者や統治者は存在していない……はずだった。
だけどアリサはあの星の統治者として扱われていたけどね。
私はその話を聞いた時、アリサが内政干渉をやらかしたのではないかと焦った。
でも彼女の実家であるシノノメ家は四大名家のうちの一つだし、アリサの母親であるマリエルさんの実家はもう一つの四大名家であるプランタジネット家の出身だった。
つまりアリサはオリジネーターの血脈に連なるもの。それも二つの血筋に連なる、いわばペレジスの「姫」のような立場だったんだ。
その上アリサはギルド支部長も兼ねていた訳だから……そりゃペレジスの住民から見れば絶対的な統治者に見えるよね。
おまけにアリサはテロマーという永遠性を持つ存在でもある訳だし。
政界からも支部運営からも身を引いた今でもアリサのことを閣下と呼ぶ人が多いというのも、ある意味当然なのかもしれない。
そして……惑星チューリング。あそこはファルナスという一介のトレーダーがオリジネーターであり、彼が展開するビジネスこそがあの星の掟だった。
もっとも先日確認したところではファルナスはレジャーハンティング事業を中止したらしく、チューリングそのものからも手を引く予定たと報じられていた。
結果としてあの星にはオリジネーターがいなくなり、出張所を構えていたギルドが直轄地化して管理する方向で話が進んでいるそうだ。
また、かつて私達が訪れたヴェリザン。あの惑星は疫病の拡大に恐れをなした大統領府が星外逃亡を図り、無政府状態に陥った。
後に混乱の中でも踏みとどまって治安を維持していた治安当局が暫定政権を発足させ、その後は正当政府として惑星再建に尽力したと聞く。
つまりオリジネーターが統治権を維持出来なくなったり、統治を放棄した場合は統治権は第三者に移管されることもあるわけなんだけど……。




